どうしたい?
いつも読んでくださっている方大変ありがとうございます。
「佐伯さんっ」
「あれ?えっとここは...」
「何をぼけっとしているのよ、この書類今日が締め切りだからやっておいてよね」
「えっ、工藤さん?それに、ここは会社?」
「ちょっとしっかりしてよね、あんたが人の役に立てることなんて、このくらいのことしかないんだから、ちゃんとやるのよ、返事は?」
「...わかりました...」
辺りを見渡してもここは会社、そして私はいつもの自分の席にいる。
何か夢でも見ていたのだろうか...私は本に出てくる主人公のように強くて、自由で、好きなことをやって、自分の過去のトラウマから解放されて新しい人生を送っていた...はず?
「何あの子、頭までおかしくなったの?」
「くすくすっ、それヤバくない?」
「いつもみたいに、か弱く見せて男に媚び売ってるんでしょ、最低ーっ」
「きゃははっそれなっ」
私の悪口を言っているのが聞こえてくる。
あぁここはいつもの日常だ、そうだよね。私がそんな変わることなんてありえないよね、きっと昨日読んだ本の主人公と自分を重ねちゃったんだ...。
あからさまに聞こえるように悪口を言われているのに言い返せすことができない。男の人に媚びなんて売ったこともないし、そんなこと考えたこともない。なんでそんなこと決めつけて言われなきゃいけないの?私が何をしたって言うんだろう。
もやもやしてそちらを見ると、工藤さんと目が合ってしまって、焦って目をそらした。
「何よ?何か言いたいことがあるなら言えばいいでしょ」
「えっ、あの、その、別に言いたいことなんて...」
私はいつものように言葉に詰まる。
「何なのよ、あんた見ているとほんとイライラする。自分の意思とかないわけ?」
「...」
怖いっ、何も言えない、両手を握って顔を下に向ける。
「はぁ、うざっ。とにかく仕事ちゃんとやっておいてよねっ」
やっぱり私には自分の気持ちを言うことなんてできない。でも何でそんなこと言われなきゃいけないの?私文句とか言ってないんだから、もう構ってこないでよ。
嫌だ、もうこんな人生...。
―――――・・・
「美琴っお願いだから目を覚まして、私に美琴の笑顔を見せてくれ」
美琴が意識を失ってから三日が経った。
美琴は目を覚ますことがなく、時々、悪い夢を見ているのかうなされている。
そして美琴が植えたプレジールの木は枯れてしまって、人々は次第にやる気がなくなり、力のない者は美琴のように眠りについてしまっていた。
「ベリアル様、休まれないとベリアル様のお身体にさわります。少しで良いので休まれては...」
「私のことはよい、美琴がいま闇と戦っている。美琴の側に出来る限りいたいんだ」
ベリアルは美琴が倒れてからずっと美琴の手を握り続けている。
ゼファイル、リリー、マリーも美琴を心配して、度々様子を見に来ていた。
「美琴、私はまだ美琴にきちんと好きだと伝えていない。こんなことになるならもっと早く伝えておけばよかった。美琴はどんな私のことも否定せず認めてくれた、だから私は自分のことを認めることができた。美琴といるだけで、ただの日常が大切なものへと変わっていった、だからこれからもずっと私の側で笑い続けてほしい、美琴愛してる、お願いだから早く目を覚ましてくれ...」
ベリアルの切ない愛の告白を聞いた三人は胸を締め付ける思いだった。
するとそこにジルがやってきた。
「にゃぉ...」
「ジル...女神様に言われたから仕方がないって頭ではわかっているが、美琴のことを想うと私はジルを許すことができない...怒りで狂いそうになる、悪いが私の前に顔を見せないでくれ」
「...にゃ」
ジルは美琴のことが大好きだ。いつでも一緒にいて何をするにも美琴とジルは一緒にいた。実際、ベリアルよりもジルは美琴の側にいて美琴の成長を見守っていた。
女神様に言われて迷いがなかったわけじゃない、むしろ美琴を危険な目に合わせたくなんてなかった。それでも薬を口にするのを止めなかったのは、美琴なら絶対に闇に負けないってジルが思っていたから。
でもベリアル達に責められるよりも、美琴が眠りについて、うなされている姿を見ているのはジルも辛かった。いつもみたいに笑顔でなでなでして欲しい、美味しいご飯を一緒に食べたい、ジルの心もまた美琴のことでいっぱいになっていた。
