王宮にて
「ごちそうさまでした。では、私はこれから王宮に戻ってこのことを伝えて参ります。大変急ではございますが、午後にお迎えに上がりますのでご準備の程よろしくお願いします」
「えっもう今日ですか?」
「美琴さん申し訳ございません。本来でしたら当日なんてことにはならないのですが、ベリアル様が散々、逃げていらっしゃったおかげで“とにかくさっさと連れてこい”と王からのご命令なのでご了承ください」
「みこちゃん、私のせいでごめんなさい...」
うっ、そんな顔で素直に謝られたら何も言えないじゃないの
「...わかりました」
「よかった。じゃあみこちゃん、着ていくドレス選びましょ。お化粧もしてお洒落しましょう、あぁ楽しみね。最近は料理するからって私の作ったおしゃれな服、全然着てくれないから寂しかったのよね~」
ベリアルさんは楽しそうにドレスを選びに行き、ゼファイルさんは私に同情の目を向けて帰っていきました。
「ベリアルさん嫌がってた割に楽しそうですね」
ちょっとは嫌味を言う権利はあると思う。
「...本当はね、父に会うのはまだ怖いのだけど、みこちゃんが一緒なら大丈夫だと思えたから。ごめんなさいね、私の勝手で巻き込んでしまって」
軽い嫌味のつもりがベリアルさん、落ち込んでしまった。たまにこうして弱い部分を隠すことなく私に見せてくれる。少しでも信頼してくれているのがわかるから嬉しかったりする。
それに、いつもは頼りになるベリアルさんのこの時々見せるギャップ、ドキッとする。これ見せられると嫌なんて言えないじゃないの、もうズルいんだから。
「あぁ、もう、いつかは私も行かなきゃいけなかったんでしょうから、ベリアルさんのせいではないです。私が一緒に行ってベリアルさんが大丈夫だと思えるなら一緒にいますから」
「もう、みこちゃん優しい~大好きっ」
いきなり元気になったと思ったら抱き着かれた。ギャーッ!心臓バクバクするからやめて~
「さぁて洋服選びましょ、そのあとお風呂入って支度しないとだから時間なくなっちゃうわ」
すぐに離れた。抱き着いたことなんて、何にも気にしていないベリアルさん。この世界の人はこの距離感が普通なのかな。私だけが気にしすぎて、勝手に振り回されてるだけなのかな。
最近は意識し過ぎているせいか、ベリアルさんのことを考えることが増えた気がする。
ベリアルさんが選んくれたドレスはラベンダー色の生地に銀の糸で花の刺繍をあしらった、胸下から切り替えが入ったエンパイアドレス、胸の上からは小花が散りばめられた透け感が可愛いチュールレース、そのまま手首まで長袖になっている。綺麗だけど可愛いドレスを着て、鏡に映った自分の姿を見て、自分が自分じゃないみたいでドキドキして、まるでお姫様にでもなった気分だった。
「綺麗なドレス...」
「うん、みこちゃんによく似合ってるわ、すごく素敵よ」
後ろから両肩に優しく手を添えて、私の背に合わせて屈んだベリアルさんの顔が、私の顔のすぐ後ろ側にある。ちっ近い。
そして、ベリアルさんの姿を見てドキッとする。
カッコイイっ!!花柄だったり普段はどこか女性的な要素を取り入れていたけれど、今日の姿は正装。濃い紺色のジャケットにシルバー色の刺繍のラインが施されていて、肩章も付いていて軍服なのかな、マントまで付いている。小説やゲームとかで出てくるザ・王子様って感じ。
ダメだ。かっこよすぎる。ドキドキして見ていられなくて、うつむこうとすると
「ダメよ。みこちゃん前を向いて」
「ベリアルさん、だって...」
鏡越しにベリアルさんと目が合う。
どうしよう顔に熱が集まるのを感じる。ドキドキが収まらない。
すると、ベリアルさんが私の髪に紫色の小さな花達の髪飾りをさしてくれた。
「みこちゃんにはキラキラした宝石も似合うでしょうけれど、私が育てた花を付けて欲しいの」
「あ、すごく可愛い。私、これすごく好きです。ベリアルさんが守ってくれているみたいで嬉しい、ありがとうございます」
正直私は宝石にそれほど興味がない、ベリアルさんが私のことをわかってくれていることが嬉しい。さっきまではいつものベリアルさんじゃない気がしてドキドキしてたのに、いまはすごくほっとして癒さていくのを感じた。
「もう、素直にそんな可愛いこと言わないでよ。ほんとみこちゃんは可愛いわね」
「ベリアルさんも、そんな可愛いとか言われると私っ」
「ふふっお互いさまよ。そろそろ時間ね、さて私のお姫様、お手をどうぞ」
そう茶化すように言ってベリアルさんが手を取ってエスコートしてくれた。
そして私はいま王宮の謁見の間にいる。
さっきまでの穏やかなちょっぴり甘い時間はどこへやら、いま私の目の前には王様と王妃様、つまりベリアルさんのお父さんとお母さんがいらっしゃる。
どうしよう緊張する、口から何か出て来そうなくらい。
ベリアルさんと、ジルを肩に乗せた私の四人だけの空間。
「ベリアルよく来た」
「...」
えっベリアルさん、早速無視ですか!?
