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目覚め

本編完結です。次回エピローグです。

 重い瞼の隙間から差す久しぶりの光りに戸惑いながら何度か瞬きを繰り返しながら目を開いた。そこには私の日常となった家の天井が目の前いっぱいに広がった。

 夢から醒めた微睡みの頭では、いまの自分の状況が理解できずに辺りを見渡すと、ベッドの端にうつ伏せで寄りかかって寝ているベリアルさんがいた。ちょっと顔色が悪い?


「っ、ベリ ア ル さん...」

 声が上手く出せない...


 私の声に気が付いたベリアルさんが勢いよく起き上がった。

「っ!美琴っ!目が醒めたんだね...よかった!」

 ベッドに横になっている私にベリアルさんが覆い被さるよるに抱きしめてきた。

「美琴っ。よかった!美琴っ」

 ベリアルさんの様子からすごく心配掛けちゃったみたいなのはわかるけど


「あの、私どうして...ってちょっとベリアルさんっ」

「美琴っ。美琴が生きているって私に感じさせて、美琴が寝ている間このままずっと目を醒まさないのか不安で生きている心地がしなかったんだ、だからっ」

 そう言ってベリアルさんは私の顔のあちこちにちゅっちゅとキスをしてきた。


「あっ、ベリアルさん、ちょっと待って、私、んっ、どうして寝ていたのか、まだよく思い出せていなくて、だからっ」

「みことっ!!目を醒ましたの、ね...」

「えっほんと!?えっと、ベリアル様...」

「きゃっ!リリーにマリー」

 二人にキスされているの見られたっ!恥ずかしいよぅ~


 にも関わらずベリアルさんはやめようとしてくれない。

「はぁ、んっ、ベリアルさん、リリーとマリーも来たから、ねっ、もう、やめて」


「えっと、私たちのことは気にしなくても、ねっ」

「そ、そうだね」

「美琴っほら、二人もああ言ってくれているよ、だからもっと美琴を感じさせて、ね?」

 そんなっ、そう言う問題じゃなくてっ!


「はい。ベリアル様そこまでです。心配だったのはわかりますが、美琴さんのお身体に触ります」

 そう言ってゼファイルさんがベリアルさんを引き剝がしてくれた。

「はぁはぁ、ゼファイルさん助かりました。ありがとうございます」

「...」


 少し不貞腐れたベリアルさんを余所に、ベッドのヘッドボードに寄りかかって私は意識がなくなる前のことを思い出そうとした。あの日、ベリアルさんとデートの約束をして

「あれ?デート...」

 デートの約束を思い出して幸せな気持ちを思い出した。そして待ち合わせに行ってないことを思い出して顔を青くする。

「って私デートの待ち合わせ行ってない。うそっベリアルさんごめんなさい」

「そんなことはいいんだよ、デートよりもいま美琴が私の腕の中にいるそれだけでいいんだ」

 そう言ってまた抱きしめられてしまった。


 ドキっとする。そしてそれ以上にずっとドキドキしていることが気になって、そのことを口にしようとする

「ベリアルさん、あの、美琴って...それに話し方も...」

 目が醒めてからベリアルさんの話し方と私の呼び方が変わっていることに気付いて聞こうとしたら、ベリアルさんが獲物を捕らえたかのような笑顔を私に向けた。ドキッとしたのと同時にちょっと背筋がゾクッとしたのは言葉にすることはできなかった。


「美琴、美琴...」

 そう言ってぎゅって更に抱きしめられた。

 

 そうだ。深い深い意識の中ずっと呼ばれていた気がする。

 それにベリアルさんの温もり。寝ている間ずっとこの温もりに支えられていた気がする。それと、もうひとつ私の中で何か感じたものは...。

 


