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第5章 説得01

 広場の方に人が集まっていた。その中心に、一際大きな男がいた。ブロンドの髪に全身黒のジャケットにジーンズ。そしてただ大きいだけではない。周りの人間とは明らかにオーラが違う。まさに威風堂々といった感じだ。


(生のレオルド・ファイアだ~!)


 マナは、まるで憧れのスポーツ選手でも見るかのように、心が浮き足立っていた。


「レオルド、彼がマナだ」


 レオルド・ファイアの足下にいたシェバが喋った。

 レオルド・ファイアは、マナを値踏みするような目をしていった。


「こいつが、新しい虹の鍵人ね」

「よろしくお願いします! マナです! えっと……」

「レオルドでいい」

「あ、じゃあ、レオルドさん、で」


(かっこいいな~。闇を華麗に撃ち抜く、あのレオルド・ファイアが俺の目の前にいるんだ……! でもなんか、あんまり歓迎されてる感じじゃないな)


 レオルドに注目していると、足下で何かが当たった。

 見るとシェバがその前足をマナの足に当てている。何やら、不機嫌そうな顔だ。


「どうしたの? シェバ」

「それだ……私はシェバと呼び捨てで、なぜレオルドはレオルドさんとさん付けなのだ。私も君より年上だぞ」

「え、だって、こんな可愛い子犬相手にさん付けとか、変じゃないか。自然にシェバはシェバと呼んでたよ」

「むむ。だったら私もマナくんではなく、マナと呼ぶぞ」


 シェバは不満そうな顔をしている。マナはなんだか可笑しくなってしまった。


「楽しそうなところ悪いが、俺に用があるんだろ? マナ」


 レオルドがシェバににやにやしながら声をかけてきた。シェバはますます不服そうな顔をマナに向けていった。


「マナ、デビルタワーの件だ」

「うん」


 そうだ。デビルタワー攻略のために協力してもらわなければならない。改めてレオルドの方に向き直る。


(やっぱりでかいな。一九〇くらいあるんじゃないか?)


「あの」

「シェバから話は聞いている。答えはNOだ」


 あっけない返事だった。マナはシェバの方を見た。シェバは首を振っている。レオルドの方に向きなおり、その表情を見る。口元は笑っているが、目は笑っていない。それがレオルドの真意を表していた。


(難しいとは聞いていたけど、そんなあ)


 だがマナもここで引き下がるわけにはいかない。


「でも、デビルタワーを壊さないと、このパワーテイルに平和は訪れないじゃないですか」


 レオルドは押し黙っている。その存在感に圧倒されて、マナはごくりと唾を飲み込んだ。レオルドの言葉を待った。

 やがてレオルドが重い口を開いた。


「そのとおりだ。この世界に平和をもたらすにはデビルタワーを壊すしかない。だが、それが不可能に近いことは、そこのシェバが証明済みだ」


 マナはちらりと横目でシェバを見た。沈痛な面もちをしていた。


「で、でも、あのときはシェバ、たった一人だったし、今度は俺たち三人でかかれば、きっとできますよ!」

「三人? おまえたちとか? 無理だ。シェバはこんな姿になっちまった。本来の戦闘力はない。何より、おまえさんは戦力になるのか? シェバから聞いてるぜ。ろくに瑛気も使いこなせないそうじゃねえか」

「ぐっ」


 マナは返す言葉がなかった。なんとか言葉をひねりだす。


「今はそうだけど、シェバが瑛気の使い方を教えてくれるっていうし、そうしたら俺だって、けっこうすごいんですから!」

「グアンベリーのリングらしいな」

「そ、そうです」

「強気じゃねえか。確かにそのリングには力があるのかもしれない」


 レオルドのブルーの瞳がマナを見据える。マナは緊張を隠せない。


(うう。この目、迫力あるな。視線に射抜かれそうってのはこのことか)


 レオルドはふっと笑った。


「でも今は使えない。そういうことは、ちゃんと瑛気を使いこなせるようになってからいうんだな。勝算もないのに俺は危険な賭けには出ないぜ」


 そういうとレオルドはその場を去ろうとした。


「あ、ちょっと」


 マナの制止もむなしく、レオルドはあしらうように手を振ると、さっさと行ってしまった。

 後に残されるマナとシェバ。それを見守っていた村人たちは口々に、「駄目か……」と囁いている。


「ま、まるで相手にされなかった……」


 絶句状態のマナに、シェバが足下でため息をついた。


「とにかく君の瑛気が頼りだ、マナ。瑛気を養おう」


 マナもそうするしか他に方法はないと思えた。シェバに頷き返すマナ。


(瑛気だ。とにかく瑛気を使えるようにするしかない。レオルドさんに力を証明するんだ……!)