「ベリアルちゃん会いたかったわぁ、もう、全然帰ってきてくれないんだもの、お母様は寂しかったわ、ずっと待ってたのにぃ~」
あれ、王妃様って言ったらもっとこう、女王様的な雰囲気を想像してたけど、ベリアルさんの話し方と似てる。優しそうな人。
「...お母様ごめんなさいね。でも会えて嬉しいわ、元気になってくれて本当によかった」
「相変わらず何なんだその話し方は!みっともない」
ベリアルさんが横でため息をついた。
「あなた!今日はベリアルちゃんにお礼を言うんでしょ、それに、いままでのこと謝るんじゃなかったの?」
「うっ、それはそうなのだが...」
「お母様いいわよ。その人が変わることなんて、全く期待してなかったわよ、だから来たくなかったのよ」
気まずい...お父さんと仲良くないのか、だからベリアルさん、ずっとここに来たくなかったんだ。
「あなた、いい加減素直になった方がいいわよ、それこそみっともない。あなたがそんな態度なら私が代わりに言ってあげます」
「セ、セシル言うってまさか、あぁ、やめてくれ」
『セシル、私はいままで何てことをしてきたのだ、アインスの闇に取り込まれて、私はようやく気が付いた。アインスがどんな気持ちでいたのか、私はアインスのことを使える道具だと思ったことなど一度もなかった。だが優秀で何でも器用にこなすアインスに期待しすぎて、それが当たり前だと思い感謝も労いも言わなかった、そして気が付けば会話は全て仕事のことだけになっていた。ありがたいと思っていたのに、すごい自慢の息子だと誇らしかった、でも私はすべて言葉にすることを怠った。言わなくてもわかると、私の怠慢だ。それにベリアル、ベリアルに対して冷たい態度をとってしまった。素直で可愛い天使のようなベリアルに政治の闇の部分を見せたくなくて、ベリアルの天使のような笑顔が可愛くて仕方なかった。そんなベリアルが穢れてしまうようで怖かった。兄を慕い、背中を追いかけるベリアルを微笑ましく思っていたのに、こんなことならアインスと一緒に仕事を教えればよかった。ベリアルにはまだ早いとベリアルの気持ちを無視して距離をとった。ベリアルがセシルの部屋へ行くようになったから安心して、ちゃんと向き合うことから私は逃げてしまった。全ては私の態度が原因で息子を二人とも傷つけてしまった。こんなことになるまで気が付かなかったなんて、父親としてはもちろん王としても私は失格だ。セシル、もう遅いだろうがいまからでも子供達に償うことができるだろうか』
これって、王様が言ったこと全部覚えてたってこと?すごい...
「はい、以上がベリアルちゃんのジュースを飲んで正気に戻ってすぐに言ったことです」
「はぁ...セシルこんなことにお前の能力を使わなくても...」
「こんなことじゃありません。大体あなたがはっきり言わないのが悪いんじゃない」
「あぁ、そうなんだが。あ、あのなベリアル...」
「は?何よそれ、要するに言葉にするのが苦手であーゆー態度をとっていたって、そうゆうこと?」
「簡単に言うとそういうことね、まったく素直じゃないわよね~。私はそんな不器用なあなたが可愛くて好きよ」
「そ、そうかセシル、私もお前のことだけを愛しているよ」
「ふふっ知っているわ」
こっちが恥ずかしくなるくらい、甘い空気が漂い始めた。
「イチャつくのは二人だけのときにやってください!!」
「あらやだ怒られちゃった」
「ごほっ、すまない。それで、ベリアル、いままですまなかった。お前の気持ちをちゃんと聞くべきだった。よかれと思ったことが結局、それ以上にベリアルのことを傷つけてしまった。本当に申し訳ない」
「そんな、今更謝られたって...」
「うっ、そうだよな。今更こんな言葉一つで許してもらえるとは思ってはいないがどうしても話したかった。それに今回のことのお礼は言わせてほしい、お前に苦労を掛けてしまって大変申し訳なかった。この一年ベリアルが本当に頑張ってくれていたことゼファイルから聞いた。感謝する」
「......何なのよ」
ベリアルさんが戸惑っている。いままで誤解があったみたいだからすぐにどうこうは無理かもしれないけど、いつか受け入れることができたらきっと分かり合える日も来るのかな...。
ここまで読んでいただきありがとうございます。




