episode31
「……まずいかもしれない」
スバルはたった今届いた情報についてそんな感想を漏らした
そしてすぐさま失言だったことに気づく
「っ!何がまずいの!?」
ノアとティアが食いついた
魔道具の暴走によって転移させられたシャーレについて色々邪推させてしまう一言だったと反省する、今ここで無駄に神経をすり減らしたくないのだ
だがどうだろうかとも悩む、この情報は今すぐ共有しておいた方がいいのかもしれない、いややはり共有しておいた方がいいだろう
「七賢者をドレイブン戦線で目撃したそうだ、第一位、第三位、第四位の三人を」
「えっ!七賢者ってあれじゃないの?十数年前の戦争でラングレイ先生の左眼を奪った集団でしょ、やばいんじゃないの?」
アカシアの家の生徒時代の頃に散々聞かされた教訓を思い出す
七賢者には関わるな、先生の口癖だ
現代を生きる唯一の魔術師、基本的に王の側から離れることがないはずだが時折戦場に顔を出しては甚大な被害を敵軍に喰らわせる化け物集団、絶対に戦場では顔を合わしたくない相手だ
「そのせいで先生も戦地に来ることになるかもしれないらしい」
「先生が?……強いのは知ってるけど戦えるの?体もボロボロじゃんか」
「馬鹿、それくらいヤバイのよ」
スバルは二人に隠れてシャーレに無線を送る
しかし繋がらないことに隠してはいるが焦燥を感じる
(……頼むよ、繋がってくれ!)
二人には伝えなかったがスバルがまずいと言ったのは正確には七賢者とラングレイのことについてでは無い
(哨戒中の第三位率いる魔道部隊が君の近くで発見されたんだよ!)
しかしシャーレが無線に応答することはなかった
ーー
ドレイブン戦線の塹壕戦は昼夜銃撃音が鳴り止まないだけではなく塹壕を整備したり有刺鉄線を貼ったり切ったり、砲撃が飛んできたり、爆撃が起きたり、そのため昨日顔を合わして少し喋った相手が今日の朝には死体になっていることが日常だった
アウル班がドレイブン戦線にいた頃とは打って変わっての塹壕戦、たった1m前線を押し上げるためだげに数百人以上の命が散るのはなんら不思議なことではなかった
当然その分の人員の補充は為され、その皺寄せは新兵に行くことになった
新兵は消耗の激しい最前線へと送られることになり碌に経験を積むことなく日常に確かな死を感じることになる
「着剣ッ突撃だァ!!」
一番ひどかったのが一斉突撃だった
遮蔽物が存在しない無人地帯を砲弾の雨を受けながら走り抜ける、そのほとんどは新兵で構成されている
死体の横で泥とシラミと共に眠る、砲撃の音に心を蝕まれ銃剣で敵を刺す感触が残る手で食事を取る
そんな世界で新兵の名前が覚えられることは活力に満ちた新兵くらい少なかった
「レタニラ・グックです、少尉」
「あぁ、そうだったな、レタニラ、俺は初めてお前を見た時二日持たずに死ぬかあぁなると思ってたが一週間が経った」
少尉と呼ばれた男は顔から蛆が湧いている生きているかわからない死体のような男を指す、きっと胸が上下に動いているからまだ死んではいない、ただそれだけの兵士だった
レタニラと名乗った青年も心を失った人間というものをこの戦場に来てから初めて見た、けれど納得が行った、そしていつか自分もこうなるのだろうとも思った
「百人に一人くらいお前みたいに生き残––っ…」
少尉の頭が弾け飛んだ
レタニラがたった今自分の正面に座っていた上官の頭を貫き地面に刺さったそれを見る、岩石だった、先を尖らせた、少し熱を帯びていて赤くなっている鉱石のような岩石
(……)
特に何も感じることなく自分の顔についた血を拭う
そして何かを悟ったように顔を上げる
「…………お母さん、産ん––っ」
眼前に迫る自分の上官を貫いた岩石
それに顔面を抉られながらレタニラは家族を想った
ちなみに
北西戦線はドレイブン戦線を指してる、国内の人は北西戦線と呼んで戦地にいる人はドレイブン戦線って呼ぶけど別にその通りじゃない人もたくさんいる
あと描写されてないけど実は西側では上陸戦が行われてる




