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最終章 攻略なるか? そしてリンクした未来02

「へ~。グアンベリーって桜桃園の主人だったのかあ。オイラ、ぜんぜん気づかんかったあ」

「ふふ。ベリーでいいわよ、リーくん。これからもウチの桃園をご贔屓ひいきに!」


 筋斗雲で飛びながら、小さなチェインリーに向かってマナの右手首の上でウインクするグアンベリー。やがて村が見え、村人たちの歓声が聞こえてきた。

 村に到着すると笑顔の村人たちが出迎えてくれた。その中にひときわ大きな男、レオルドもすでに戻っていた。

 マナはレオルドを見つけると、よろめきながらレオルドの元に向かった。レオルドもマナの元に歩いてくる。その足取りは決して軽いものではなかった。だが笑っていた。

 レオルドが拳を突きだす。マナもそれにならい、拳と拳を軽くぶつけ、戦果を祝福しあった。


「やりやがったな、マナ、シェバ!」

「はい! ……あの、デルダは?」

「逃がした。奴と決着をつけるのは、まだ先だ」

「そうですか……」


 レオルドの旅はつづくのだ。きっと果てしない旅路なのかもしれない。でもいつかその旅が終わればいい。マナはそう思った。


「でも、レオルドさんが無事で良かったです!」

「おう」


 レオルドはマナが今まで見せたことのない笑みを浮かべた。成し遂げたのだ、デビルタワー攻略を、とマナは強く実感した。


「ところで、そのちっこいのがグアンベリーか?」


 レオルドの指さす先には、マナの手首のリングにぴたりとくっつき座っているグアンベリーがいた。


「そうよ。レオルド・ファイア、いい男じゃない。でも、アタシに惚れても駄目よ。アタシにはマナがいるから」


 レオルドが、ひゅーっと口笛を鳴らす。マナは慌てる。


「い、いや、俺はそんなつもりじゃ……」

「何それ、ひどい! じゃあ、あんなにアタシを求めてきたのはなんだったわけ!?」

「そ、それは、勝つために……」

「何、その利用してやったみたいないい方! アタシにおめかしまでさせておいて、それはないんじゃないの!?」


 二人のやり取りを見て、笑いを堪えきれず、くくくと笑うレオルド。


「たいしたタマだな、マナ。ガイアには想い人がいるってのに、先にこっちの女のハートを射止めちまったわけか」

「ハナって女ね! アタシ、負けないんだから! きーっ!」

「あの、その……」


 困ったなと思う。だが、こんな会話ができるのも、デビルタワーを壊せたおかげだ。


「とにかくっ、みんなありがとう!」


 マナは頭を下げた。


「ふん。別にいいわよ」


 グアンベリーはむくれた顔でそっぽを向いた。シェバとレオルド、小さなチェインリーは笑っている。村人たちも。みんなみんな心から笑っていた。


「ところで、レオルド・ファイアのその腰にぶら下がってる奴らは、アタシに挨拶なしなのかしら?」

「ふふ。ベルグもレイズも無口なのさ」レオルドはガンホルダーに納められている二丁の拳銃を見て触れる。

「だが、こいつらと俺は心で通じ合ってる。問題ないのさ」

「へー、そう。アタシたちも早くそうならなきゃね、マナ」


 グアンベリーがウインクと投げキッスをマナに向ける。ひきつった笑顔を見せるマナ。


(本当に困ったな……はは)


