第58話――戦争の終わり――
高台の上に女王と六魔将が姿を見せると、
大広場に集まっていた民衆が一斉にざわめいた。
城下町中から人が集まっている。
商人、職人、兵士、冒険者。
子供を肩車した父親。
戦争で腕を失った老兵。
静かに祈りを捧げる神官。
皆が同じ方向――高台を見上げていた。
六魔将の授与式。
それはこの国において、
王の即位式にも並ぶほど神聖な儀式だった。
「女王陛下だ……」
「エレノア様よ……」
誰かが小さく呟く。
ざわめきは次第に静まり、
やがて広場には、数千人がいるとは思えないほどの静寂が落ちた。
その中心で、女王が一歩前へ進み出る。
王冠を戴いたその姿は凛としており、
だがその表情にはどこか柔らかな温もりがあった。
女王はゆっくりと民衆を見渡す。
そして静かに口を開いた。
「民よ」
その声は決して大きくはない。
だが、不思議と広場の隅々までよく通った。
「まずは皆に伝えねばならぬことがある」
女王は一度、空を見上げる。
「――長きに渡る戦は、終わりを迎えました」
その言葉が広場に落ちた瞬間、
民衆の間にどよめきが走る。
喜びの声。
安堵の吐息。
目を潤ませる者もいた。
女王は静かに続ける。
「この戦はあまりにも長く、多くの命を奪いました」
「家族を失った者。友を失った者。帰る場所を失った者もいるでしょう」
女王の声は、少しだけ柔らかくなる。
「それでもなお、この国は立ち続けました」
「それは、この国を守ろうと戦った兵たち」
「そして――」
女王は広場の民衆を見渡した。
「日々を懸命に生き、この国を支え続けた、あなた達がいたからです」
広場は静まり返っている。
誰もが女王の言葉を聞き逃すまいとしていた。
女王はゆっくりと頭を下げた。
「王として、民に礼を言います」
「よく耐え、よく生きてくれました」
その姿に、
広場のあちこちから嗚咽が漏れる。
女王は再び顔を上げた。
「だが――」
その声は再び、王の威厳を取り戻す。
「戦は終わったとはいえ、命を落とした者達が戻ることはありません」
女王は静かに目を閉じた。
「ここに、戦で散ったすべての魂へ祈りを捧げます」
「民よ、共に黙祷を」
広場にいた全員が頭を垂れる。
兵士も、商人も、子供も。
風の音だけが広場を通り抜けた。
しばらくして女王が静かに言う。
「――頭を上げなさい」
民衆がゆっくり顔を上げる。
女王は続けた。
「そして、もう一つ」
「この戦争の終結において、最後の一手となった戦いがありました」
広場の空気が少し張り詰める。
「獣王国の将――魔獣将アルク」
その名を聞き、ざわめきが広がる。
「六魔将を3人討ち取った獣王国最強の戦士」
「その者を、一騎討ちにて討ち取った戦士がいます」
女王は高台の上に立つ一人へ視線を向けた。
「その功績を讃え」
「本日、新たな六魔将として迎えます」
女王の声が広場に響く。
「――新たなる闇魔将」
女王ははっきりと言った。
「ホークス」
その名が呼ばれた瞬間、
広場の視線が一斉に集まった。
「前へ」
闇の指輪の授与の儀式が、今まさに始まろうとしていた。
第58話―終




