エピローグ
この世界は平和です。
あれから私はすぐにお店を再開しようとしたけれど、ずっと眠ったままだった私を心配したベリアルさんにしばらくお休みするように言われてしまった。
いまはケーキを作って、のんびりお茶をする日々、結局前と変わらない日常だったりする。
ただ私はそののんびりした時間の中で、1000年前に闇の王と光の女神様に起きたこと、そして今回の闇に飲み込まれた世界のことを忘れて欲しくなくて、ベリアルさんと相談して文章として残すことを決めた。
世界のバランスが戻って平和になったとはいえ、全てが元に戻ったわけじゃない。多かれ少なかれアインスさんを含め、マリーのように傷付いた人もいるから、二度と同じようなことが繰り返されないように、みんなに過去のこと、今回のことを自分達なりに感じて欲しかったから。
そして、私もまだすっきりしていないことがあった。アリスちゃんにもあれから一度も会えていないこと。私が意識を失っていくとき、アリスちゃんはすごく悲しそうでいまにも泣き出しそうな顔をしていたから、あの顔が頭から離れなくて忘れることができない。きっと何か理由があったんだと思うから、いつか話ができたらと思っている。
何より私はアリスちゃんと一緒に働いた一ヶ月は本当に楽しかったからどうしても、気持ちの切り替えができないでいた。
バタンッ!!と大きな音を立てながらドアが開いた。
「みことっ!」
お茶をしながらアリスちゃんのことを考えていると、私がこの世界で初めて会った人、アインスさんが突然現れた。
「えっ?アインスさん?ですよね?どうしてここに?」
「みこと、私のせいですまなかった、許してくれっ」
「えっと...この世界に呼ばれたことは、いまではむしろ感謝しているのでもう気にしなくても」
「そうか許してくれるか、みことはやっぱり優しいな」
ちょっと食い気味にそう言うなりアインスさんに抱きしめられた。
あれ?何でだろう。嫌な感じがしない
「...この感じどこかで」
そこにベリアルさんが急いでやってきた。
「アインス、美琴から離れろっ」
「そんなに怒って嫌だなぁ、私とみことは仲良しなんだよ、だからいいんだよっね、みことお姉ちゃん」
「あれ?みことお姉ちゃんって...」
「あれだけカルロスに裏切られてショック受けていたから美琴の前に現れないと思って油断した。美琴、アリスの正体はアインスなんだよ」
「えっ?噓っ、あの可愛いアリスちゃんがアインスさん...?」
「あーあ、バレちゃった。ねぇ、みことお姉ちゃん...」
そう言って姿を変えたアインスさん。
「アリスちゃん...」
ショックだ。すごくショックだ。あんなに可愛かったアリスちゃんが、アインスさんだなんて...。
「私のアリスちゃんを返して――――っ」
私の心の叫びは声となって部屋中に響いた。
ボゴッ!ザザッガンッ!
「っ!」
ベリアルさんの右ストレートがアインスさんに直撃した。勢いで吹っ飛ばされたアインスさん。
「兄さん、何で殴られたのか、もちろんわかっているよな?」
「わかっている、私の心が弱かったばかりに皆に迷惑をかけた。自分のやってしまったことはちゃんと向き合ってこれから償っていくつもりだ、みこともすまなかった」
「世界だけじゃなく、美琴のことまで危険な目に合わせて、目を醒ますことができたからいいものをこれで美琴に何かあったら私はお前をこの手で始末しないといけないところだったのに、とても残念だよ」
あ、ベリアルさんの笑顔が怖い...
「あ、あの、ベリアルさん、世界のバランスも元に戻ったし、ジルも戻って来てくれたし、ね、ジル」
「にゃー」
「ほら、ジルも怒っていないし、私もまたこうしてみんなとのんびりした時間も共有できて、いまとても幸せなの、だから私のことはもう大丈夫ですよ」
あれ?私、またアインスさんに抱きしめられて
「あぁやはり、みことは優しいな、みこと、私はみことのことが好きだ、みことといると私は心が温かくなるよ。あんなに辛かった心が癒されていくんだ、みこと私とこれからも一緒にいてほしい、そして私の子を」
ボカッ!グホッ
「全くわかっていないようですね兄さん?」
今度はベリアルさんに抱きしめられている。
「強くなったなベリアル、昔はあんなに可愛かったベリアルが...みこともベリアルとまだ婚約、ましてや結婚しているわけではないからな、私にもまだチャンスはあるだろう?みことにベリアルよりも私の方がいい男だと証明すればいいのだ、私のカフェでの仕事ぶりを知っているだろう、私は仕事ができる、みことに苦労をかけることもない。それに私はみこととすでにお風呂にも一緒に入った仲だからな、私がみことの相手でも問題ないはずだ」
っ!!!そうだ、アリスちゃんと私お風呂一緒に入ったんだ。そのことに気が付いて顔が赤くなっていく。
「...あの、それは、アインスさんだって知らなかったことなので、もう忘れてくださいっ」
「あぁ赤くなったみことも可愛いなぁ。でも忘れないよ私の大切な思い出なのだから。そうだ!ベリアルと私は兄弟なんだから二人でみことを共有するのもありかもな、うんうん」
「何を寝ぼけたことを...あのとき何故かよくない気がしていたのは間違っていなかった、私だってまだ一緒にお風呂に入ったことないのに、もっと強く止めておくべきだった。やっぱりいまここでお前を殺す」
「うわっやめろっ」
ベリアルさん、いまサラッと恥ずかしいこと言わなかった!?
