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第56話――闇魔将の席に向けて――


「そういやちゃんと報告してなかったな」

椅子に座るボイドへ向かって言う。

「俺、闇魔将になったぞ」

その言葉を聞いたボイドは少しだけ間を置き――

「今更だな!!」

そう言って豪快に笑った。

「まぁいい。ここはおめでとう、と言っとくか」

ホークスは肩をすくめた。

「ずいぶん軽い祝いだな?」

「酒でも出してほしかったか?」

「いや、どうせおやっさんが飲みたいだけだろ?」

「まぁな!」

ボイドは楽しそうに笑ったあと、少し真面目な顔になる。

「で?その闇魔将様は、まず何するつもりだ?」

ホークスは即答した。

「まずは俺の直属の部隊を作る」

その場にいたボンブが腕を組んで頷く。

「直属部隊か」

「はい」

ホークスは続けた。

「俺が自由に動かせる戦力が必要です。一国の将として動くのに1人では限界がありますから」

ボンブは賛成するように言う。

「うむ、それは良い判断だ」

そして少し表情を引き締めた。


「最近、境界線付近の魔物の動きが少し活発になっておる」

「それに加えて――」

ボンブは低い声で続ける。

「南の軍事国家バーンズの動きも少々きな臭い」

「いつ戦になってもおかしくない」

ホークスは頷いた。

「まずは志願兵を募ります」

指を二本立てる。

「魔法と近接武器を合わせて戦う魔法戦士部隊と弓と近接武器主体の戦士部隊」

「志願者をこの二つに分けて、俺が直々に鍛える予定です」

ボイドはそれを聞いてニヤッと笑った。

「ほぉ。ちゃんと将軍っぽいこと考えてるじゃねぇか」

「そもそも闇魔将やれって言ったの、おやっさんじゃねぇか」

「あれ?そうだっけかな?」

三人の間に軽い笑いが起きた。

ボイドは椅子に深く座り直す。

「だがそれなら――」

「秘書が必要だな」

そう言うと扉の方へ声をかけた。

「おーい、入れ」


扉が静かに開く。

中に入ってきたのは一人の女性だった。

金髪を編み込んだ髪。

ギルドの正装に近い服装。

整った顔立ちの女性。

「失礼いたします」

女は静かに頭を下げた。

「リゼルと申します」

ボイドが親指で彼女を指す。

「俺の私兵だ、普段は身の回りの世話をしてもらってる」

ホークスはその顔を見て少し思い出した。

(あれ…)

前にボイドのところへ飯をたかりに来た時。

黒い大剣を自慢したあの日。

料理を持ってきた女がいた。

(あの時の女か)

その時、リゼルが手を軽く振った。

すると体を包んでいた魔力がほどける。

長い耳が現れ、エルフの姿がはっきりした。

「諸事情により変身魔法を使用しておりました」

淡々と説明する。

「ホークスだ」

簡単に名乗る。

ボイドが口を開いた。

「どうだ?」

「闇魔将の秘書に使ってみないか?」

ホークスは少し考える。

(女か……)

頭に浮かんだのはウィンの顔だった。

(あいつ…機嫌悪くならなければいいが)

その時ボンブが言う。

「六魔将として部隊を管理するのであれば、有能な秘書はいた方が良い」

「間違いなくな」

ホークスは少し迷ったあと、頷いた。

「……わかった」

リゼルを見る。

「よろしく頼む」

リゼルは軽く頭を下げた。

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

静かな声だった。


ホークスは腕を組みながら続けた。

「あと、もう一つ考えてることがある」

ボイドが顎をしゃくる。

「なんだ?」

ホークスは少し口元を歪めた。

「近々、女王陛下から闇の指輪の授与式があるだろ」

それを聞いたボンブが頷く。

「うむ、六魔将継承の正式な儀式だな、城下町の大広場で、民の前でやる儀式だが」

ホークスは続けた。

「そのお披露目の場で、部隊の志願者を募る」

部屋の空気が一瞬止まった。

ボンブは眉をひそめる。

「……ほう」

腕を組み、しばらく考える。

「六魔将の指輪授与式は神聖な儀式だ」

「それを利用するとは……」

低く唸る。

「……けしからん」

だがその目は、どこか感心したようでもあった。

「しかし……わしには思いつかん発想だな」

その横でボイドが腹を抱えて笑った。

「ははは!、いいじゃねぇか!」

そしてホークスを見る。

「その時ついでにギルドの宣伝もしとけよ」

「新人募集とか」

ボンブが即座に振り向いた。

「貴様!」

声を荒げる。

「神聖な授与式をついでの宣伝に使うな!」

ボイドは鼻で笑う。

「かたいなぁジジイ」

「そういう頭の固さだからお前の所は人が集まらねぇんだよ」

「なんだと貴様!」

「事実だろ!」

二人はそのまま言い合いを始めた。

ホークスはその様子を見て、思わず少し笑った。

(相変わらずだな)

そして立ち上がる。

「じゃあおやっさん、俺もう行く」

ボイドは手を振った。

「おう、好きにやれ」

ボンブはまだ怒鳴っている。


ホークスは軽く肩をすくめると、そのまま応接室を後にした。

その後ろをリゼルが静かについてくる。

廊下を歩きながら、リゼルが口を開いた。

「ホークス様。秘書としてお仕えするにあたり、まず何をすればよろしいでしょうか?」

ホークスは少し考えながら歩く。

「……まずは志願者募集だな」

「授与式で発表するつもりだが」

「それ以外にも人を集める方法はあるはずだ」

リゼルはすぐに小さな手帳を取り出した。

さらさらとペンを走らせる。

「承知しました」

ホークスは続けた。

「あと、部隊を編成したら物資管理」

「武器、装備、補給品、残りの資金」

「そういうのを全部管理してほしい」

「それと――」

少しだけ振り返る。

「俺がいない時は、訓練の教官も頼む」

リゼルは迷いなく頷いた。

「問題ありません」

「すぐに準備いたします」

ホークスは軽く手を振った。

「助かる」

そのまま歩きながら、ふと空を見上げる。

闇魔将の指輪。

直属部隊。

志願兵。

頭の中で、これからの光景が浮かんでいた。

多くの兵士たち。

鍛え上げられる部隊。

そして――自分の軍。

(まさか俺が部隊を率いる事になるなんてな)

ホークスは小さく笑う。

その表情は、どこか楽しそうだった。

闇魔将としての最初の一歩が、今まさに動き始めていた。


第56話―終


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