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第65話――学問のすゝめ――


二人は席に着き、運ばれてきたお茶に口をつける。

少しの沈黙の後、ホークスがぽつりと話し始めた。

「……貯金、確認したんだ」

カトレアは静かに頷く。

「思ってたより、低い金額を提示されてな」

ホークスは視線を落とす。

「クソジジィに言ったら」

「“それでも十分持ってるんだからケチケチするな”だと」

その顔は、わずかに泣きそうだった。

カトレアは思わず表情を緩める。

(珍しいわね……ここまで落ち込むの)

優しく声をかける。

「……それで、いくら入ってたの?」

ホークスは少し間を置いて言う。

「……20億ルクスしかなかった」

「………“しか”!?」

カトレアの声が思わず大きくなる。

「十分すぎるでしょ!?」

周囲の客が一瞬だけこちらを見る。

カトレアは咳払いして声を落としつつ続ける。

「20億ルクスも持ってるのに、300万ルクスでそんな顔するの?」

「ケチケチするんじゃないわよ」

軽く説教だった。

ホークスはゆっくり顔を上げる。

その表情は——

完全に絶望していた。

「……」


カトレアは少しだけ気まずそうにため息をつく。

「もういいわ」

「さっさと本題に入りましょう」

空気を切り替える。

ホークスも軽く頷いた。

「……魔法だ」

「魔法戦士の部隊を作るのに、教えようとしたが……うまくいかなかった」

カトレアはすぐに聞く。

「どうやって教えたの?」

「魔力の流れを作って手で感じさせた」

「だが、そこから魔法を唱えるところまではいかなかった」

「……なるほど」

カトレアは納得したように頷く。

「それ、コツを掴むまでに時間がかかるやり方よ」

「初心者には向いてないわ」

「無難に魔法詠唱から覚えさせなさい」

ホークスは腕を組む。

「魔法陣の詠唱ならできるが?」

「だが普通の魔法の詠唱はあまりやったことがないな」

カトレアは少し笑う。

「あなたの魔法は特殊なの」

「魔力で無理やり現象を再現してるだけ」

「そのやり方を魔力効率も良くないしそのまま教えるのはおすすめしないわ」

「……そうか」

「習得難易度ならソーサラー系が一番低いわ」

「そこから教えなさい」

ホークスは少し考え——

ふと気づく。

(……ちゃんとした詠唱魔法を使ったことがないな)

一瞬、思考が止まる。


カトレアはその様子を見て、少し考えた後に口を開く。

「それなら、魔術学園に行くのはどうかしら?」

「2週間位体験入学してきたら?」

ホークスは眉をひそめる。

「……今さら、学園に学びに行くのか?」

カトレアは肩をすくめる。

「基礎は独学だと無理があるのよ」

「それに、色んな教師の話を聞くと新しい発見もあると思うわ?、中には戦場で戦ってきた魔導師の教師もいるし」

少し楽しそうに言う。

そして、ふと思いついたように続ける。

「そうだわ、ウィンも一緒に連れて行くといいわ」

ホークスが少し驚く。

「ウィンも?」

「そう」

カトレアは穏やかに言う。

「四年間も会えなかったのよ?、学園で一緒に過ごす時間も、悪くないと思うわ」

「それにあの子に魔法を教えたけど、私の魔法理論とあんまり合わないみたいだし。この機会に他の人からも教わってみるのもいいと思うの」

「……」

ホークスは少しだけ迷う。

ウィンの顔が浮かぶ。

カトレアは静かに、背中を押すように言った。

「ウィンのためよ」

そしてそのまま、さらりとペンを取り出す。

「紹介状、書いておくわ」

迷いの余地を与えない手際だった。

ホークスは小さく息を吐く。

「……分かった」

「ウィンと一緒に行く」

少しだけ、決意が混じる声だった。


一方その頃、訓練場では。

「がっ……はっ……もう無理……!」

志願者が地面に崩れ落ちる。

だが——

「立ちなさい」

リゼルの声は冷たい。

手合わせ。

一瞬で決着。

叩き伏せられる。

「次」

「え、ちょっ——」

バシッ!!

「遅いです」

容赦がない。

一周目が終わり——

志願者達が安堵しかけた瞬間。

リゼルが口を開く。

「では、もう一周」

「……え?」

空気が凍る。

「今のを、もう一度行います」

絶望だった。

「ま、待ってくれ……!」

「さすがに……!」

志願者達は泣きながら訴える。

リゼルは一切表情を変えずに言い放つ。

「さっさと準備しなさい」

完全に逃げ場はなかった。


第65話―終


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