「美琴、二人の男性から言い寄られてモテるわね~、さすが私が選んだ子だわ」
「プレディーネも私以外から言い寄られたいのかッ!」
「あら嫉妬?私はカルロスがいてくれればそれだけで幸せよ」
「あぁ愛しのプレディーネ、私もお前がいれば他は何もいらないよ」
「ってまた来たんですか?イチャついてないでこの二人止めてくださいよ」
「いいじゃない勝手にさせておけば、嫌なら美琴が頑張って。今日のケーキも美味しいわねぇ~」
「私はもう少し甘さ控えめでもいい」
このイチャイチャカップルは、あれからいつものように現れては私が作ったケーキや食事を食べていく。二人きりでどこかにって言ってなかったっけ?
そして、ラブラブっぷりを見せつけて帰っていくのだ、ほんと迷惑な人達。
「美琴っ」
ベリアルさんに呼ばれたと思ったら、いきなりお姫様抱っこをされた。
「きゃっ、ベリアルさん急にどうしたんですか?」
「美琴しっかり捕まってて」
そのままベリアルさんは走り出してしまった。
そして、着いた先は綺麗な花畑が広がり街全体が見下ろせる丘だった。
ようやくベリアルさんに降ろしてもらって辺りを見渡す。
「うわぁこんなところがあったんですね、綺麗...うぅん風が気持ちいい」
「気に入った?」
「はいっ、素敵な場所ですね」
「夜になると星もすごくたくさん見ることができるんだ」
「そうなんですか!星空も見てみたいです」
「あのときのデートもここに連れてきたかったんだ、だからやっと美琴のことを連れて来ることができて嬉しいよ」
「ベリアルさん...私もここに来られて嬉しいです」
ベリアルさんの纏う空気が変わった。
「美琴、私は美琴が好きだ。初めて会ったときは自分に自信がなくておどおどしてたけど、自分を変えたいって強い意志に惹かれた。それに素直で思ったことが態度に出やすくて、ころころ変わる表情も見ていて可愛くて、私の話し方も家の私好みの内装も否定することなく目をキラキラ輝かせて、私のこと、家が素敵だからここにいたいって言ってくれて嬉しかった。美琴には裏がなくて一緒にいるだけで穏やかで安心できて幸せな気持ちになれたし、いつも一生懸命で毎日が楽しそうで美琴がどんどん成長していく姿を近くで見ることができるのがまた嬉しくて、だから私も自分や父にも向き合うことができたんだ。そう美琴が側にいてくれたから。この先も私は美琴が変わっていく姿を見ていたいんだ、だから私と結婚して欲しい」
...はうっ、これってプロポーズ!?
「はい、私もベリアルさんのこと大好きです。かっこよくてキラキラしていて、笑顔を向けられるとキュンってしちゃって、嬉しいのにドキドキして、って私何を...あ、あの私もこれからもずっとベリアルさんと一緒にいたいです。ベリアルさんがいないと私変わっていけないの、だから私をベリアルさんのお嫁さんにしてくださいっ」
恥ずかしい、プロポーズの返事なんて初めてだし、もっとちゃんとかっこよく返事したかったよぅ
ちゅっ、ベリアルさんが頬を染めてすごく嬉しそうに可愛がるようにキスをくれた。
「可愛い、すごく可愛い。ふふっ美琴はそのまま変わらないでもいいかな。美琴愛しているよ、いまもこれからもずっと美琴だけを愛し続けるから」
ベリアルさんが優しく、それでいて絶対に離さないでいてくれる安心感。ベリアルさんの温もり、これからもずっとこうして感じることができるんだ、すごく嬉しい。私もぎゅっとベリアルさんを抱きしめた。
「はぁ~っ緊張した」
「ベリアルさん、いつも私の反応みて楽しんで余裕そうなのに」
「大好きな子にプロポーズするんだから当たり前。余裕なくてかっこ悪いけれど、美琴のことアインスとか他の男に取られるかと思ったらこれ以上先延ばしにしたくなかったからね。だからすぐにでも美琴を私のものにしておきたかったんだよ、こんな私は嫌かな」
「ベリアルさんが可愛い...すごく好き、大好きっどうしようすごく嬉しいっ」
「美琴そんな可愛いこと言って、覚悟しろよ、私以外に目がいかないようにたっぷり甘やかしてやるからな」
と言ってちゅっちゅっとついばむようなキスを繰り返してから唇が離れると、ベリアルさんの妖艶な笑みで笑うベリアルさんがそこにはいた。
私はこの人には何度でも恋をしてしまいそう、気持ちが溢れて身も心も耐えられる気がしないよ。
「...えっと、ほどほどでお願いします」
「ふふっ美琴は、これからどうしたい?」
ベリアルさんのこの言葉にずっと救われてきた。私にとっての魔法の言葉。
「私、手を繋いで、ベリアルさんとデートがしたいです」
そう言うと、はいと手を差し出してくれる。
私はこの大好きな手を握った。これからもずっとこの温もりが離れることがないように。
読んでいただきありがとうございます。
次は番外編ですね。
書きたい話が二つ程あるのでよかったらよろしく願いします。




