第84話――魔女っ娘ウィンちゃんと素敵なお友達☆――
訓練場。
「もう一回やってみるね!」
ウィンが杖を構える。
セリスとセレフィーナが、少し後ろで見守る。
「風の流れは意識して」
「形は崩れても構いませんわ」
二人の助言。
「うん!」
ウィンが詠唱。
風が走る。
先程よりも、明確に“飛ぶ”。
「わっ……さっきよりちゃんと飛んだ!」
ぱあっと笑顔が咲く。
「2人の言う通りにしたら良くなったよ!ありがとう!」
セリスとセレフィーナへ向けられる笑顔。
セリスはほんのわずかに目を細める。
(……本当に良い笑顔ですわね)
無意識に、そう思っている。
セレフィーナは静かに息を吐く。
(……やはり、面白い子)
だがその視線は、もう分析ではない。
数度、魔法を放つ。
修正。
改善。
成功。
そしてその度に――
「すごい!」
「さっきよりいい!」
「教えてくれてありがとう!」
ウィンは、屈託のない笑顔で言う。
その度に。
胸の奥が、少しずつ満たされていく。
「じゃあ、またまとめようよ!」
三人は場所を移す。
大広場。
先程まで決闘が行われていた場所の一角。
少し静かな場所に腰を下ろし、ノートを広げる。
――その様子を。
少し離れた位置から見ている少女がいた。
(……3人)
年はまだ幼い。
だがその瞳は、鋭い。
(ヴァルディエール侯爵令嬢……それにもう一人)
視線が動く。
中心にいるのは――
(あの子)
ウィン。
(闇魔将の近くにいた……間違いない)
そして理解する。
(あの子を通せば、闇魔将と繋がれる)
目標は一つ。
(シェルク様の右腕になる為には)
そのために必要なのは――
(力と、繋がり)
そして今、目の前にある。
(……あの娘は、使える)
そう判断する。
一方、三人。
「ねぇ」
ウィンが顔を上げる。
「今日の決闘でさ」
「ドーンって爆発する魔法あったよね?」
「アレって火?風?」
セリスが答える。
「あれは混合魔法ですわ」
セレフィーナが続く。
「複数属性の同時制御が必要です」
「基本的にはランク3以上の出力がないと安定しません」
セリスはさらに補足する。
「加えて――」
「本日のものは魔道具ですわね」
「術者が直接撃つものより、威力は落ちます」
「ふむふむ……」
ノートに書き込む。
「なるほど……!」
そして顔を上げる。
「教えてくれて、ありがとうね!」
満面の笑み。
(……今だ)
少女が一歩踏み出す。
自然な動作。
距離を詰める。
「……爆破魔法にご興味はありますか?」
静かな声。
三人の視線が向く。
そこに立っていたのは――
風を纏うような少女。
ミレイユ・ヴァンシュタイン。
年相応の可憐さ。
だが瞳の奥には、明確な意思。
(まずは、興味を引く)
(そこから入り込む)
完璧な計算。
「えっ!あるある!」
ウィンが即答する。
「すごく気になる!」
距離が一気に縮まる。
(……え?)
想定より早い。
そして。
笑顔。
(……ああ)
ミレイユは、まだ知らない。
自分がこれから――
“落ちる側”になることを。
ウィンが身を乗り出す。
「爆発魔法って難しいんでしょ!?使えるの!?」
ミレイユは一瞬、言葉に詰まる。
(……近い)
距離感が、想定よりもずっと近い。
だがすぐに、気持ちを整える。
「……では、簡単にご説明いたしますね」
少しだけ丁寧な声になる。
「爆破魔法には、私の知る限り3種類の発動方法があります」
指を一本立てる。
「1つ目は――」
「火魔法と風魔法を組み合わせた詠唱」
「これは最も一般的でありながら――最も難しい方法です」
二本目。
「2つ目は、魔法陣に両属性の呪文を書き込む方法」
三本目。
「3つ目は――」
「火と風を同時に詠唱し、放つ瞬間に合わせる方法です」
セリスがわずかに目を細める。
「……最初と2つ目は存じていますわ」
セレフィーナも頷く。
「ですが3つ目は……初耳です」
ウィンは――
「ふむふむ……」
ノートに夢中。
(……ちゃんと聞いてくれてる)
大人に混じって戦っていたミレイユにとっては。
自分の話を真剣に聞いてくれる。
それだけで、少しだけ胸が温かくなる。
自らの嬉しい気持ちを押し殺し、冷静を装って説明を続ける。
「1つ目の方法は――」
「一般的ですが最も難易度が高いです」
「魔力の配分、詠唱の構造、長さ」
「すべてが単属性より高度になります」
セリスとセレフィーナが同時に頷く。
ウィンは必死に書き込む。
「2つ目は――最も扱いやすい方法です」
「魔法陣が補助するため、発動は安定します」
「ですが――」
「魔力のバランス調整が難しく」
「誤作動を起こしやすい」
「……つまり、少し危険です」
再び二人が同意する。
ウィンは、さらに書き込む。
「3つ目は――」
「比較的安全に習得できます」
「ですが、コツを掴むのが難しい」
三人の視線が集まる。
「そのコツとは?」
ミレイユは一拍置く。
「……3つ、あります」
「まず、同時に2つの魔法を扱うこと自体が難しい」
「さらに、異なる属性を同時に扱うこと」
「そして――」
一瞬だけ目を細める。
「魔力の“波長”が一致する瞬間を捉えること」
「その瞬間に放たなければ、成立しません」
セリスが静かに頷く。
「……なるほど」
セレフィーナも納得する。
「魔力探知の精度が必要になりますね」
ウィンは少し難しい顔。
「うーん……難しそう……」
ミレイユは、自然に口を開く。
「……よろしければ」
「実演いたしましょうか?」
「え?できるの!?」
「見てみたい!!」
ウィンの即答。
その勢いに、ほんの少しだけ笑みが浮かぶ。
四人は再び訓練場へ。
空気が少し変わる。
“教える側”と“見る側”
だが中心は、変わらない。
ミレイユが前に出る。
小さく息を吸う。
(見せる)
左手に火。
右手に風。
同時詠唱。
魔力が揺れる。
(合わせる……)
一瞬。
波長が重なる。
「――今」
放つ。
着弾。
次の瞬間。
爆発。
轟音。
衝撃。
マジックドールが中心で砕け散る。
一瞬の静寂。
セリスとセレフィーナが同時に目を見開く。
(この年で爆発魔法を……)
(しかもこの精度……)
明確な驚き。
「すごーーーい!!!」
ウィンの声が響く。
駆け寄る。
「今のなに!?めっちゃすごい!!」
「かっこいい!!」
「見せてくれてありがとう!!」
その笑顔。
その言葉。
(……ああ)
胸の奥が、満たされる。
じわりと広がる感覚。
(これ……)
今まで知らなかった。
認められる感覚。
喜ばれる感覚。
それが、こんなにも――
(……気持ちいい)
口元が、わずかに緩む。
「……いえ、この程度は」
言葉は冷静。
だが、内側は違う。
(……もっと、見せたい)
(もっと、教えたい)
その思考が浮かんだ時点で――
もう遅い。
ミレイユはまだ気づいていない。
自分がすでに――
“落ちかけている”ことに。
第84話―終




