episode36
「……兄さん痩せた?」
目を覚ましたフェリシアの最初の言葉がそれだった
手を握られていることから自分のことを夜通し心配していたのが容易にわかった、わかった上でその心配を晴らすための軽口だ
「……父さんから連絡が来た時は生きた心地がしなかったよ、……気をつけろなんて言っても仕方ないけどさ、……生きて帰ってきてくれてありがとう…!」
「泣かないてくれよ兄さん…どうしたらいいのかわからないよ」
アドルフの手を握る力の強さがどれだけ心配していたかをフェリシアに伝える
いつものフェリシアだったらこんな時は手品を披露して笑わそうとするのだが今だけはどうにもそんな気持ちにはなれなかった、この気持ちを躱さずに受け止めるべきだと考えた
アドルフが落ち着いたのを見て、疑問に思っていたことを口に出す
「ボクと一緒にここに来た兵士さんはどこにいるんだい?」
隣の空いているベットにシャーレがいない理由を尋ねた、一緒に来たのだから隣の空いているベッドに眠っていてもおかしくないはずだと
自分が寝ようと横になった時も、木にもたれて眠るふりで見張りをし、決して警戒を怠らずにご飯も自分に多く分けていろいろと確実に自分よりも疲れているだろうと
けれどアドルフは気まずそうな顔をした
「あぁ…実はな、シャーレはラングレイ大佐と合流してすでに戦地に向かってしまった」
「……え?ご、ごめんどうにもボクのお耳は壊れたらしい、もう一度教えてくれないかい?」
アドルフの言葉は一言一句聞こえたが何かの間違いかと思い聞き返す
そんなことがあり得るかと
「怪我してたじゃないか、もしかして一週間くらいボクは寝てたのかい?」
「あいにくお前はこのベッドに一日しかお世話になってない、私もラングレイ大佐も止めたんだがな、…あ、ラングレイ大佐は彼の上官だ。だが大佐が動かないといけない状況なのにそんなことに時間を使えるかって」
「……お別れの言葉も無しなのかい…」
一週間近く一緒に旅をしたというのにと心の中で愚痴り、貰ったお守りを握るフェリシア、その姿を見てアドルフは一つ用事を思い出した
「あ、シャーレからの伝言だ、“戦争が終わったらショーを見に行く”ってさ」
「……わお、随分とドラマチックな伝言だね」
自分に伝言を残していたシャーレ、忙しいとはいえできれば少し喋りたかったしお礼も言いたかったとも思うフェリシア
しかしそんな思いはすぐに吹き飛んだ
「実のところあいつとはかなり昔からの付き合いでな、少し柔らかくなったと思ったら戦争が始まってまた擦り切れて、いつ潰れてもおかしくないやつだったんけど昨日顔を見たらそんな考えもすぐに吹き飛んだ、……やっぱり私の自慢の妹だ」
「––ッ!?え、……えへへ…」
ぐしゃぐしゃと自分の頭を撫でるアドルフにフェリシアは溢れでるような笑いを見せた
ーー
トラックに装甲を貼っただけの装甲車に揺られ、シャーレは酔わないようにと覗き穴から横目にちらりと外を眺める
面白い景色というわけではない、時々映る花くらいしか変化のない地面の露出した植物の生えていない大地、時折大きく揺れるのがそれをわかりやすく示している
「……あんた、少し雰囲気が丸くなったわね」
「本当だね、疲れてるはずなのになんかね?」
「なにかいいことでもあったのか?」
三人が口々にシャーレを見た感想を口にする
それを聞いてシャーレは自分の口元が少し緩んでいるのことに気づいて咄嗟に隠し、すぐに別段隠すことでもないと思って少し伸びをした
「戦う理由を再確認できたんだ、それに終戦後にやりたいこともできた」
「いいことじゃない、今のあんたはなんだか安心して見れるわ」
ティアは前までの死ぬのを厭わないほど擦り切れたシャーレが前向きな感情を抱けていることに安堵した




