いざ出発!
現在、レピアス国とサバナ国との国境を目指して馬車を走らせている。
今回オリュゾンに同行してくれているのは、ベリアルさんとゼファイルさん。
あとは護衛の人が三人に御者の人が二人。少ない気もするけれど、他国に行くのに大人数で目立って行動するのもよくないとのことでこの人数に収まった。
普段の姿を見ていると意外だって思ってしまうんだけど、ベリアルさんとゼファイルさんも剣も体術も幼少の頃から習っていて腕に自信があるらしい。王族なら身を護ることはやっぱり必要なんだろうな。
ジルを抱きしめ、私のわがままで連れて行ってもらうんだから、できるだけ迷惑かけないようにしないと。みんなが無事に帰れるようにと願った。
馬車二台に三人ずつ、私はベリアルさんと護衛のマルクスさんって人と一緒に馬車に乗っている。
「マルクスさん、私は美琴と言います。長い旅になりますがよろしくお願いします」
緊張しつつ挨拶をすると
マルクスさんは人の良さそうな笑顔を返してくれて
「いえいえ美琴さん、こちらこそよろしくお願いしますね。私も正直この仕事をいただけて助かりましたから」
「助かる?」
「あ、いえね。私事ですが、実は私サバナ国のポタル出身なんですが、娘が病弱で、腕の立つ薬師がいるって聞いてレピアス国に来ていたんですが、世界がこんなことになってしまって、税関が厳しくなってサバナ国へ帰ることができなかったんですよ」
「娘さんの具合よくないんですか?」
「調子のいいときはいいんですが、悪くなると何日も寝込んでしまうんです。医者にも見せたのですが、原因もはっきりせずで色々な情報を頼りにどうにかなればと思っているのですが、なかなか...」
ポタルの街を通るなら、娘さんの様子を見ることができればマルクスさんも安心するよね。病弱なのは癒しのパンで治るかはわからないけれど、食べてもらうこともできるし。
「ベリアルさん、オリュゾン国までの道のりでポタルの街は通りますか?」
「ポタルなら通る予定になっているわよ」
ベリアルさんが地図を見て確認してくれる。
「なら、マルクスさんの娘さんの様子見に寄ってもいいですか?」
「みこちゃんならそう言うと思ったわよ、マルクスを雇うと決めたのはサバナ国出身だったから、元から寄るつもり」
「そうだったんですね、ならよかった」
「私の都合まで、ほんとすみません」
「いいのよ、みこちゃんもその話を聞いたらそうするって言うと思っていたし、それにマルクスの護衛としての腕も買っているのよ」
「...あ、ありがとうございます」
マルクスさんが申し訳なさそうにしている。
「もう、オリュゾン国へ行くとなったいま、みんなのわがままの一つや二つ大したことじゃないわよ」
「わがままって...ベリアルさん、私がオリュゾン国に行きたいって言ったのもしかして怒って、ます?」
ベリアルさんが満面の笑みで答える。
「私も納得してここに来ているんだから怒ってないわよ。もうみこちゃんは決めたらすごい行動力だから関心しているの。ほんとみこちゃんは何をするか目が離せないわよね」
笑顔が怖い...
「褒められてるのか、けなされてるのかわからないんでけど...」
「ふふっ」
笑いながら頭を撫でられた。嬉しい...いつものベリアルさんだ。
オリュゾン国に行くって決まってからは慌ただしくて、オリュゾン国に行きたいって強気にでちゃったから、後々、ベリアルさんに対して勝手に気まずく感じて、ちょっと距離を置いていたから、こうして頭を撫でられるの久しぶりで安心する。
ジルも私の肩に乗って頬ずりしてきた。うん元気出たよ、ありがとう。
しばらくするとサバナ国の国境が見えてきた。大きな門に門番が二人立っている。気が立っているのか穏やかな感じがしない。
ゼファイルさんが馬車から降りて、レピアス国の印が入った書状を見せたが話が嚙み合っていないのか時間がかかっている様子。
レピアス国民が元に戻ったことで、サバナ国へもパンを普及することになったの最近のこと。定期的に天然酵母は作って渡してはいるけれど、まだ一部のサバナ国民にしかパンが回っていないみたい。
なので今回の旅の間、出会った人達にパンを配ることは相談して決めていた。だから今日の出発の為に、王宮の人達ができるだけたくさんのパンを焼いてくれた。
そして、パンを門番に手渡す。パンの香りのおかげかすんなり食べてもらえて浄化もでき、ようやくサバナ国へと入ることができた。
サバナ国はレピアスの街並みとは違った雰囲気の街。白壁で統一された毎並みに花壇があったり、ツタが壁に沿って生えていたり、シンプルだけど上品な華やかさを感じる。
だけど所々荒れていて、人の争った跡もあった。
しばらく馬車を走らせると、賑やかな街並みに入っていった。人も増えて来たので、早速休憩も兼ねて癒しのパンを配ることにした。
私は馬車が止まるなり、知らない国にわくわくして、なりふり構わず
「私、先に降りて配ってきますね!ジル行こっ」
「ちょっとみこちゃん待って!」
ベリアルさんの静止を無視して私は一人広場へ行き、張り切って配り始めた。
