episode 34
シャーレは直感で死を悟る
「“鉱石を飛ばす魔術”っ!」
(バカか私は!当然異能者に決まってたのに、無警戒だった!)
明らかな失態、シャーレは自分の命を諦めせめてフェリシアだけでも無事に国に帰すために、確実にアラクを道連れにすることを選ぶ
「楽に死ねると思うな、––ハーレクインの瞳…」
シャーレの瞳がアラクを捉える、自分に向かって飛んでくる“鉱石を飛ばす魔術”に覚悟を決めながら笑う、しかしその視界の隅にオレンジ色の物体が映った
「さぁ〜せるぅっか!!」
フェリシアがシャーレに飛びかかり、勢いよく地面を転がった
密着したシャーレに聞こえるほどフェリシアの心臓が大きく跳ねている、無我夢中だったのかアドレナリンが出て完全にハイになっており笑いが止まらなくなっていた
「はは……、はーっはっは!み、見たかぁ!?稀代の奇術師には初めて見せる仕掛けでも見切られるんだよ!」
すぐに立ち上がりフェリシアを背中に隠すシャーレ、しかしその体はすでにボロボロだった
致命傷は避けていたとはいえかなりの数の“鉱石を飛ばす魔術”がえぐっており、その一つが頭を掠めたことによる出血、それが戦闘の熱が引いたことにより一気にシャーレの体を喰い破った
(……やってしまった、もとよりほとんど見えてなかった右目に加えて出血のせいで頭痛と耳鳴りが酷い、……決め損ねてしまった)
助かった命をどう使うかを考えるシャーレ、しかしアラクも同じだった
裂かれた腹に切り落とされた右腕、血は止まらずもしこの戦いを制したとしても少しでも長引けば神聖魔術を使ったとしても到底間に合わない、出血死がすぐそこまで迫っている事を理解していた
(やらかした、まさか嬢ちゃんに奥の手が見破られるとはな…、先に殺すべきだったな、……どうする?止血しようにも確実に咎められる…)
「……ボクを無視するのかい!?今凄い格好いいこと言ってたじゃないか…よ、もう少しボクを褒めるか注目してくれてもいいじゃないか、」
ほんの少しでも隙を見せたら一瞬でどちらかが死ぬ駆け引きを何百を繰り返しているシャーレ達、その二人の雰囲気に全く合わないフェリシアの声と共にシャーレは勝負を仕掛けた
(勝負を焦ったな!)
「“鉱石を飛ばすっ––」
「––奇跡をご覧あれ!!」
アラクの視線を遮るようにトランプが大量に飛んできて、その全てが瞬きの間に花に変わった、歴戦の魔術師のアラクだったが追い詰められているこの状況、殺し合いに似合わない花に気を取られた
(はぁ…な?……––っ!?やられたっ!!)
ギリギリでシャーレが牽制で投げた刀を避け体勢を崩したところを組み伏せられた
ナイフを首筋に突き立てるシャーレに抵抗を考えたアラクだったがすぐに諦め両手をゆっくりと上げてから懐のタバコを取り出した
「……最後に一服、いいかい?」
「いいや、残念だけど君の命もタバコも私のものだ」
そう言いシャーレは箱ごとタバコを奪い、火をつけアラクの上から降りてタバコを味わい始めた、その様子にアラクは酷く驚く
「……どういうことだ?」
自分の拘束を解いたシャーレにアラクは意図を尋ねる、さっさと自分にトドメをさせよと、その言葉にシャーレは呆れた笑いを返す
「彼女の将来の夢はなんだと思う?」
なぜか小鳥に頭を突かれているフェリシアを指してシャーレは問いかける
全く違う性格だというのにその姿はアラクに自分の娘を連想させた
「……俺の娘は仕立て屋を目指してるぞ」
「実のところ手品師でも奇術師でもなんでも良くて、どうやら人を笑顔にしたいんだってさ、歳もまだ十四、誰かを笑顔にするために練習した手品で人から永遠に笑顔を奪う手助けをさせれるか、……それにその選択がいつか必要になるとはいえまだ早い」
アラクはいい表せない感覚になった、たった今まで自分を確実に殺そうと、なんの忌避感も感じず殺そうとしていた目の前の青年に自分の娘の夢を教えるという考えたこともなかったのだ
(………)
少し考えた後にアラクはシャーレの傷を治した、そして魔術を使い時間をかけずに自分の部下の死体を埋葬し祈りを捧げた
「完敗だ、それに情けないことにお前の話を聞いたら娘に会いたくなった、仕立てた服も着てみたい、…そのチャンスをくれてありがとう」
そう言って森の中に消えていくアラク、その後ろ姿を見て少し後悔したように見えていたフェリシアは少し気の抜けた顔を見せた
「シャーレ、ケガは大丈夫……って治ってるね、……それもおじさんも生きてるし」
「そうだな」
タバコの火を消し立ち上がるシャーレ、フェリシアはその後ろをついて行った