「マナ、和やかなムードのところ悪いが、まだやることが残っている」

「え?」


 シェバを見た。穏やかだが少し寂しそうな表情をしているのを見て、マナは察した。


「そっか。ガイアへのリンク」

「ああ。どこかにできているはずだ。探さなくては」


 そうだ。デビルタワーを壊したことで、今、パワーテイルの世界のパワーバランスが崩れた。ということは、マナのいた世界とのリンクしたトンネルができている可能性が高い。

 シェバがいった。


「あそこに行こう」


 そしてマナたちは、村人たちも引き連れ、シェバと最初に会った、リンクのできていた場所に向かった。


   ◇


「ない……」


 マナが元来た場所にリンクができているのではないかと思っていた一同だったが、残念ながら、そこにトンネルはなかった。


「トンネルができるとしたら、ここしかないんだよね」


 マナがシェバに尋ねる。シェバは無念そうに唸った。


「だと思う。過去に例がないから、なにしろデビルタワー壊したのは史上初のことだから、絶対とはいい切れないが、ここにないとすると、残念ながら」

「他の場所にできているんじゃないか?」


 レオルドが、なんとか希望を見出そうと助言した。しかしシェバはいった。


「この広い世界をか。なんのあてもないのに」


 重苦しい沈黙が広がる。溜息を吐く住人もいた。


(もしかしたら、戻れるかもしれないと思っていたけど、まあ、しょうがないか……その覚悟で来たし)


 ハナの顔を思い出してみる。愛しさと悲しみが胸の奥から押し寄せてくる。次いでシンゴや家族のことを。そしてラブビリーバーの二人を。ミハヤシさんに、そして宝沢さん。


『なんとしてでもまたリンクができる方法を探して、必ず、この世界に戻ってきなさい……!』


 宝沢の言葉がフラッシュバックする。その言葉が帯びた熱が、マナの心に伝わる。温かい。その温かさはハナを想う気持ちに似ていた。マナは押し静まる場の中で声を上げた。


「探すよ」


 シェバがまなこを見開いてマナを見た。レオルドもグアンベリーもチェインリーも、みんなが見ていた。


「探す。この世界がどれだけ広いか、きっとこれからの旅でわかるんだろうけどさ、必ず見つけ出してみせる。だって約束したんだ。宝沢さんと」

「あてなどないぞ。なんの手がかりもない」


 シェバが念押しする。


「かまわない」


 強い意志を込めた目でシェバを見た。シェバも一瞬強い目で見返したが、すぐに表情を緩めた。


「ならしかたがないな。私もついていこう」

「オイラもオイラも!」

「あら、アタシもよ」


 シェバもチェインリーも、グアンベリーなんかは腕を組んだままだけど、笑っていた。


「みんな……!」


 レオルドがマナの肩に手を置いた。


「しょうがねえな。闇の残党狩りもしなきゃだし、な」

「レオルドさんもついてきてくれるんですか!」


 頷くレオルドに、マナはもう泣き笑いだ。さきほどまでの暗さはどこへやら、場はすっかり温まっていた。


「そんじゃオイラは、失礼して……」

「どうした、リー?」


 尋ねるシェバに、「しっこ」とだけいい残し、チェインリーは近くの大きな岩陰に向かった。それは、マナが最初にシェバを見つけた岩陰でもあった。


「あああああああああ!!」


 突然のチェインリーの悲鳴に、緊張が走った。闇ガ現れたのか!? マナたちはすぐに岩陰に近寄った。


「あ、できてる! トンネルだ!」


 マナが喜びの声をあげる。ここに来たときと同じサッカーボール大の渦が、マナの肩ほどの高さの空中で蠢いていた。


「まさか、こんなずぐそばに」


 シェバが相好そうごうを崩しながらいった。レオルドもやれやれといった表情でマナにサムズアップ(親指を立てる)した。マナはうなずき、何度もうなずき、見ると小さなグアンベリーは瞳を閉じキスを待っていた。


「なんでそうなる!?」


 引き気味のマナに「あら? そういうシチュエーションじゃないの?」とトンチンカンな言葉で返す。


「うわーん! びっくりして、もらしたー!」


 泣き叫ぶチェインリーを皆で笑う。場はお祭りムードに変わっていった。

 これでマナは元の世界に戻れる。ハナの元に帰れるのだ。とうぜん嬉しい。……だが。

 マナは皆を見た。シェバもレオルドもチェインリーも村人たちも。もう新たな闇が生まれてくることはないが、まだこの世界の闇が消えたわけではないだろう。


「俺、このまま帰るってわけには……。まだ闇の残党が残ってるし……」


(あのデルダもいるんだ……)


