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第85話――魔女っ娘ウィンちゃんと楽しいお稽古――


繰り返される爆発

「……もう一度、お見せしますね」

 ミレイユが静かに構える。

 再び――

 火と風。

 揺れる魔力。

 そして。

 爆発。

 衝撃と共に、マジックドールが砕ける。

「すごーーーい!!!」

 ウィンが両手を上げてはしゃぐ。

「今のすごい!もう1回見たい!」

 目をキラキラさせている。

 その様子を見て――

 セリスが、ほんのわずかに口元を緩める。

(……本当に、嬉しそうですわね)

 セレフィーナも小さく息を吐く。

(……見ているだけで、落ち着く)

 ミレイユは――

(……なんなの、この感覚)

 胸の奥が、じんわりと温かい。

 ウィンはただ、笑っているだけ。

 それだけなのに。

 その場の空気が、柔らかくなる。

「……この方法には」

 ミレイユが、少しだけ前に出る。

「少し変わった訓練方法があります」

 三人の視線が集まる。

「訓練方法?」

 セリスが問う。

「その前に――」

 ミレイユはウィンを見る。

「ウィンさんはファイアスフィアとウィンドスフィアは使えますか?」

「うーん……」

 少し考えて。

「……どっちもまだ使えないの……」

 しょんぼりする。

 その一瞬。

 セリスの眉がわずかに動く。

(……落ち込ませてしまいましたわね)

 セレフィーナも視線を柔らかくする。

(……フォローが必要)

 ミレイユも、ほんの少しだけ慌てる。

(……あ)

「いえ、それでも問題ありません」

 すぐに言葉を繋ぐ。

「訓練自体は応用ですので」

「二人一組で行う訓練です」

「それぞれ別の魔法を詠唱し――」

「魔力の波長が一致する瞬間に、同時に放つ」

 セリスが腕を組む。

「……なるほど」

 セレフィーナも頷く。

「魔力探知の精度を上げる訓練になりますね」

「はい」

 ミレイユは続ける。

「ファイアスフィアとウィンドスフィアで交互に行うことで」

「感覚を掴みやすくなります」

「理にかなっていますわね」

 セリスが小さく頷く。

「段階的に習得できる」

 セレフィーナも同意する。

「うーん……」

 少し考えて。

 そして顔を上げる。

「まだよくわかんないけど、さっき風魔法ちょっとできたし!」

「ウィンドスフィアから頑張ってみるよ!」

 ぐっと拳を握る。

 その姿を見て――

 三人の思考が、止まる。


(((……可愛い)))

(……なんですの、その表情)

 思わず目を細める。

(……これは、反則ね)

 理性が一瞬緩む。

(……可愛い…ずるい)

 理由もなく、そう思う。

 頑張ろうとする姿。

 素直な決意。

 それだけで――

 三人の心は、完全に掴まれていた。

 誰も口には出さない。

 だが。

 この場にいる三人は、同じことを思っていた。

(……この子を、支えたい)


その頃

 ――同じ時刻。

 王都の一角。

 別の訓練場では。

 まったく違う光景が広がっていた。

 乾いた音が、ひたすら響く。

 バンッ バンッ バンッ――

 志願者達は、マジックパペットに向かって木剣を振り続けていた。

 ただひたすらに。

 同じ動作を。

 何度も。

 何度も。

 手はすでに裂けている。

 豆は潰れ、皮膚は剥け。

 血が、木剣の柄を濡らしていた。

 それでも。

 止まらない。


「――打ち方、やめ!」

 リゼルの声。

 その瞬間。

 志願者達は一斉に崩れ落ちる。

「はぁ……っ……はぁ……っ……」

「……くそ……腕が……」

 誰も立てない。

 だが。

 ――10秒後。

「――打ち込み開始!」

「うあああああ!!!」

 悲鳴と共に、再び振り下ろされる木剣。

 もはや理性ではない。

 条件反射。

 ひときわ大きな音。

 バキッ――

 一本の木剣が砕ける。

「……あ……」

 一瞬の静寂。

 そして。

「やっと……やっと折れた……!!」

 その志願者は、泣きながら笑う。

 ようやく終わったと。

 解放されたと。

 だが。

 リゼルが、静かに歩み寄る。

 手には――

 新しい木剣。

「はい」

 差し出す。

「……え?」

 志願者の顔が、凍る。

「5分休憩後――」

 リゼルは淡々と告げる。

「また、折れるまで打ち込んでください」


 志願者はリゼルを見上げる。

 まるで。

 死刑宣告を受けた罪人のような顔で。

 その様子を見た他の志願者達。

「折れろおおおお!!」

「お願いだから折れてくれえええ!!」

 叫びながら、打ち込む。

 願いは一つ。

 木剣が折れること。

 だがそれは。

 本来、喜ぶことではない。

 訓練が終わることを願う。

 それはつまり――

 限界を求めているということ。

 その様子を。

 リゼルは、無表情で見ていた。

 そして。

 ふと、思考が別の方向へ向く。


(……ウィン様)

 学園。

 笑顔。

 楽しそうな姿。

 想像するだけで――

 胸が、ほんの少しだけ緩む。

(……一緒に過ごせたら)

 穏やかな空気。

 だが、その光景に――

 もう一人が混ざる。

 ホークス。

 その瞬間。

 リゼルの瞳が、わずかに細くなる。

(……なぜ、あなたがそこにいるのですか)

 思考が歪む。

 そして。

 殺意が滲む。

 志願者達は、それを感じる。

「……っ!?」

 空気が変わる。

 圧。

 言葉にならない恐怖。

「打てえええええ!!!」

 誰かが叫ぶ。

 全員が、さらに必死に打ち込む。

 逃げるように。

 壊れないように。


 ――この訓練の目的は、単純である。

 木剣を折ること。

 だが同時に。

 志願者達の“何か”を折ることでもある。

 腕か。

 心か。

 あるいは、その両方か。

 どちらが先に折れるかは――

 誰にもわからない。


第85話―終


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