表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アラフォードライバー、夜の街で恋を知る「アラフォードライバー、もう一度恋を選ぶ」  作者: こうた


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/8

第4話「偶然じゃない再会」

昼過ぎの現場は、少しだけ空気がぬるかった。


荷下ろしを終えて、伝票にサインをもらう。


いつも通りの流れ。


誰とも深く関わらない仕事。


「……」


ペンをポケットに戻す。


これで終わり。


そう思って、トラックに戻ろうとしたときだった。


「藤村さん?」


声がする。


聞き覚えのある声。


でも、ここで聞くはずのない声。


振り返る。


れいかが立っていた。


少し離れたところ。


作業着じゃない、きれいめの服。


でも、この場所に違和感はない。


「……れいかさん」


少しだけ間があって、名前が出る。


れいかが、軽く頭を下げる。


「お疲れ様です」


その言い方が、やけに自然だった。


「……どうしてここに?」


率直に聞く。


れいかは少しだけ首を傾ける。


「ここの会社、取引先なんです」


あっさり答える。


現実的な理由。


作られた偶然じゃない。


「……そうなんですね」


要は小さく頷く。


それだけで、少しだけ空気が落ち着く。


「藤村さんは、配送ですか?」


「……はい。さっき終わりました」


短く答える。


れいかは周りを少しだけ見て、


「忙しそうでしたね」


と言う。


「……まあ、いつも通りです」


会話は、淡々としている。


でも――


どこか前より近い。


無理に距離を詰めていないのに、


自然に同じ場所に立っている感じ。


「……少しだけ、時間ありますか?」


れいかが言う。


ほんの少しだけ間を置いて。


「……大丈夫です」


要はすぐに答える。


迷いはなかった。


れいかは小さく頷く。


「じゃあ、あそこ」


少し離れた自販機を指す。


人の流れから少し外れた場所。


“ちょうどいい距離”だった。


並んで歩く。


歩幅が自然に合う。


何も言わない時間が続く。


でも、気まずくない。


むしろ――


落ち着いている。


自販機の前で止まる。


れいかがコインを入れる。


「何にします?」


「……じゃあ、同じので」


自然に出た言葉。


れいかが少しだけ笑う。


「分かりました」


ボタンを押す。


缶が落ちる音。


二つ取り出して、一つを差し出す。


「どうぞ」


「……ありがとうございます」


受け取る。


指が、ほんの一瞬触れる。


ほんのわずか。


でも――


その一瞬が、はっきり分かる。


どちらも、すぐには離さない。


ほんの少しだけ、間がある。


それから、自然に離れる。


「……」


缶を開ける音。


小さく響く。


一口飲む。


冷たさが、やけに強く感じる。


れいかも同じように飲む。


その横顔が、少しだけ近い。


でも、見すぎない。


視線を戻す。


「……最近、来てないですよね」


れいかが言う。


店のこと。


はっきりとは言わない。


でも、分かる。


「……はい」


短く答える。


「行ってません」


そのまま続ける。


れいかは小さく頷く。


「そうなんですね」


それだけ。


責めない。


聞きすぎない。


でも、ちゃんと受け取っている。


「……少し、考えてて」


要は言う。


自分でも、自然に出た言葉だった。


「……はい」


れいかは視線を向ける。


まっすぐ。


逃げ場のない優しさ。


「ちゃんと決めようと思ってます」


続ける。


一章の時とは違う。


言葉に重さがある。


れいかは、少しだけ目を細める。


「いいと思います」


静かに言う。


「その方が、後で楽です」


その言い方が、れいからしい。


「……そうですね」


要は小さく笑う。


ほんの少しだけ。


空気が、柔らぐ。


沈黙が落ちる。


でも――


今回は違う。


その沈黙が、心地いい。


逃げるための沈黙じゃない。


同じ場所にいるための沈黙。


「……あの」


要が言う。


少しだけ、言葉を選ぶ。


「今度、もしよかったら」


れいかが、少しだけこちらを見る。


「店じゃないところで」


そこまで言って、止まる。


でも――


言い切る。


「会えませんか」


はっきりと。


逃げない。


れいかは、一瞬だけ驚いた顔をする。


ほんの少し。


それから――


ゆっくり頷く。


「……はい」


短く答える。


でも、その一言に迷いはない。


「予定、合わせます」


続けて言う。


その言葉が、しっかり残る。


「……ありがとうございます」


要は言う。


自然に。


無理のない言い方。


れいかは少しだけ首を振る。


「こちらこそ」


それから、少しだけ間を置いて、


「楽しみにしてます」


小さく言う。


その一言が、やけに響く。


少しして、れいかが時計を見る。


「そろそろ戻ります」


「……はい」


要も頷く。


缶をゴミ箱に入れる。


れいかが軽く頭を下げる。


「また」


「……はい」


短く返す。


れいかはそのまま歩き出す。


振り返らない。


でも――


距離が離れていくのが、少しだけ分かる。


要はその場に少し残る。


胸の奥が、ゆっくり動いている。


さっきまでの一人の時間とは違う。


でも――


流されていない。


ちゃんと、自分で動いた。


それがはっきり分かる。


「……」


小さく息を吐く。


それから、トラックに戻る。


ドアを開ける。


乗り込む。


エンジンをかける。


振動が身体に伝わる。


でも――


さっきまでより、少しだけ軽い。


(……ええ感じやな)


ぽつりと思う。


無理じゃない。


自然な流れ。


それが、今の自分にはちょうどよかった。


車を出す。


午後の光の中へ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