 マナの修行が始まった。村を離れた森の中で、マナとシェバが対峙している。


「マナ、瑛気とはなんだと思う?」


 シェバの問いかけにマナが答える。ミハヤシの言葉を思いだしていた。


「えっと、確か、闇を討ち倒したいっていう強い気持ちとかなんとか」

「そうだ。邪悪を討ちたいという感情、心のエネルギー。だがもっといえば、その人間が心から信じる正義の心でもある」

「正義の?」


 首を傾げるマナ。


「君がガイアで闇を討ち倒すために瑛気を発したとき、どんな感情だった」

「う~ん、あのときは、闇を討ち倒したいってのはあったけど、それより別の感情が強かった気がする」

「どんな?」


 マナは頬が赤くなるのを感じながら、逡巡してからいった。


「守らなきゃって……」

「誰をだい?」


 マナはますます顔の熱が上がるのを感じる。シェバとは目を合わさず上を向いて、慌てるようにいった。


「その……あ! 幼なじみなんだけど! ハナっていって女の子なんだ! いい子なんだよ! 昔、俺を助けてくれたり! その子が闇に襲われててさ、俺が……守んなきゃ……って。そうしたら、瑛気が……」


 最後は声が小さくなっていた。恥ずかしいと思うマナ。好きな女の子のために、なんてことは、思春期まっただ中のマナには、他人に打ち明けることが顔から火が出るほど恥ずかしかったのだ。だが、そんなマナを見ても、シェバは笑ったりなどしなかった。


「それが君の信じる正義の心だ」

「え、それが?」

「そうだ。大切な人を守りたい。それは君にとって正義なんだ。照れることじゃない。そしてその正義の心のままに、この世界に来たんだろう?」

「う、うん」


 シェバは嬉しそうに笑った。


「君には瑛気の才能がある。君の信じる正義の心は、とても質の高いものだから」

「そうかな?」

「そうさ。自分を信じてくれ」

「そっか、分かった。あ、なんか、できる気がしてきた!」

「うむ。君がそのとき、瑛気を発した感情を思いだしてみてくれ。心からその大切な女性を守りたいと思うんだ」


 マナは頷くと、目を閉じた。ハナを守りたいというあのときの気持ちを思い出そうとした。

 だが、五分経っても、一〇分経っても、マナの体に変化は起こらない。


「だめだ~。ちゃんと思い出せない」

「ただ思いだすだけではだめだ。本気で思うんだ。守りたい、と」

「や、やってみる」


 だが、やはり瑛気のかけらも発生しない。マナは早くもくじけそうになる。


「難しいよ。あのときは確かに目の前でハナが襲われて本気でそう思ったけど、想像だけで本気で守りたいと思うなんてことできるの?」


 半泣き状態のマナに、シェバは冷静に答えた。


「できる! 現に、私も、レオルド・ファイアも各々(おのおの)の正義を抱いて、瑛気を操っている」

「そっか。そうだよな」


 マナは腕組みをして、う~んと唸る。


「とにかく一朝一夕ではうまくいかない。が、訓練でなんとかなる。諦めないでくれ」

「女優が、悲しいことを思いだして芝居で涙を流すのと同じようなもんかなあ」

「まあ、似たようなものかもしれない」

「あ、じゃあ、シェバも泣こうと思えば泣けるの? ぱっと今ここで」

「泣けるわけがない。ああいうのは一種の才能だろう。瑛気を操るのとはわけが違う」


 ぴしゃりといい切るシェバにマナは首を傾げながら、「そ、そう」と応えた。


(似たようなものっていったじゃん……。シェバも、案外いい加減だな。自分がなんで柴犬になったのかも分かってないみたいだし)


 瑛気のことも、力を失ったシェバに起きたようなこの世界の原理も、マナにはよく分からなかった。だがこの世界には確かに闇が存在している。自分たちの悪意が具現化した邪悪な存在が。それがこの世界の人々を苦しめている。マナのことを慕ってくれるあの可愛いテュエルも、そのせいで大切な友達を失った。それだけは分かっている。


(いや、頭で分かるだけじゃだめなんだ。本気でなんとかしなきゃ……)


 瑛気を使うための気の遠くなるような修行がつづいた。

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