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ヘイルダム沈没

ヘイルダムは旧式ですが、王国海軍の旗艦を務めている名誉ある艦です

「艦長、副団長を艦長室までお連れしました」


「ご苦労。間もなく軽い衝撃があるかもしれん。どこかに捕まっていた方がいいぞ」


「それってどういう…」


艦長の声の直後、フィーアは後ろから引っ張られるような感覚ともに前後に揺れ、その後ゆっくりと艦は前進を始めた。


「一体何が…」


俺は艦橋から見張り員がいる場所まで行き、後方を確認する。

フィーアの艦尾に縄が複数本繋がっており、その縄はヘイルダムの艦尾に繋がっていた。

ヘイルダムは艦底を地面にこすり削れるような音と共に再び海へと戻る。


「接舷時のロープか?切り離しを忘れていたのか…それにまだ乗員が残っている!乗り遅れたのか!」


俺は急いで艦橋内へ戻り、艦長に報告する。


「艦長!ヘイルダムとロープが繋がったままになっております。それにまだヘイルダムには乗組員の姿が!」


「クルト副長、これでいいんだ…」


「どういう事です?」


「すまんがクルト副長、貴官には説明をしている時間が無かった。手短に説明する。本艦はこのままヘイルダムを囮として所定のポイントまでえい航し切り離した後、当海域を離脱する。ヘイルダムは副砲、機銃、探照灯で城塞砲の注意を引き、本艦の脱出を支援する」


「ヘイルダムに残された彼らはどうなるんです」


「クルト副長、これはヘイルダム乗員がこぞって提案してきた作戦なんだ…。思うところはあるだろうが異議を唱える事はヘイルダムに残った乗員の決意に対する冒涜である」


「…クルト先輩、日頃海軍のエリートだのと威張り散らしていた彼らが真剣に私達に言ってきたのです…俺達ヘイルダムが囮になるからその間に逃げろと。無論オルリック艦長は止めました。絶対に死ぬことになる、一緒に脱出しようと。しかし彼らの決意が揺らぐことはありませんでした…」


「アンナ…。…作戦内容…把握しました。それがヘイルダム乗員の総意であるならば私は何も言えません」


「これは作戦などといった大層な代物ではない。しかし我々は何としてでもこの場を脱出しなければならなくなった。あの場に残った彼らの為。我々を頼って乗艦してきた方々の為に…」


「まもなくポイントに到達します!」


「ロープを切り離せ!両舷全速、機関最大!」


「両舷全速、機関最大!」


フィーアがロープを切り離した直後、ヘイルダムは王城に向かって探照灯を照射し、機銃と副砲を王城直撃しないよう手前の入り江に向けて斉射する。


ーヘイルダム右舷第一副砲塔ー

「ペタス司令も艦長もいない、従来の乗組員も半数以上いない状態で戦うなんてな。イカれてやがるぜ」


「この艦もよく頑張ったが王城突入で前主砲が撃てなくなって操舵系も壊れているのでは囮しか出来ないだろう」


「海軍を象徴する艦の最後が囮とはね…」


「文句ばかり言ってないでお前も手を動かせ」


「分かってるよ、今の海軍でまともに戦えるのはもうあの艦だけだ。海軍最後の希望、必ず脱出させてやるさ」


「ああ、俺達は海軍でトップエリートのヘイルダム乗りだ!実力をあいつらに見せつけてやろうぜ!」


ヘイルダムに狙いを定めた城塞砲が砲撃を開始する。その砲弾は初撃こそ至近弾のみであったが、動かないヘイルダム相手では狙いが正確になるのも致し方なかった。


「ヘイルダム、集中砲火を浴びています!」


見張り員から報告が上がる度、フィーアの艦橋にいる誰もが口を閉ざして表情を暗くした。

どれくらい経ったのだろうか、時計を見るとまだ20分も経っていなかったが俺には長時間そこにいたように思えた。

その間フィーアはひたすら進み、城塞砲の射程外への離脱に成功していた。

唐突に艦橋から見える景色が明るくなり、後方より大きな音が聞こえてきた。

おもむろに立ち上がり、艦橋の窓から後方を見ると黒煙が上がっていた。ヘイルダムは黒煙が上がる艦の中央部から2つに割れ、艦首と艦尾はそれぞれ空に向かって海に突き立っていた。


「爆沈した…ヘイルダムが…」


あまりの光景に思考が追い付かなかった。


「状況知らせ」


「ヘイルダム…轟沈しました…」


「総員傾注。先程、20:25ヘイルダムは我々を守る為に戦い、壮絶な最後を遂げた。我々が今ここにいるのも彼らのおかげだ。我々は今後も航海を続けていくことになるが、彼らの挺身を決して忘れてはならない。彼らの奮闘に敬意を表す。総員敬礼!」


フィーアの乗組員全員が後方のヘイルダムに向かって敬礼した。その後、フィーアは半島の影に姿を消した。こうして多大の犠牲を払いながらも王都脱出作戦は成功に終わった。


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