 レオルドがその言葉を制すように応えた。


「それは俺たちの仕事だ、マナ」


 次いでシェバもいう。


「そうだ。闇の残党狩りは我々に任せてくれ。他にも瑛気使いたちはいる。きっと協力してくれるはずだ。それにいつまでもこのトンネルをこのままというわけにはいかない」

「俺が元の世界に戻ったら、このリンクは……」

「消えるだろう。そして私たちは、二度と会えない」


 マナは目を大きく見開いた。シェバは悲しそうな表情をしている。レオルドでさえ。誰も喋らなかった。

 そして沈黙の後、マナは口を開いた。


「寂しくなるな。せっかく出会えたのに……」

「ああ……」


 シェバも寂しそうな表情を隠さなかった。


「だけど、俺たちは繋がってる」


 レオルドの方を見た。まっすぐな瞳でマナを見ている。


「このリンクしたトンネルは消えちまう。だが、俺たちの心に繋がったリンクは、絆は、一生消えない。違うか、マナ?」

「……はい!」


 黙っていたグアンベリーが、ひときわ明るい声をだす。


「それにアタシはいつでも一緒よ? 寂しくなんかないわ」


 また笑いが生まれる。レオルドは右手を差しだした。


「笑顔でお別れだ。おまえのことは忘れねえぜ、マナ。ハナちゃんによろしく!」

「はい! 俺も忘れません!」

「私は握手はできないが、私も君のことは忘れない。絶対にだ!」

「オイラも、オイラも!」

「うん! シェバとリーくんのことだって忘れないよ! 絶対忘れない!」


 マナはシェバの前足を握り、チェインリーとも握手を交わした。

 そして村人たちにも声をかけると、トンネルの前に立った。


「それじゃあ、お元気で!」

「おう、元気でやれよ!」

「健康第一だ、マナ!」


 マナは二人の声を聞くと、トンネルに右手を伸ばした。瞬間、マナの体は吸い込まれ、周りが光で満たされた。

 光の中を一定の方向に導かれていくマナ。すぐに出口が見える。


「帰れるんだ! ハナ、会いたいよ!」



 それから一週間くらい、マナは会う人会う人に驚かれっぱなしだった。一一日間と短い期間ではあったが、マナは行方不明になっていたのだ。知り合いは声を揃えて「どこに行っていたの?」、と尋ねてくる。マナは、「覚えていない」と答えることにしていた。病院で身体検査も受け、体に異常がないことも分かると、やっと解放された。

 親友のシンゴには、「心配させやがって、ばかやろう!」と涙ぐまれた。

 誰よりも会いたかったハナは、怒っていた。


「ほんとに心配したんだから! パワーテイルの世界にどっぷりはまってくるっていって消えちゃうから、本当にどこか別の世界に行っちゃったんじゃないかって……」


 最後は涙を流してくれた。マナはそんなハナを見て感動した。


(お、俺のことをそんなに……。ハナのために向こうに行って良かった……!)


 そして、ラブビリーバー。マナはこちらの世界に戻ると、真っ先にラブビリーバーの事務所に向かった。だがラブビリーバーの事務所があったはずのマンションの一室はもぬけの空だった。

 寂しく思う。最後に宝沢は、「帰ってきて」と涙まで見せてくれたのだ。命を救ってくれたミハヤシにだって会いたい。彼らには彼らの事情があるのだろうけど。

 だが、マナは思った。素直にそう思えた。


(でも、宝沢さんたちとも心で繋がってる)


 と。

 それと、グアンベリー。こちらに戻ってきてから、全く姿を現さなくなった。ハナとのバッティングを恐れていたマナだが、やはり寂しく思う。強い瑛気を放てば、また会える可能性はあるかもとマナは思ったが、瑛気をだしつづけていると寿命がやたら伸びる恐れがあるため、それができないでいた。

 そして驚くべきことが起こった。

 なんと、あのアニメ『パワーテイル』が再開したのだ。例のモバイル端末が新作を受信し始めたのだった。マナの帰りを待っていたかのようにそれは配信され、そのアニメはマナたちがデビルタワー攻略に挑んだドキュメンタリーそのものだった。

