終わり来るその時まで
「それで父の意識が元に戻ったのね」
「そうなのです。美琴さんが作って下さった、プレジールと野菜と果実のミックスジュースですが、スプーンで少々無理やり口に入れましたら飲み込まれて、しばらく様子を見ていましたら、口が開いたのでスプーンで飲ませるのを繰り返したところ、急に動かなくなり、やはり皆と同じ様に口から黒いモヤが出始めました。ただ国王様から出てきたモヤの量がとても多かったのでそれだけ闇に取り込まれていたんだと考えられます」
パンが食べられないほどだから、あまりよい状態ではないとは思っていたけど、モヤの量はどれだけ影響を受けているかによるのか。確かにリリーのお父さんとお母さんでは違いがあったし。
「その後、残りのジュースはご自身で飲まれまして、完全に元に戻られた様子です」
「そうなのね。これでお母様も安心できたかしらね」
「はい、王妃様も大変喜ばれておりました。それでですねベリアル様、王がぜひベリアル様にお会いしたいそうです」
「父が私にですって?...そんなのありえないわ」
「本当です。今回、ご自分が闇に取り込まれて、意識が黒いモヤの中をずっとさ迷っている間ずっとアインス様の心の闇を感じていたそうです。それで、ベリアル様を蔑ろにしてきたことも含め、息子たちに対してご自分がしてきたことに気が付いたようで悔やんでおられました」
「...」
「ベリアル様がこの一年、色々と手を尽くしてくれたこと、今回のジュースのことも感謝しており、会ってお礼を伝えたいそうです」
「...私は、正直まだ父とは会う気にはなれないわ...それに、いま会ったら絶対にジュースのことも色々聞かれる、野菜と果実を混ぜたからプレジールのことまでは気づいてないと思うけど、父は鋭いから何か疑ってはいると思うの。いまはまだプレジールのことは公にするつもりはないのよ。それに話したらみこちゃんのことも話さなきゃいけなくなる。私はいまの生活が気に入っているの、大切なの、壊されたくないわ、だからせめて国民全員を元に戻せてからでも遅くはないでしょ」
「ベリアル様...わかりました。私の方から王には話しておきます」
「ゼファイル、ありがとう。ゼファイルには色々と面倒をかけてしまってごめんなさいね。これでもとても感謝しているのよ。ゼファイルがいてくれて本当によかったわ、ありがとう」
「ありがとうございます、ベリアル様。ただ、時間を置くにも限界がありますので...」
「わかっているわ...」
ベリアルさん、やっぱり王族ともなると色々とあるのかな。いつも明るくて穏やかでちょっとお茶目ですごく頼れる優しい人。でも王子さまのベリアルさんは、私の知らないベリアルさんなんだよね、ちょっと寂しく思ってしまう。
時々ベリアルさんの弱さが見えるときがあるけれど、そのとき私はベリアルさんの支えに少しでもなれているのかな。私は自分の弱さはもちろん人の弱さも受け止められるくらい強くなりたい。
この家に住み始めて数日しか経っていないけれどあまりにも心地が良すぎて、この日常が当たり前のようにずっと続くんだって思ってた。そうだ、いつかはこの生活が終わってここを出て行かないといけないんだ。
すごく胸が締め付けられる。そりゃそうだよね、ベリアルさんは王子様なんだから、ずっと一緒にはいられない。
変わりたいこと。
変わりたくないこと。
私が変わることを諦めたとしても、きっとこの生活を続けることはできないし、どんな形であっても変わっていく。それなら私に出来ることはそのときに後悔しないように、いまを大切にすること。
人生一度きり。でも私はこうして自分を見つめて、やり直すチャンスがもらえたんだから自分の人生、無駄にしないようにしないと。
私の気持ちが伝わったのかジルが肩に乗って頬ずりしてきた。ジルとはこれからもずっと一緒にいられたらいいな、その想いがジルに伝わったみたいで「にゃーん」って答えてくれた。言葉はわからなくてもジルとの繋がりは日々強くなっているのを感じているから、嬉しくて泣きそうになってしまった。その時が来たら、ジルと一緒にのんびりカフェを始めるのもいいかもしれないな...。
「はい!じゃーこの話はおしまい。もうせっかく美味しいピザ食べてたのにこんな話終わり。みこちゃん、みこちゃんの作った料理を食べると本当に幸せな気持ちになれるの。だから、これからもこの家で美味しい料理作ってね」
そう言って、私の頭を優しく撫でてくれた。
ベリアルさん、私の不安な気持ちに気付いてくれたのかな。優しく頭を撫でられて胸の締め付けられた思いが溶けていく。
「ありがとうございます。じゃあ早速、甘くて美味しいケーキ作りますね」
ここまで読んでくださってありがとうございます。