「にゃおぅ~」
鳴き声と共にジルの姿が眩い黄金に光りだし、その場にいた四人は目を開けていられずに目を閉じた。
光が収まって目を開けると、そこにはジルの姿がなく代わりに黄金に光り輝くプレジールが一つ置いてあった。
「これは?プレジールだよね、綺麗な黄金色」
「ねぇジルはどこにいっちゃったの?」
「もしかするとこのプレジールがジルさんなんでしょうか」
「...」
ベリアルが黄金のプレジールを手に取る。
「ベリアル様?」
するとベリアルがプレジールを口に含んだ。
「「「!!!」」」
そして美琴を抱き起すと、そのままベリアルは美琴に口づけてプレジールを食べさせた。
上手く飲み込ませることができたようで、ベリアルはプレジールがなくなるまでそれを続けた。
「きゃーっマリー、これが本物の王子様のキスよっ」
「リリー、興奮し過ぎっ、やだドキドキするっ」
「マリーだって、興奮しているじゃないのよ」
女子二人は美琴への心配をよそにリアル王子様のキスに盛り上がっていた。
ベリアルが最後の一口を美琴に食べさせ終わると、ちゃんと飲み込ませたことを確認して美琴をベッドにゆっくりと寝かせた。
「美琴、お願いだから目を覚まして...」
「あとは美琴さん次第ですね...ジルさんに感謝しませんと...」
――――――・・・
『お前はなんのために生きているのだ?』
何のため...?
『答えられないだろう、それはお前には価値がないからだ』
そんなこと...
『そんなことないと言い切れるのか?他人に文句を言われても何も言い返せない、そのくせ自分は可哀そうだと、なんでそんなこと言われないといけないんだと心の中では怒って人のせいにして、悲劇の主人公ぶって、自分勝手だと思わないか?』
だってそうじゃない、私は何もしてないのに文句を言われて、何でなのよ、私は何も悪くない。
『ほら、またそうやって人のせいにしている。自分でも言っているじゃないか私は何もしていないと、何もしていないのに何故文句が言えるのだ、何もしていないお前に価値があると言うのか?』
いやだ聞きたくないっ
『お前はいい人面しているが、相手を傷つけるのが嫌だから言葉にできないと言いつつ、本当は自分が傷つきたくないだけ。結局、自分のことが可愛くて、自分のことしか考えていない』
そんなことないっ、やめて、もうやめてよ
『そうだ、もうやめてしまえ、もう何も考えないでいい、お前を傷つける者から私が守ってやろう』
ほんとうに?
『あぁだからお前は身を委ね、いま感じるままに深く深く入って眠りにつけばいい、そうすればお前はもう傷つくこともない』
もう傷付かなくてすむの...?
「みこちゃん」
誰の声?
「みこちゃん」
優しい声...この人の声を聞くと安心する。何だろう心が温かくなる。
「みこちゃん、あなたはこれからどうしたいの?」
私がしたいこと...?
あれ、この声の人はいつも私にどうしたいのか聞いてくれていた?
私はどうしたいんだろう?
『考える必要はない』
そうなの?
『そうだ、考えるとまた傷付くことになる、それは嫌だろ?』
うん、傷付きたくない
「みこちゃんはどうしたいの?」
あ、またこの声、やっぱり安心する。
『聞くな、考えるな』
だってどうしたい?って
私は、どうしたいんだろう?
『やめろ』
あ...そうだ、私は変わりたいんだ
何もできなくて現実から逃げてきた自分を変えたかった
「みこちゃんはどうしたいの?」
そうだ思い出した。夢じゃなかった。
私は異世界に呼ばれて、ベリアルさんに会って、お料理して、たくさん人達にも会って、たくさんの経験をして、そして私は変わることができた。
傷付くのはいまでも怖いけど、自分のこと、周りの人のことを否定しながら生きている方がよっぽど辛いってわかったから、ちゃんと向き合って受け入れるって決めたの。
だから私は考えるのをやめない、自分のやりたいこと、どうしたいのか、ちゃんと考えるよ。
それに私は、ベリアルさんにちゃんと好きだって伝えてない。曖昧なままで自分の気持ちをちゃんと言葉にして伝えてない。
このまま会えなかったら絶対に後悔する。
やっておけばよかったって、もう後悔したくない。これからはやってよかったって思えるようにしたいから。
完結までよろしくお願いします。




