episode12
走りながら後方を確認する、誰も追ってきていないことを確信してからゆっくりと立ち止まり、息を整える
もしかしたらこのまま走り抜けた方が良いのかもしれないが大きく動きすぎた場合三班とはまた別の班……主に一班に不意打ちを喰らうのが最悪なためこれ以上リスクは増やしたくない
「……多分二人減らせたよな?」
「多分な」
四人中二人、人数不利の状態で二人減らせたのはかなり大きい
しかし奇襲をかけて、ワンマガジンを消費したというのにシャーレは一人にしか当てられなかったことに危機感を覚える
シャーレの故郷エルフィンには銃火器が存在していない、閉鎖的なお国柄のせいで他国の文化は入ってこず、また文明を持った相手との闘争自体がないため人を殺すための武器というものが研究されることもなかった
弓と魔術で鳥を狩り、剣で身を守る国出身のシャーレにとって小銃などの最新の武器というものは馴染みが薄いのだ
「あと何人残ってるかな」
そんな疑問をイネが呟く
対抗戦は毎回違った形で行われる、今回みたいな複数の班が戦うこともあれば一班対一班の総当たりのような時もある、時には直接戦わずにどの班が一番早く効率的に正確に荷物を運べるか見たいな時もある
そして今回のようなサバイバル形式の時に困るのが残り人数の把握だ
残り二班になった時に信号弾で合図が送られるのだが逆に言えばそれ以外の時は残り人数を把握する手段が存在しない、そして戦闘中や運悪く信号弾が見えないこともこの環境だったらありえるためかなり歯痒いことになるのだ
しかしすぐにイネの疑問に対する回答がされた
「––発砲音!」
「俺たちがさっきいた場所だ!」
戦闘音が少し続いた後、すぐに静かになる
一方的に始まって一方的に終わった、そして三班にそれができるの一班しかいない
二班はおそらく壊滅していて、三班はすでに一度交戦した痕跡があった
十分も経たないうちにまた発砲音がなった
シャーレが空を見上げると真っ赤な煙が空を染め上げていた
「一応君は知らないだろうから教えてあげるけど一班は対抗戦で誰も膝をついたことないよ」
口では一班を褒めるようなことを言いつつもイネは小銃をいつでも撃てるように手入れしている
イネは心の奥底で勝てるなんて思ってはいない、今まで何十回も自分が勝てなかった相手が敵わないようなまさに雲の上のような存在だ
けどそれでもその気配を一切見せずに戦意を見せるのはシャーレのおかげだ
(……この試験が終わった時、シャーレと戦う機会はきっと僕にはもう無い)
イネは客観的に考える
シャーレは口下手で、性格はいいとも言えず、必要がないとほとんど口を開かないし、射撃が下手だ、けどそれを含めた上で優秀だ、徒手格闘は体格に似合わず強く頭も良い
そして実は人を使うのが上手い
俺は“自然な笑顔は環境が良かったのだろう”とか言えない、女子相手に真剣に“気遣い上手”とかも言えない、あって一週間程度でこれだ、もっと社交的になったら女子にモテるだろう
(今ここまで出来てるのはシャーレの力だ、勘違いしたいけど俺の力じゃない、……けどシャーレが俺の実力の120%引き出せるなら俺はシャーレが俺の実力を130%引き出せるように頑張りたい…!)
無意識に小銃を握る力が強くなる、直後乾いた銃声が耳を突き抜けた
アカシアの家にいると銃声なんて聞き慣れる、そして慣れたイネはそれが自分たちに向かって撃たれたことを考えるまでもなく理解した
(あっ…、せっかく気合い入れたのに、全くついてないな…)
イネに被弾を覚悟する、よりも早くシャーレがイネにほとんど反射的に蹴りを放った
そしてそのまま自分もイネを蹴った反動で体を捻って地面に寝転がる
「二時の方だ!––ッ!?いや十二時から––」
その言葉が言い切られる前にイネとシャーレの間に大きな光が走った
イネは体を大きく転がしがら坂道を転がり下がっていく、銃を胸に抱いてまるでしっかりと枝を削られた丸太のように、しかし丸太と違ってイネの体は硬くなく木々に当たっても止まらずそのまま回転しながらようやく地面に落ち切った
すぐさま体を起こして周囲を警戒するとため息をつきたくなる顔が目に入った
「彼一人が残ってると思ってたから驚いたよ、けど悪いね、君に時間をかけることはできない」
「……悪いと思うなら“ヴィンスのキス”でも一緒に踊ってくれよ」
イネはひとまず軽口を叩いた
“ヴィンスのキス” 作曲作曲 ラーグスヴォーティー
ラーグスが鳴かず飛ばずの頃に作った一曲、彼は音楽人生はこの曲から始まった
11分32秒もある




