変化。
いつも読みに来てくださってありがとうございます。
私は宰相さんに連れられてお城の調理場へと案内された。
ここでは10人の料理人の方達が働いていた、まずは私が作ったパンを皆に食べてもらってから、パンを焼いて国民に配ることを説明した。
すると皆さん、こんな美味しいパンを国民の為ならと喜んで協力してくれるとのことでお城の仕事の合間にパンも作ることになった。
街の人達がお米が主食と聞いていたから心配していたけれど、幸いお城ではパンは作っているらしく材料に困ることはなく早速パンを作ることになった。
ユリア王女様とのこともあったから料理人の人達と上手くやっていけるのか心配だったけれど、皆さん気さくな方達ばかりで、すぐに打ち解けることができて安心した。
さすが料理人なだけあって皆さん技術もさることながら仕事が早くてのんびり型の私は圧倒されてしまったけれど、色々な料理の話を聞くことができて、ここでパンを焼いている間は、嫌なことを忘れて楽しむことができた。
焼き上がったパンをお城で働く人から食べてもらって、徐々に国民へと配って行った。サバナ国のときのようなことが起きないように渡すときに国民全員に配ることを説明し、多めに持って行って必要なら渡すことを今回徹底してもらった。
パン作りは上手くいっている一方、ユリア王女様の嫌がらせは酷くなっていった。
私がいるときは必ず見せつけるかのようにベリアルさんにくっ付いて、私にだけわかるようにニヤリと笑い。周りに誰もいないときには私に「あなたの自己満足の為にみんなにパンを配って何様なのよ」「男性にちやほやされていい気になってはしたないわ」「あなたみたいな庶民がいると空気が悪くなるのよね」などねちねちと嫌味を言ってくるのだ。
私は嫌味を言われても何も言い返すことが出来なくて、いつもその場から逃げるように立ち去っていた、それにベリアルさんとユリア王女がベタベタしている姿を見ているとモヤモヤして、心が黒くなっていくような気がした。そんな自分から目を逸らしたくて、どんどん嫌な自分になっていく姿をベリアルさんに見せたくなくて、ベリアルさんからも避けるように距離をとるようになっていった。
そんなモヤモヤした、気持ちを誤魔化すように、私は更にパン作りに没頭していた。
「...」ジルはそんな美琴の様子を何も言わず見ているだけだった。
あるとき、私が調理場へと向かっていると、遠目にベリアルさんの姿を見つけた。自分から逃げているくせに姿を見て嬉しく思ってしまう。
ベリアル様の前にユリア王女様もいることに気付いて、いつものように胸が締め付けられて、その場から立ち去ろうとしたとき、ユリア王女様と目が合ってしまった。するとユリア王女が私に微笑んだと思ったら、ベリアルさんが屈んでユリア王女様の顔に顔を近づけていくのを見てしまった。
えっ、キス...しているの?
動揺して固まっている私にユリア王女は勝ち誇った笑いを浮かべて、嬉しそうにベリアルさんに抱き着いた。もうこれ以上は見ていられなくて逃げるように来た道を走った。
気が付いたら調理場にたどり着いて、感情を殺すようにしながら、いつも通りにパンを焼いた。
だけど...
「美琴さん、あの言いにくいのですが、このパンいつもみたいに美味しくないし、癒しの効果もないみたいなんですが...正直、パンの質は下がっていたので気にはなっていたのですが、流石に今日のは料理人としても目をつむることはできません」
料理人に、パンが美味しくないと言われてしまった。
私は驚いてパンを食べた...あ、何これ本当に美味しくない。私、こんなパンを作っていたなんて...。
そして、料理人のみんなの顔を見た...みんな一様に気まずい顔をしていた。
「美琴さんも最近元気ないのは気付いてました。何か理由があるのであれば話聞きますから...」
「あ、私、あの、ごめんなさい!!」
その場にいることが辛くなってしまって私は逃げるように調理場を後にした。
私はあまりのショックに涙を堪えながら、とにかく走った。そして人気のない裏庭にたどり着いた。
どうしよう、すごく怖い。自分がいまここにいるはオリュゾン国の人達に美味しいパンを食べてもらって元気なってもらう為なのに...自分の存在理由がなくなってしまった。いまの私にはそれ以外にできることなんて何もない。私は、料理をすることが唯一と言ってもいい、それなのに、癒しの効果どころか、あんなにも美味しくないパンを作ってしまった。これから私はどうしたらいいの?