「あ、あのよかったら、このパンどうぞ。美味しいですよ」
「にゃー」
近くにいた男性に声を掛けた。
「なんだ急に...見ない顔だな、何、俺に怪しいパンを食べさせてどうしようって言うんだ」
「えっそんな、ただ食べてもらおうと...」
怖い...。男の人の全く隠そうともしない憎悪が感じられる。
「そんなものより、金を出せ、それならもらってやるよ」
と、手を掴まれそうになった。
「いやっ!」
「にゃーっ!」
「みこちゃん!!」
男の人から手を掴まれそうになって嫌がる私に気付いたベリアルさんが助けようとする。
と、そこに
「えーっいらないなら僕が食べる」
って小さな男の子が私が手にしていたパンを取ってすぐさま食べてしまった。
「なんだ、このガキっ!」
「...」
パンを食べた男の子が動かなくなった。
私も、ベリアルさんも男の人も動かず様子を見ていると、しばらくして黒いモヤが口から出てきた。
何度見てもこの光景はすごいなって思う。
「...なにこのパン、すごく美味しいし、ここにあった黒いモヤモヤがなくなったよ!すごいっ」
「大丈夫?」
「うん、お姉ちゃんがこのパン作ったの?すっごく美味しい!あのさ、僕の友達にも食べさせてあげたいんだけど、みんなの分もくれないかな?」
「うん、いいよ!たくさんあるから友達にも食べさせてあげて。それとね、出来れば街のみんなにこのパンを食べてもらいたいの、パンを食べてもらうの協力してもらえないかな?」
私は、しゃがんで男の子に目線を合わせてお願いをした。
「いいよ!僕手伝うよ。友達にパン食べさせたらみんな連れてくるから待ってて!」
「ほんと!!どうもありがとう」
「おいっ!お前達、俺の話を聞けよ!」
「おじさん、ルックのお父さんだよね。ほら、このパン食べなよ!」
と、男の子が男の人に無理やりパンを口に入れた。
「...」
大人しくパンを食べた男性もまた動かなくなり口からモヤを出した。
「あ、俺は一体。あ、お嬢ちゃん、怖がらせてしまってすまなかった。このパンすごいな、心がモヤモヤして他人に対しての憎悪で溢れて、どうにかしたいのにどうにもできなくて、自分の心が壊れていくのを感じてあんなにも辛かったのに...」
「もう、みこちゃん大丈夫?」
「あ、ベリアルさん、大丈夫です。ごめんなさい、何も考えずに張り切って一人で突っ走ってしまって」
「ほんとよ!レピアスじゃないんだから気を付けないとダメじゃない」
「うぅ~ごめんなさい」
「もういいから、パン配りましょ」
その後は、友達をたくさん連れてきてくれた男の子達に、さっきの男性も手伝ってくれて、街の人達みんなにパンを配った。
黒いモヤが出した後はみんな、すっきりしたけれど闇に囚われていた自分を思い返して動揺していたけれど、元に戻れたことにみんな喜んでいた。
手伝ってくれた男の子が私の所に来た。
「お姉ちゃんのおかげで友達とまた遊べるよ、ありがとう。みんなおかしくなって毎日、あちこちでケンカや元気のない人ばかりで、みんな笑わなくなって、ずっとすごく辛かった、だからっ」
男の子はいままでのことを思い出して辛そうな顔で話してくれた。そんな姿を見て私は言葉を失って何も言ってあげることができなかった。
「...これよかったら食べて」
とジャムクッキーが数枚入った袋を渡した。
「うわぁクッキーだ、いいの!?」
「もちろん、お手伝いしてくれてありがとうね」
「ありがとう、大切に食べるね」
笑顔で手を振って男の子は去っていった。
これがいまの現実なんだ。
レピアス国の人達が元気に頑張っている姿を見て、もうみんなが救われて気になっていたけど、まだ苦しんでいる人達はいるんだ。
それなのに私は、自分が目に見えているものだけを見てよくなったって思ってた。異世界から来た私はどこか他人事に思っていたのかもしれない...。
私は自分が変わりたいから何かをしようとしていただけなのかな、パンを食べてもらって、喜んでもらえて、それが嬉しくて、自分はすごいんだって、ただの自己満足だったのかもしれない。
もしも、またアインスさんが何かをしてきて、今度こそ人々の心から光がなくなったら?
考えるとすごく怖い。
私はその現実をちゃんと見て、受け止めることはできるのかな。
「みこちゃん、大丈夫よ」
ベリアルさんが私の肩を力強く抱いてくれた。
「ベリアルさん...私っ」
「大丈夫。今日、みんなをこうして笑顔にすることが出来たのよ。だから、みこちゃんも笑っていなさい」
「はい。...男の子、笑ってましたね。ありがとうって」
「そうよ、あの子を笑顔にしたのはみこちゃんなのよ。だから大丈夫。私もこのまま黙ってアインスの思うようになんてさせないから...」
オリュゾン国に行くことが目的だったけれど、いまの現実を見て考えさせられた。この旅は私にとって目的以上に必要なことだったのかもしれない。
「何だよ、これ。聞いていた話と全然違う...俺はどうしたらいいんだ...」
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