 あの後、残りの虹の鍵人たちも闇討伐に立ち上がったらしい。素晴らしいことだ。

 懐かしい教室の中、そのアニメを観たハナは、驚いたように、そして嬉しそうにいった。


「なんだか、この新しい主人公のマナって、マナに似てるね」

「そっかあ?」


 マナは素知らぬ顔で答える。


「私、好きになっちゃったかも、マナのこと。だってかっこいいもん。あ、アニメのね」


 マナは顔を真っ赤にする。本当のことだと話すことはたやすい。だがマナはいわなかった。


(レオルドさんと俺、どっちが好きなんだろう? 訊きたい。でも訊けない……)


 そんな顔を赤くしているマナのことをシンゴは見逃さない。席に着いているマナの後ろからマナの肩に両手をどんと置いた。


「脈、あり! だろ?」

「あ、シンゴ! てめっ!」

「照れるな、照れるな! スーパーヒーローのマナくん! そのうぶな真っ赤な顔を見てるこっちの方が恥ずかしくなるってもんだぜえ」

「こ、このやろう! あ、おまえ、寺内さんにちゃんと告白したんだろうな?」

「むっ。そ、それは、時期を見てだなあ。必勝の態勢で……」


 ハナが声をあげて笑う。マナとシンゴは顔を見合わせて睨み合う。

 そんな和やかな雰囲気の中、モバイル端末が新たな受信を示す信号をだした。マナは届いたファイルをクリックし、マナとハナが見守る中(シンゴは見られない)、アニメはスタートする。

 そこには、レオルドとあのデルダが荒野で対峙していた。

 ハナは不安げな顔でマナを見る。


「レオルド・ファイア、勝てるかな?」

「勝てる! あのレオルドさんなら、絶対!」マナはハナの問いに即答していた。

「まるで見てきたようないい方だね」


 マナは画面に映るレオルドを見ながら答えた。


「ああ。見てきたさ。このモバイル端末を手に入れてから、ずっと」


 戦闘が始まった。いつの間にかマナとハナは身を寄せあい、手を握り合っていた。手に汗がにじむ。


(勝てる! レオルドさんならきっと! 勝ってくれ……!)


 激しい戦闘だった。レオルドのヘビーマシンガンがデルダのダークメイルを焼き付くさんばかりに火を吐きつづける。デッドマン・アッシュがレオルドを覆い尽くそうとする。それでもレオルドの瑛気による火力は尽きることはなかった。ダークメイルはついに焼き切れ、憤怒の形相をしたデルダがレオルドに掴みかかろうとする。瞬間、レオルドは、コフを生みだし、天空から光の弾幕がデルダを撃ち抜く。やがて、弾が尽きたのか、レオルドは動きを止めた。もうすでにすべての手を使い果たし、瑛気を撃ち尽くし、レオルドはその場に立っていた。

 立っていた。

 そう。最後まで立っていたのは、レオルドだった。ついにデルダを倒したのだ。

 雄叫びをあげるレオルド。そして右拳の甲に口づけをすると、それをまっすぐ上に伸ばし人差し指を天に向けた。レオルドは空を見上げていた。きっと天国の母親に向けたのだろう。

 レオルドはついに仇を討ったのだ。殺された母親の、闇を親友だと信じ裏切られ地獄を迎えた幼き頃の自分の仇を。

 ハナは涙を流していた。マナはそれを見て笑った。


「ハナは泣き虫だなあ」

「マナだって……」


 マナも泣いていた。心で繋がっている戦友のために。

 ハナが鼻を鳴らしながら泣いている。その姿を見ると、なんだか愛おしい。そのとき、ふと思った。


(あれ? いつもより可愛い)


 闇を生みだすのはこの世界の心のありようだという。ならばどうするべきなのか。

 相容れない人間はいる。どんなに心を通わせようとしても、響かない、あまつさえ裏切る人間でさえいる。確かにいる。でも、真心が伝えられると、伝わると信じられる相手が見つかったのならば。

 少なくともマナはハナへの愛情を信じ、パワーテイルへ向かった。あの『ラブビリーバー』という名に込められた想いのように。そして、今――

 マナは、ハナを、抱きしめた。


〈了〉

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

よろしければ、評価をください。

そうしていただけたなら、とてもありがたいです。

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