「ジルぅ~」
「にゃー」
私はジルを抱きしめて泣き出してしまった。ジルは涙を舐めて励ましてくれたけれど、私はもうどうしたらいいのかわからなくて、涙がなかなか止まってくれなかった。
ふとジルの姿を見るとあんなに綺麗に輝いていたジルの金色がくすんだ色になっていた。
「ジルの綺麗な金色まで無くなって、これも全部私のせいなの?ジルごめんね、ごめんね」
あまりの出来事に自分を責めることしかできなかった。
とそこに、ガサガサと茂みから人の気配がして、私は顔を上げる。
(あ、ベリアルさん...?)
「美琴様、大丈夫ですか?そんなに泣いてどうされました?」
「マルクスさん...」
私は、あんなにも自分から避けていたくせに、ベリアルさんが現れたのかと期待してしまった。
「あ、マルクスさん、えっと目にゴミが入ってしまって、ほんと、大丈夫なんで...」
私はとっさに嘘を付いた。
そんな私を見たマルクスさんは辛そうな顔をして
「美琴様がそんなにも辛い思いをしているのに私にはできることがないのが悔しいです。わかりました、何も聞きません。だから、せめて美琴様の側にいることを許してください。これは私の勝手な自己満足なので」
「...マルクスさん」
「美琴様がベリアル様に惹かれていることは存じております。私では変わりになれないのもわかっております。それでも、美琴様が辛そうにしているのを見ない振りして一人にすることはできません」
私はマルクスさんの言葉に驚いてしまった。どうしてそこでベリアルさんが出てくるの...
「え、ベリアルさん?...どうして...」
「美琴様は、いつも誰かの為に一生懸命になって、自分のことのように、どうにかしようとしてくださる、とても優しい人だ。でも自分のことになると気が付かないうちに我慢してしまう、辛いときには辛いと言って誰かを頼ってもいいんですよ。美琴様が頑張っているのは皆さん知っています、だから、美琴様が辛い思いをしているのは私達も辛いんです。だから、少しでも頼ってほしい...」
私が辛いと皆も辛い...の?
「マルクスさん...私」
「美琴様、美琴様の騎士様の到着ですね」
マルクスさんの視線の先に目を向けると、そこには、いつもは余裕に満ち溢れているのに、いまは汗をかいて、焦って走ってきた様子のベリアルさんがいた。
「ベリアルさん...」
「みこちゃん、いた、良かった~。マルクス助かったわ、ありがとう」
「美琴様にこれ以上辛い思いをさせるのであればベリアル様でも許しませんよ、そのときは私がどんなことをしてでも手に入れますので覚悟してください」
「肝に銘じるわ、二度とないように!」
二人は何かを話した後、ベリアルさんと替わってマルクスさんが去って行く。
「あ、あのマルクスさん!ありがとうございます」
振り返ることはなく片手を上げ、マルクスさんは行ってしまった。
ベリアルさんだ。ベリアルさんが来てくれた。そのことが嬉しくて、自然とまた涙が出てきた。
「みこちゃん大丈夫?さっき料理人の人がみこちゃんのこと心配して、通りかかった私に知らせてくれたのよ。あぁ、こんなにも泣きはらして。ごめんなさいね、みこちゃんがこんなにも辛い思いをしていたのに、私、何もしてあげられなくて、みこちゃんが想っていることちゃんと話聞くから、私に聞かせて」
いつもの優しいベリアルさんの笑顔
「ベリアルさん...私、怖くて、もうどうしたら...」
私はそれ以上言葉を紡ぐことができず、ベリアルさんに抱き着いてまた泣いてしまった。
ベリアルさんはそんな私を優しく抱きしめ頭を撫でてくれた。ベリアルさんの温もり、安心する。本当はずっとこうして抱きしめてほしかった。抱きしめてもらって自分の気持ちに気付いた。
「みこちゃん落ち着いた?」
「あ、はい、ありがとうございます」
気持ちが少し落ち着いて我に返って恥ずかしくなった私は、ベリアルさんから離れようとしたけど、それを止めてられて、そのままベリアルさんの腕の中に居続けることになった。
「みこちゃん、みこちゃんが辛いなら、すぐにでもお米を買い付けてレピアス国に帰ってもいいのよ?」
ハッとしてベリアルさんの顔を見る。
私、もう我慢しなくてもいいの?
でも、それって逃げることになるんじゃ...レピアス国とオリュゾン国の関係にも傷が付いちう。
それに、このまま帰っても私は...
