大切なもの
指と触覚だけのコミュニケーションは捗りません。意識も次第にぼやけていくのも感じます。それでもお互いの最終的に聞きたい事と言いたい事は分かりました。何度も繰り返し、心の中を涙で満たしてきた内容だからです。
どうしてこんな事をと彼女は聞き、こんな頭も首も不要だったからとだけ伝え、不明瞭で意味の分からない返答に彼女は困惑しました。そして一つの可能性に彼女は辿り着きます。
――あなたはあんなに美しい顔だったのに。でも、だからこそ悩んでいたのね。
そんな事はないやめてくれと伝えようとしても、それに続く言葉を止められませんでした。
――私なんかと違って。
思わず彼女の手を振り払ってしまいました。そうなると暗闇の中でまた一人になります。
切り落とした頭が喚いている。そのような振動を何か感知した訳ではありませんが、責められているようなイメージが頭をよぎりました。 ……いえ、頭はもうないのだからそんな事は起きないはずです。比喩でしかありませんが。
けれど結局の所、心や魂のようなものがこの首無しの私に未練がましく残り、懊悩は完全には消え去ってくれないようです。
私は神様の気まぐれか、顔の造形に対してきれいだと評価される経験もありました。
ケイも美しく凛とした表情も見せます。それなのに、顔の大きな火傷が、周囲の無遠慮な視線が彼女をうつむかせていました。
二人で歩む人生を語り合う事もありましたが、二人でいる時に耳に入る心ない言葉が彼女を曇らせました。
だから……。
私は思い悩み続けて、勝手に結論を出して、彼女に別れを切り出し、それでも何も変わらず、彼女の涙は止まらず、私は無力を痛感して、あろうことが逃げ出して、
余計なものがなくなれば、と――。
暗闇の中、どれぐらい時間がたったでしょうか。一人では時間を知る術もありません。
ケイは呆れて私を見捨てたでしょうか? それでいいんです。私と一緒にいては幸せになれないでしょうから。
優しく、どこかためらいがちにまた指が触れてきました。
どうしてでしょうか?
――私も考えすぎていたの。あなたがそばにいてくれればそれでいいのに。
しかし、一緒にいる事は望まない結果が生まれてしまう。
――大丈夫。私も余計なものはなくしました。
私は咄嗟にケイを引き寄せて確認しました。
あるべき所にあるべき物がありません。
何ということでしょう。私と同じ愚かな道を選んだケイを責めるべきか、その未来が絶たれた事を嘆くべきか、絶望に包まれて何も答えが出せません。
それでも、ケイの指の動きは軽やかでした。
――これでスッキリしました。あなたと一緒にいる。それ以外はいらないの。
私とケイは抱き合いました。お互いの頭がない分、頭を交差せずとも真正面から固く抱きしめる事が出来ました。
身体を通じて、彼女の鼓動が感じられました。
ただそれだけが心地よく、幸せでした。
終わり




