生命維持に必要なもの
太陽の温もりと風の涼しさ。窓辺にいたのでそうした心地よい感覚を全身に浴びれます。自分の体に触れ、肌の感触や鼓動を感じるのも落ち着きます。
残念な事に、せっかく憧れていた首無しになったのですが、どうも現実感がありません。――そう感じるのはなにもおかしくありません、この様なおかしな状況では。夢か、いえ悪夢のような事が起きていると客観的に見たらそうなるでしょう。
理屈も辻褄も合いません。
生命維持に必要な器官があらかた無くなっても生きているのですから。目も口も鼻も耳も。
当然食事なんて摂る事は出来ません。生命力の強い虫は頭を切り落とされただけでは死なず、しかし餌を食べる事が出来ないので飢え死にするという噂がありました。私も近い未来にそうなるのでしょうか。
いえ、そもそも呼吸も出来なくなっているのに何故生き延びているのでしょう。
それどころではなかった所為で、切断面、首のあった場所がどうなっているのかちゃんと調べていませんでした。本来であれば内側の肉も骨も剥き出しとなり血が噴き出ているはずですけれど、恐る恐る触れてみると何もありませんでした。
肩でありお腹であり膝であり、変哲のない部位の肌と同じような感触だけです。内側ではなく、よくある外側の感触だけ。まあ多少のざらつきはありますが。
異常はありませんでした、異常な事に。
普通なら頭を抱えてしまいそうですけど、抱える頭ももうありません。
脳が、体に繋がっていないにも拘らず未だにこんな――、
ああ、暗闇が近づいて来ます。その真っ黒なものが実際に見えている訳ではないですけど、実感としてそれが分かるのです。
段々と――、眠りにつく前のように意識のまとまりが無くなって行き、底に落ちて行くようです。
急に、何かが手に触れました。
反射的に手を引いてしまいましたがそれは再び手に触れてきます。それは柔らかく暖かかった。ああ、これは人の手た。
その手は指先を使って何かを伝えようとしてくれていました。
指はケイと名乗りました。
ですが、名乗ってもらう前に気づいていました。私の人生で一番愛した元恋人の手ですから。