「とにかく、みことが目を醒ましてくれて本当によかったよ。思い出すにしてもゆっくりでいいんじゃないかな」

「そうだよ、もう一週間も意識が戻らなかったんだから無理しないでも」

 マリーとリリーにもすごく心配掛けてしまった。

「マリー、リリー、心配掛けてごめんね」

「そんな、みことが謝ることなんてないよ、目を覚ましてくれただけで、ううっ」

 リリーが泣き出してしまった。

「もうリリー。美琴、お腹空いてるでしょ?私何か作るよ」


 タイミングよくお腹が鳴った。

「あははっ、すごくお腹空いてるみたい。私何食分、食べ損ねたんだろう...」

「気にするところそこなの?もう相変わらず食い意地が張ってるんだから」

「えぇ、だってぇ~」


 みんなの笑い声が部屋中に広がった。

 まだ意識がはっきりしていないけど、こうして大好きなみんなとまた笑い合えていることに安心する。

 でも私は、大切なものが欠けていることにまだ気付いていなかった。



 そうだ。私はアリスちゃんからもらった飴を食べた。そのあと意識がふわっとして、どんどん気持ちがよくなっていって、何も考えられなくなっていったんだ。


 そして深い深い暗闇に意識が落ちていくのを感じた。自分がどんどん闇に囚われていって、私の触れたくない、気が付きたくない感情に心が支配されていった。自分のことが嫌でたまらなくなって、傷付きたくなくて、自分から考えるのをやめてもっと深く意識を落としていくと気持ちが楽になっていった。だからもうこのまま自分の全てを手放そうとしたとき、何かが私の中に溢れてきた。温かくて優しくて、私の足りなかった何かにピタリとハマって、心が満たされていくのを感じた。


 それがなかったら私はきっと闇に心の全てを捧げていたと思う。


(にゃー)

 ...ジル、そうだジルを感じたんだ。この世界に来てからいつも一緒にいてくれたジル、あのとき私の中に入ってきたものはジルだった。


 あれ?ジルは?

 目が醒めてからジルの姿を見ていない。


 嫌な予感がした。

 聞くのが怖い。


「...あの、ジルの姿が見えないんですがどこにいるんですか?」

「っ...それなんだが美琴、私のせいでジルは...」

 ベリアルさんが言い淀む。



「噓ですよね、ジルが私を助ける為にいなくなったなんて。冗談言うなんてひどいですよ、どこかに隠れているんですよね?」

 女神様の命令で美琴が闇に囚われるを見届けたこと、ジルが自分を犠牲にして私を助けてくれたことを聞かされて、私は冷静でいられなくなった。


「美琴...冗談ではないんだ」

「私、信じません。ジルー出てきてよ。いままでずっと一緒にいてくれたじゃない、これからもずっと一緒にいてくれるって約束したでしょ。ジルいるんでしょ?隠れてないで出て来てよ」


 私の目から勝手に涙が溢れてきた。信じないと言いつつ、あのときジルを感じたのは確かだったから。私が闇に落ちるのを救ってくれたのはジルなんだってわかっているの。

 でもそれを認めたらジルは帰ってこないんだって、だから認めたくない。


 それに、私が飴を食べるときのジルの様子、何だか思い詰めていたことを何となくだけど気付いてた。それなのに、私があのときジルの様子をちゃんと気にかけていれば、きっとこんなことにならなかった。


 ジル、ごめんね。ジルがいなくなったのは私のせいだ。ジルはいつだって私のことを気にしてくれていたのにっ。

 次から次へと涙が溢れて止まらない。ジル、ジルッ。



「美琴、目醒めたのですね」

 そこに女神様が現れた。

「まさか目を醒ますとは、くそっ」

「カルロス約束ですよ、もう復讐は終わりです」

「いやでも、ほら、今回はあのライオンのおかげじゃないか、だから約束は」

「...」

 女神様が笑顔でカルロスを見る。目が笑っていない。

「わかった。復讐はもう、しない...」


「いい加減にしてっ!急に現れて何なのよ!復讐とか、約束とかそんなことどうだっていい。女神様ジルを返して!私のせいでジルが、どうしてジルに酷いことさせたのよ、ジルっ」


