第76話――強化魔法と運試し――
授業が終わり、教室から人が引いていく中。
「おい、そこのお前」
低く響く声。
ホークスが振り返ると、ガルドスが腕を組んで立っていた。
「少しいいか?」
ホークスは歩み寄る。
「……何ですか?」
ガルドスはじっと見据えたまま口を開く。
「……お前、闘技での肉体強化はできるか?」
唐突な問い。
ホークスはわずかに眉をひそめる。
「……どうしてそれを?」
ガルドスは、ふっと笑う。
「顔だ」
「お前、相当修羅場をくぐってるな」
断言だった。
「戦士を見るとよ」
肩をすくめる。
「つい、お節介を焼きたくなるんだ」
ホークスは少しだけ笑う。
「……肉体強化は使います」
「ただ、闘技を放つ時の補助程度ですね」
「なるほどな」
ガルドスは頷く。
「それなら――」
少しだけ声の調子が変わる。
「戦士が使う、闘技補助の強化魔法を教えてやる」
ホークスは一瞬驚く。
「……いいんですか?」
「……何故そこまでしてくれるんだ?」
ガルドスは少しだけ視線を逸らし――
そして、静かに言った。
「授与式の演説、聞いたぞ」
短い言葉。
だが重い。
「……感じるものがあった」
腕を組み直す。
「戦争を終わらせる部隊、だったか?」
少しだけ笑う。
だがその目は、冗談ではなかった。
「少しでもその役に立つなら――」
「教え甲斐もある」
そして、ぽつりと。
「俺もな」
「戦争は嫌いだ」
その言葉は、静かで。
だが、確かな重みを持っていた。
「自分の領地でよ」
少しだけ柔らかい声になる。
「農民と一緒に作物育ててる方が、よっぽど楽しい」
一瞬の沈黙。
そして、いつもの調子に戻る。
「だからよ」
ニヤリと笑う。
「お前の言う“終戦の刃”――」
「期待してるぞ」
ホークスは、それを聞いて。
少しだけ笑う。
「……ありがとうございます」
「遠慮なく、教えてもらいます」
「おう」
ガルドスは満足げに頷く。
「その代わり、ちゃんとモノにしろよ」
ガルドスは中央に歩き、マジックドールを展開する。
「まずは基礎だ」
何もかけずに――
拳を振り抜く。
ドンッ!!
ドールが吹き飛び、元の位置へ戻る。
「強化無しだとこれだ」
「そんで」
次に、腕へ魔力を流し込む。
「ランク4、《ジャイアントパワード》」
筋肉が膨れ上がる。
再び、拳を叩き込む。
バゴンッ!!
ドールに穴が空き、吹き飛ぶ。
「これが使い切り型だ」
ドールが再生する。
「で、ここからが本題だ」
足元に魔法陣を展開。
そこに――
威力のルーンを書き込む。
「よく見てろ」
魔法陣を踏み込みながら――
その瞬間。
拳を振り抜く。
ドゴォォンッ!!
衝撃。
マジックドールは――
粉砕された。
破片が散る。
ホークスの目が見開かれる。
ガルドスは軽く腕を振る。
「……っ、少し痛ぇな」
だが笑う。
「これが――」
「瞬間強化だ」
「発動時間を極限まで削る」
「攻撃の瞬間だけ――」
「限界を超える」
そしてすぐに釘を刺す。
「ただし」
「一歩間違えりゃ――」
「普通に壊れる」
「だから気をつけろよ」
(……なるほど)
(理屈は理解できる)
だが同時に、自分の戦い方を思い返す。
(俺の魔法陣は速いが……荒い)
(攻撃の瞬間に展開はできる)
(だが、効力の調整までは――)
(間に合わない可能性が高い)
わずかなズレ。
それだけで――
肉体破壊。
(……今は危険だな)
(だが、この技術……応用は効きそうだな)
だが。
(……いずれは使えそうだな)
その目は、確かにそう語っていた。
ホークスは軽く頭を下げた。
「……ありがとうございました」
ガルドスはガハッと笑う。
「気にすんな!」
「また聞きたいことがあったら来い!」
親指で自分を指す。
「あとよ」
ふと思い出したように言う。
「強化魔法教えてる奴は俺だけじゃねぇ」
「俺みたいに雑に使う奴ばっかじゃねぇぞ?」
ニヤリと笑う。
「細かく調整して使う、実戦派の教師もいる」
「そういう授業も見とくといい」
ホークスはもう一度頷く。
「……助かります」
教室を後にする。
訓練場へ向かおうとした、その時。
向こうから歩いてくる小さな影。
「お兄ちゃん!」
ウィンだった。
「……訓練は終わったのか?」
ウィンは少し困ったように笑う。
「うん……それがね」
「ルヴェリオって人の取り巻き達に絡まれちゃって」
その瞬間。
ホークスの空気が変わる。
「……どこだ」
静かだが、明確な殺気。
踵を返そうとする。
その手を――
ウィンが掴んだ。
「待って」
「大丈夫だよ」
「向こうが喋ってる間に、さっさと抜け出してきたから」
ホークスは動きを止める。
ウィンは少しだけ笑う。
「私のこと見失って、すごいあたふたしてたよ」
「ちょっと面白かったし、いいの」
ホークスはそれを聞いて――
ふっと息を吐く。
「……そうか」
そして。
「明日、ルヴェリオぶっ殺すから安心しろ」
優しい声で、とんでもないことを言う。
「殺しちゃダメだよ!?」
ウィンの即ツッコミが炸裂する。
夕方。
二人は食堂で食事を済ませ、部屋へ戻る。
ホークスはシャワー室へ。
水音が響く中、思考を巡らせる。
(魔法陣による遠距離魔法の安定化……)
(ルーンの細かい調整……)
(強化魔法の運用……)
(……全部、部隊に使える)
水を止め、身体を拭きながらも考え続ける。
ガチャ。
「お兄ちゃ―ん、カード持ってきたよー……って――」
ウィンが固まる。
目の前には――
下着姿のホークス。
「っ――!!」
顔が一瞬で真っ赤になる。
「ご、ごめんなさい!!」
バタン!!
勢いよく扉が閉まる。
沈黙。
ホークスは一瞬だけ止まり――
「……なんだ今の」
数分後
コンコン。
「……お兄ちゃん、入っていい?」
「いいぞ」
扉がゆっくり開く。
ウィンがモジモジしながら入ってくる。
まだ顔は赤い。
「さっきは……ごめんね……」
「気にしてない」
あっさりと返す。
「それより」
カードを見る。
「遊ぶんだろ?」
ウィンは少し安心したように頷く。
「……うん」
テーブルにカードを並べる。
ルールはシンプル。
お菓子を賭けたポーカー。
「負けたらお菓子没収ね!」
「容赦ねぇな……」
勝負開始。
数分後。
「……また私の勝ち!」
ウィン、無双。
「……おい、これで何連勝だ」
「えへへ、わかんない!?」
ホークスの前のお菓子がどんどん消えていく。
最終的に。
「あれ?ホークスさん……もう賭けるもの無いみたいですねぇ?」
ドヤ顔。
ホークスは少し考えてから。
「仕方ない……次負けたら、一枚脱ぐか」
少し顔を赤らめて言う
「!?」
ウィン、完全にフリーズ。
「な、な、なに言ってるの!?!?」
ホークスは吹き出す。
「冗談だよ」
「も、もう……!」
頬を膨らませるウィン。
――こうして。
騒がしくも、穏やかな時間の中で。
二人の学園生活、最初の一日は幕を閉じた。
それはまだ。
何も知らないままの――
少しだけ、特別な夜だった。
第76話―終




