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王宮料理人

 翌日、ゼファイルさんが料理人を連れてお店にやってきた。

「美琴さん、こちらが王宮に勤める料理人のマリーです。今年18歳で、料理人としてはまだ日が浅いですが料理の腕は皆から認められています」


 ちょっと癖のある赤毛の髪を短く切り揃えている小柄な女の子。

女子高校生...突き飛ばされたことを思い出してしまった。でもマリーさんとは関係ないんだから大丈夫。

「マリーさん、美琴です、よろしくお願いしますね」

 握手をしょうと手を差し出す

「...マリーです」

 名前だけ告げると、すぐさま私の後ろにいるベリアルさんの方へ行ってしまった。


 えっと、この世界には握手はないのか、な?ちょっと戸惑っていると、

「ちょ、マリー、美琴さんに失礼ですよ」

 ゼファイルさんの話しを聞く気もない様子。

「美琴さん申し訳ありません。マリーは、世界が闇に取り込まれてしまったせいで、争いに巻き込まれて、母親を亡くしているんです。ここへは本人たっての希望だったので連れてきたのですが...本当は素直で明るい子なのですが母親が亡くなってからはどうにも...もし問題があるようならすぐにでも別の人を連れて来ますので、申し訳ありませんが今日のところはよろしくお願いします」


「あ、はい、わかりました」

 正直、かなり不安である。いままで人と上手く話せなかった私が、こんなにも心を閉ざしている子と、うまくやっていけるのだろうか、どうしたものかな。

 でも最後までやり遂げるって決めたんだからやってみないことには始まらない!マリーさんに声を掛けて台所に案内をした。反応はないが一応ついて来たのでよしとしよう。


 台所に行くと肩に乗っていたジルがマリーの頭の上を経由してから、いつもの調理場の定位置に降り立った。そんなに重くはないジルだけど、焦った私はマリーさんとジルを交互に見た、マリーさんは特に気にもしていない様子で安心した。ジルはにゃーと素知らぬ顔をしている。もうっ


 まずは酵母を誰が作っても問題ないのか試す為にマリーさんに作ってもらった。

 それから基本の丸パンを作り始めた。材料を二つずつ用意して作りながら説明していく。料理人なだけあってマリーさんは私より全然手際がよくって感動してしまった。

「マリーさんやっぱりすごいんですね!手際がすごくよくって、わあぁ~すごく勉強になります」

「...」

 反応はないもののちょっと空気が変わった気がする。

 好きな料理をしているからか、マリーさんの反応が悪くても思った程気にせずに作業をすることができて安心した。


 でも、この後パンを焼き始めてから何となく聞いてしまったこの質問がマリーさんから感情を引き出すことになってしまう。


「マリーさんはどんなパンが好き?」

「別に...食べられれば何でもいいんじゃないですか」

 あうっ。刺さる。

 でも私はここにきてベリアルさん達と食べた食事は最高に美味しくて幸せな時間だった思いから口から自然に言葉が出てきた。


「生きる為だけなら何でもいいのかもしれないけど、私は何でもいいとは思わないなー。やっぱり美味しいと思えるものを食べたいし、食べてもらいたいじゃない。ベリアルさん達と食事をするようになって、食事がすごく大切な時間になったから」

「...そんなの」

「えっ?」

「そんなのわかってるよ!あんたはいいわよね、一緒に食べたい人達と食べることができるんだからっ!私はもう、もう一緒に食べることなんてできないんだから、私の作った料理を食べて美味しいってすごく喜んでくれたから私は料理人のなろうと決めたのに、もっともっと美味しいものを私が作ったものを食べてもらいたかったのにっ!何で、何でいまなのよ、何でもっと早くパンを作ってくれなかったの!あんたがもっと早くに来てパンを作ってくれてたらお母さんはこんなことにはならなかったのにっ」

 マリーさんは泣きながら、一気に感情を吐き出した。

 そして、耐えきれなくなったマリーさんは外に駆け出してしまった。

 追いかけようとしたときパンの焼きあがりのタイマーがなった。

「あっ」

 すぐにでも追いかけたかったけど、仕方なくパンをオーブンから取り出してからマリーさんを探しに行くことにした。



 マリーは家の前にあるブランコに座って、そしてその横にはベリアルがいる。

「ベリアル様申し訳ありません」

「何がかしら?」

「あ、あの私、美琴さんに酷いことを言いました。美琴さんが悪いわけではないのに感情をぶつけて、八つ当たりしました」

「そうなのね。あのねマリー、みこちゃんはね、この世界の人じゃないのよ。いきなりこの世界に呼ばれてしまって、もう二度とご両親には会うことはできないでしょうね」

「えっ!?」

 うつむいていたマリーは顔を上げてベリアルを見上げる。ベリアルは遠くこの世界を見渡すかのように前を見つめている。


「でもね、この世界の状況を知って、自分ができることはないか必死で考えて頑張ってくれているの。私とだって出会ってまだ四日よ?思い入れがあるわけでもないこの世界の為に、今までの自分を変えたいから自分に出来ることをするんだって言って。健気よね、私ももっと頑張らなきゃって思ったわ、だから私は、みこちゃんのこと出来る限り支えてあげようって思ったの」

「...」


「マリーがお母さんが亡くなって辛いのはわかるわ。でも人の痛みはあくまでその人の痛みだから、完全にわかってあげることはできないの。みこちゃんに八つ当たりしてスッキリした?スッキリなんてしないわよね。時間がかかってでも、マリーがちゃんと自分で受け止めて気持ちの整理を付けるしかないのよ」


「それにマリーが気持ちに整理を付けたからってお母さんことを忘れるわけじゃないのよ、お母さんにはもう会えないけれど、マリーの中にはずっとお母さんとの想い出は残っているじゃない」

「うぅぇ~ん...」

 マリーは号泣してしまった。


 やっと外に出て、マリーさんを見つけるとベリアルさんが隣にいた。ベリアルさんが一緒にいてくれたのなら大丈夫かな。

 私はそのまま駆け足でマリーさんの所に行った

「マリーさん、ごめんなさい。私、マリーさんの気持ちも考えないで自分の想いを口にしてしまって...あの、パン焼けたから一緒に味見しましょ」

 すると、マリーさんが勢いよく立ち上がると私に抱き着いてきて

「美琴~、ごめんなさい、ひっぅく、美琴が悪いわけじゃないのに八つ当たりして、ずずっ、酷いことして、ごめんなさい~」

 泣きながら謝ってきたマリーさん。

「えっマリーさん?ベリアルさんマリーさんと何話したんですか?」

「えーっマリーと二人だけの秘密よ。ねっマリー」

「はいっベリアル様」

 マリーさんが涙を流した顔で笑顔で返事をした。何だか吹っ切れた感じかな。

「マリーさんが元気になったのなら良かったです。パン一緒に食べましょ」


 落ち着いたマリーさんはちょって照れくさそうに、

「美琴、私のことは、マ、マリーでいいから」

 そう言ってマリーはさっさと中に入って行ってしまった。


 ベリアルさんを見ると笑顔でよかったわねって言ってくれた。

 


続きを読んでいただいた皆様、どうもありがとうございます。


ブックマーク付けてくれた方、評価してくれた方、どうもありがとうございます。

とても感謝です、ありがとうございます。

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