 叫ぶ私の頭に優しく女神様が手を置いた。

「美琴、本当にごめんなさい。まさかこんなことになるなんて、でも美琴とジルは互いに強い絆で繋がっていたからジルの想いが美琴を助けたのよ」

「なら、私もジルのことを助けたい。だってジルはここにいるの、小さな力だけど、いまでもジルのこと感じるの」

 私は胸に両手を当てた。ジルが私の中にいるのを感じられる 。


「ふふっ、それならきっと上手くいくわ、美琴これを」

 すると女神様が私に金色の玉を渡してきた。

「元々ジルは私から生まれた精霊。美琴の思いが強ければジルはまた甦ることができるはずよ」


 それを聞いて私は玉を強く両手で握った。目を閉じてジルのことを強く想う。

「ジル、ジル、お願い私のところに戻ってきて、また一緒にご飯食べよう。私たくさん作るから、だからお願いっ」


 あ、手の中が温かい、そして小さな鼓動を感じる。

 目を開けて手のひらを開く。

 そこには金色の小さな小さなリスの姿が現れた。

「にゃっ」

「その鳴き声、ジルなの?」

「にゃっにゃ」

「ジル、よかった~。ジルが私の中に入って来てくれたから私、目を醒ますことができたんだよ、ジルありがとう」

「にゃーん」

 身体は小さくなってしまったけれど、ジルが私の手の中にいる。よかった、嬉しくてまた涙を流すとジルはいつものように肩に登って私の頬にすり寄って来てくれた。

「ジル、ありがとう、これからもずっと一緒だからね」

「にゃ」



「ジル戻って来られてよかったわね。私のせいで本当にごめんなさいね」

「にゃおー」

 いつも穏やかなジルが私が危険な目に合わせようとしたことにかなりご立腹の様子。

「わかったわよ。もうしないからそんなに怒らないでよ」




「さて美琴とジルのおかげで私の力が完全に戻ることができた、本当にありがとう。いまからこの世界を光と闇バランスのとれた世界に戻します。プレジールも今度は私の悲しみの涙ではなく、私達の愛の証として人々の役に立ってもらえると嬉しいわ」


 すると女神様の足元に大きな魔法陣が現れて金色に光輝いている。穏やかな風が巻き起こり、一気に光と共に外に放出された。

 その光が広がって世界を包み、キラキラと光りが降り注ぐと、眠りについてしまった人は目を覚まし、皆の意識はエネルギーが満ち、そして所々にプレジールの木が生え始めた。


「これで世界は元に戻ったわ、出来ることなら皆に光だけではなく闇も恐れずに受け入れてほしいけれど、あとは皆の心次第ね。あなた達には沢山迷惑を掛けてしまってごめんなさいね、私とカルロスは二人きりで過ごせる場所に行くわ」

 女神様はそう言ってカルロスに寄り添った。


「我も、色々とすまなかった。これからはプレディーネと共に二人だけの場所でこの世界を見続けていくつもりだ。安心しろ、私はもう人間に復讐はしないと誓おう。だが、人の心には必ず闇は存在する、私が何かせずとも世界が滅びる未来もありうる。光と闇お前達がどう向き合っていくのか楽しみだな」

 思うことも色々あるのだろう。少し寂し気な顔をして闇の王はそう言った。


 元々、人々が必要以上に闇を恐れたせいで起きてしまった悲しい出来事。闇の王だからと言って怖がられ嫌われて一方的に封印しようとするなんて。しかも愛する人と共に時を過ごせなくなった悲しみは心に大きな歪みが生まれても仕方がないと思う。


 私の中にも少なからず感じた闇。自分の仄暗い、他人には絶対に見せたくない感情だけど、でもそれがあるから自分の感じていることがわかるし、それと向き合うことで自分でも気付かなかったものが見えるんだと思うの。


「私、辛いと思うことがあったから自分を見つめることができたし、成長して変わることができたと思う。いいことも悪いことも色々な経験ができたらかいまの自分がいるんだって思えるの。いまは、過去の自分も含めて自分のことが前よりも好き。それはこの世界に来ることができたから、だから色々大変だったけど前を向くきっかけをくれたことは感謝してます」


「やっぱり美琴は強いわね、そう言ってもらえて嬉しいわ。美琴、あなたにはこの先も後悔しない人生を送ってほしい。だから美琴の想いちゃんと伝えるのよ」

 最後の言葉は私だけに聞こえるように言って女神様は私にウインクするとカルロスに抱き着いて二人は消えてしまった。


「もう人騒がせな二人なんだから...でも、これで本当に終わったんですね」

「まあそうだな、あんなにも色々悩んだのに終わってみると、存外あっけないな」

「ふふっそうですね、でも私はこの世界に来てたくさんの大切な人達に出会えたから複雑な気分です」

「そうだな、私も美琴に出会えたからな」


「...ベリアルさん」

 私はベリアルさんを正面からちゃんと目を見た。

「ん?どうした?美琴」

 口調は変わったけれど、いつもの優しい笑顔のベリアルさんだ。


「ベリアルさん、私ベリアルさんのことが大好きです。だから私だけのベリアルさんになってくれませんか?」

 ドキドキする。でもこの気持ちを言葉にできた喜びが溢れてくる。

 ベリアルさんのことが好きな気持ちはとっくに溢れていたから、だから言葉にできたことがすごく嬉しくて自然に笑顔になった。


 ベリアルさんは一瞬驚いて、その後すぐに笑顔になって私を抱きしめた。

「ふふっ先に言われちゃった。もちろんだよ、美琴と出会ってから私はずっと美琴のことしか見ていなかったよ。これからもずっと一緒にいよう。大好きだよ美琴」


 ちゃんと両想いになれて、すごく嬉しくて泣きながらベリアルさんを強く抱きしめ返した。




                      ~fin~

この話しで本編完結となりました。

七夕に完結とは美琴とベリアルさんはやっぱり運命の二人ってことかな。


次回エピローグ後、番外編も。

皆様長くお付き合いくださいまして大変ありがとうございました。


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