前日譚3
カーテンから差し込む西陽に熱を感じてシャーレが目を覚ます
「……?」
驚きと困惑で思考が埋まる
ベットで目が覚めるなんてことなんて久しぶりだからだ
「……目が覚めたか」
声をかけられて体を起こすとラングレイが隣で本を読んで待っていたのだ
小さく伸びをして足を組み直してシャーレに視線を向ける
「一応だが今お前が使っているベットは俺のベットだ」
敵意がないことを伝えようとしたのかラングレイがそんなことを告げる
その意図を汲んでシャーレも話だけは聞いてやろうと開き直りベットの上であぐらを組む
「ご飯は?」
堂々と、そして図々しくも食事を要求するシャーレ
それに呆れつつもひとまず先に自己紹介だと立ち上がる
「エリーシェ王国陸軍大佐ロッド・ラングレイだ、すでに前線から離れて今は後進を育てるのに尽力している老兵だ、お前の名前は?」
「シャーレ・ハーレクイン、エルフィン王朝第三位ハーレクインの血筋の者さ」
思ってたよりも大物だったことにラングレイが驚く
エルフの国のような役割を果たしているエルフィン大森林、あまりエルフの爵位に詳しいわけではないラングレイでもわかるほど高貴な血筋だったことにだ
しかしなぜこんなところにいるのかと口をひらこうとしたラングレイよりも先にシャーレが口を開く
「しかし僕の父は後継者争いで敗北し軟禁の後に原因不明の死を迎え、その後僕は表向きには死んだことにされ売られたってわけ、資格もない癖に力に固執するなんてなんとも恥ずかしい奴らだ」
「資格とは?」
おそらく血筋の話ではないのだろうと思いラングレイが尋ねる
それを面倒くさそうな顔をしつつも自分の眼をさす
「銀のアーサー、緑のマーリン、赤のハーレクインというように資格のあるものは魔力を滾らすと瞳が染まるんだ」
いうようにと言われても聞いたこともないためなんとも言えない顔をするラングレイ
そうは思いつつも赤に染まった瞳を不思議そうに覗き込むラングレイ
そんな奇妙な状況に二人とも気まずさを覚え始めたところに助け舟が出された
「やっぱり面白い生態だな、解剖してもいいか?」
白衣を靡かせながらベットの横に備え付けられた机に粥が置かれる
そしてコップに水を注いでからベットに座り込むシャガール
「シャガール、……なんだこれは?俺が買ってきた肉はどうした」
「ラングレイ……何を言ってるんだ?碌に食事を摂っていなかった子供にいきなり固形物を食べさせれるわけがないだろ…?」
まともなことを言うシャガールに“いや、しかしだな…”と食い下がるラングレイ
お前がまともなことを言うのかと少し逆に不安に感じてしまう
(……美味しい)
出された粥が美味しくて涙が出そうになるシャーレ
「ゆっくり食べたほうがいい、体を壊すぞ」
「……気遣いどうも」
シャーレの体を気遣いそぶりを見せるシャガール
意外と優しい部分があるのだと思ったがすぐにそんな評価はひっくり返る
「別にお礼はいらないよ、だからさ……ちょっとだけ解剖させてくれよ!」
「えぇ…?」
「先っちょだけだから〜!!」と騒ぐシャガール、「肉は…」とまだ一人で食い下がっているラングレイ
ダメな大人ばかりで多少の耐性があるシャーレでも困惑してきた
一応思い出したかのようにシャガールが触診を始める
「ふむふむ、栄養不足は相変わらずだな、もっと脂肪を増やした方がいい、太陽に当たっておけ、このままだと簡単に骨が折れるぞ」
至極真っ当なアドバイスをするシャガール
最初に腕を掴んで脈を測ってその後心臓の鼓動を聞いたようにどんどんと上の方に上がっていく
そして最後にシャーレの眼球を確認する
「……やっぱりね」
右目をまじまじと見ながらそう告げるシャガール、それを聞いてシャーレも苦笑いをする
「本職は町医者か?」
「いや、あれだけ張り詰めた魔力を放ってたのに肩に触れられるまでラングレイに気づかなかたことに違和感を覚えただけだ」
他にも色々調べてから最後に「風呂に入った方がいい」と言ってから部屋を出るシャガール、わざわざ忙しいのに健康チェックと食事のために来てくれたシャガールに礼を伝えてラングレイがシャーレに書類を見せる
「……国には帰れんだろ?」
「まぁ帰る気もさらさらって感じ」
養子縁組のための用紙と入隊の契約書だ
そしてその隣には戸籍表が置かれている
「この国で暮らすにしても戸籍も市民権もない」
「かもね、さてさてどうしたものかな」
ラングレイが何を言いたいのかわかっている
わかっていてわざと惚けるシャーレ
「俺の仕事は最強の部隊を作ることだ、ちょうどお前くらいの年齢の子供に人殺しの術を仕込んでいる、そして母数は多い方がいい」
「……待遇は?」
「驚いたことに市民権と戸籍がもらえる上に給料が出る、あと職に困らない」
それを聞いたシャーレは無言で書類にサインをする
ラングレイはそれを見て少し笑う、そして握手をした