「あ、あの、ベリアルさん!私、料理が出来なくても掃除で何でも、私ができることしますので、だから...」
「みこちゃん!私ね、みこちゃんの作った料理が食べたいだけでみこちゃんと一緒にいるんじゃないのよ?みこちゃんと一緒にいるのがすごく楽しいし、ただ一緒にいられるだけで幸せなの。だからね、料理ができなくたって、みこちゃんの価値が変わるわけじゃないし、みこちゃんはそのままでいてくれていいから」
「私のままで...いいんですか?だって、それじゃあ...」
「いいに決まっているじゃない。むしろ、みこちゃんが私から離れようとする方が許せないわよ。だからね、みこちゃんが辛いならもういいのよ」
私は何て幸せなんだろう、こんなにも自分のことを肯定してくれる人が側にいてくれて、それなのに私は...
「あ、あのベリアルさん、ごめんなさい」
「それは、何のごめんなさいかしら?」
「私、ベリアルさんのことずっと避けてたんです」
「そうね、ずっと寂しかったわ、何で避けてたのか聞いてもいいかしら?」
「私、自分の中にどんどん嫌な感情が溢れてきて、それをベリアルさんに見られたくなくて、ベリアルさんに話したら、私きっと、八つ当たりしちゃってたと思うから...」
「八つ当たりって?」
「だって、私の目の前で、ベリアルさんとユリア王女様が仲良くくっ付いてて、それを見ているとモヤモヤしちゃって...さっきもキス?しているのを見てしまって、すごく嫌で...」
(あれ、これって私...)
「キス?私そんなことして、あ、あれね。あれはユリア王女様が急に眼が痛いって言い出して見て欲しいっていうから確認していたのよ。キスってふふっ」
(私、キスしてるって勘違いして、冷静に考えればわかるのに...それってベリアルさんだったから...?)
ベリアルさんが嬉しそうに笑っている。
「ベリアルさん、そんな、笑わないでください」
「だって、それってみこちゃんが私とユリア王女様を見て嫉妬してくれたってことでしょ?」
顔に熱が集まるのがわかる。
(さっき、勢いで言ってて自分で気付いちゃったけど。そりゃあ、ベリアルさんも気付くよね、恥ずかしい~)
ずっと、モヤモヤしていたのが嫉妬だって気付いて、気持ちがストンって心に収まった。ユリア王女にベリアルさんを取られて嫌だったんだ。本当はもうとっくに、ベリアルさんのことお母さんなんかじゃなくて、男の人として好きになってたんだって。
「みこちゃん?」
顔を上げるとベリアルさんの顔が近くにある。ベリアルさんの宝石のようなキラキラした紫色の瞳と目が合う。更に顔に熱が集まっていく、好きだって自覚したから余計に恥ずかしい~、顔を逸らそうしたら、ベリアルさんが私の顎に手を添えて動くことができない。
「ベリアルさん、手、を、離して...」
「みこちゃんは、私がユリア王女様とキスしたら嫌なのよね、それならみこちゃんとなら、キス、してもいいのかしら?」
「へっ?あ、えっと」
(えっ、キス?!しかも、いまキスって強調して言ったよね!!!)
言葉に戸惑っているとベリアルさんは、優しく、私の額に、泣きはらした目に、頬にと、キスを落としていった。緊張で動けない。そして、ベリアルさんの唇が私の唇に近づいてくる、えっそんな好きっていま気付いたばかりでキスされちゃうの?告白もまだしてないのに?こんな勢いでキスなんて!どうしたらいいの?思わず目を閉じてしまった、あわわ、これじゃあ、してって言っているみたいじゃない。
私の唇にベリアルさんの吐息がわかるくらい唇が近づいてくるのを感じた...ドキドキする。
あと少し...。
「にゃーおーん!」
もう唇が触れるか触れないかのところで、ジルの鳴き声が響き渡る。ベリアルさんも私も驚いて身体を離れてジルを見た。
そこには眩いほどに光を発しているジルの姿があった。
「ジル、すごい光ってる。何でさっきはくすんでいたのに...」
そして、光は段々大きくなったかと思ったらジルの身体が大きくなっていって、立派なたてがみをした光り輝く金色のライオンの姿がそこにあった。
みことちゃん、やっと好きだと自覚してくれた...遅いよね
これでやっとこさベリアルさんもガツガツいける...のか?
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糖分期待。




