episode8 積み重ねたものと 天才
樹海の中は非常に視界が悪い
しかしだからと言って見つけることができないわけではない
街中と違い森の中は雑音というものがほとんどない、自分の足音と仲間の息遣い、そして鳥の鳴き声
そんな中だと水の音というものはわかりやすい
「……」
止まれのハンドサインを送る
そして二つのハンドサインを使いで送りそのまま前進すると予想通り湖があった
そしてシャーレ達が水辺を目指したということは他の班も真っ先に水辺を目指すのは要禅のことである
「どうする……?」
小さな声で指示を仰ぐイネ
といってもシャーレとしてはやることは一つである
「殲滅だ、予定通りお前は僕の右を守れ」
「了解」
配置を確認する
数は四人、そのうちの二人は銃を地面に置いて火を起こしたり水を汲んだりしている
つまり奇襲のチャンスだ
「トートは銃持ちをリッタと一緒に潰せ、この距離だとあいつらが武器を持つより先にナイフで殲滅できる、タイミングはリッタが取れ」
指示を聞いてリッタがスコープを覗く
(……トートが配置についたら、……外したらどうなる?)
少し考えるだけで心拍数が上がる
自分が当てると信じて彼らは突っ込むのだ、もし自分が外したら不意を突かれることになる
(……三時方向から2,5m、外せない一発だ)
深く息を吸う
肺の奥まで空気を浸して吐いた息と一緒に不安を体から押し出す
(……逆にいつ外していい一発があった!?いつも通りだろ…!)
引き金に手を掛ける
いつもの重みだ、逆に安心すら覚えてしまうほどだ
(……今だ!!)
ーー
発砲音と二人が飛び出す
シャーレの左手には塗料の塗られたナイフが握られていて右手には何も握られていない
そして何も持たないシャーレの右側を守るようにピッタリと隣についてイネが拳銃を構えながら走る
「「「––っ!?」」」
リッタの発砲音に気付き武器を拾おうとする二人にイネが発砲して牽制する
しかし不足の事態を予想していたのかすぐにナイフや拳銃を構えて臨戦体制に入った
しかし誰も撃つことはできなかった、いや正確にはそれ以上体が動くことはなかった
別にシャーレの動きが速かったわけではない
むしろ魔力操作をしていなかったため酷く緩慢な動きだった
しかしシャーレはあえてゆっくり動いてた
ナイフを持った左手をゆっくりと胸の辺りまで挙げて注目を集める
宙に置くようにナイフを手放し素早く右手に持ち替えた
瞬間、寸前まで注目を左手に集めるための緩慢な動きから緩急を見せた
「––降参!!相変わらず蛇みたいな奴だよ本当に…」
「どうも」
首元に添えたナイフに感触が伝わる、ナイフに塗った塗料と血が混ざって奇妙な色に変わる
シャーレが右を見ると拳銃を突き立てたイネ、左手の方を見るとすでに武器を置いて座り込んでいる敵とトートに撃たれて両手を上げている敵が映った
「イネ、よくやった」
「ありがとさん」
完璧である、作戦通りに動いた結果あれだけ自分たちを卑下していた六班が無傷で制圧したのだ
「……お前は単独行動して自滅すると思ってたがまさかチームプレイをするとは予想外だった、ていうかそういう性分だろ?」
悔しさを少し含んだ言葉を吐きながら荷物をまとめているのを見るシャーレ
しかし確かに視線は正面に向いてはいるがすでに周囲の警戒を始めていた、そしてそれは他の六班の面子も同じである
「ていうか嫌に本気だなお前ら、いつもはあんなに死んだ顔してるのに」
いつまでも絡んでくる四班、死んだくせにうるさいなと思い少し殴って黙らせようと思ったシャーレの前に出てイネが笑う
「一回ぐらい一位を目指してもいいと思ったんだ」
「……まじか––ッ!?」
突如、大気が震えた
空間が一瞬ブレたような、音が割れるような感覚と光がねじれたような言葉で言い表せないような感覚がその場の全員を襲った
(––魔力の解放ッ!!……これがスバル・レッドソードの本気か)
ラングレイの言葉を思い出す
『お前と同じ異能力者だ、そして単純な破壊力ならおそらく王国最強を名乗れるまさしく天才だ』
天才、『死神』ラングレイを持ってしてそう評したスバル・レッドソード
改めてその事実をシャーレは理解した
響く爆音、そして風上から焦げるような匂いが漂う
その事実がなくともどこに一班がいるのか分かる魔力の威圧、いや全く隠す気がなくむしろ時短のために己の位置を開示するその舐めた態度がシャーレの癪に触る
(随分ふざけてるな…、舐められたものだ)
一瞬だけシャーレの左目が赤くなる
しかしその変化に誰も気づくことはなく会話を進める
「……一位になるってことはあれに勝つんだろ?」
「諦める理由にはならないらしいからな」
そう言ってシャーレの方を見る
しかしシャーレは案の定聞いていなかったらしく目は合わなかった
ーー
熱線のようなものが通ったのか、植物が燃えたのではなく焼き切れ炭化した道を歩く三人
「……やりすぎじゃない?」
ノアがそう呟く
明らかに人体にこれが当たった時点で大怪我は確定だ、そしてもし直撃した場合今自分が踏んでいる炭化した土のようなものが人の可能性もあるのだ
「……少し張り切りすぎちゃった、けど逃げたね」
「当たり前よ、せっかく人数を減らせるチャンスだったのにあんたが変なことするから」
スバルを責めるティア、もちろん本気で言っているわけではなく軽口の類だ
アカシアの家唯一の三人の班、一番の一の名乗れる最強の班、それが一班なのだ
「––ッ!?」
首を抑えるスバル
それにどうしたのかとノアが声をかける
「唾でも引っかかった?」
「い、いや、……多分気のせいだ」
そう言って水筒に口をつける
(今蛇に纏わりつかれたみたいな……)
再度自分の服の中を確認して何も入り込んでいないことを確認してからようやく安心して気のせいだったと割り切ることができた




