第55話――風魔将の思惑――
ホークスは少し考えてから、次の質問を口にした。
「もう一つ。風魔将のシェルクについて聞いてもいいですか?」
その名を聞いた瞬間、ボンブの顔つきがわずかに険しくなった。
「……シェルクか」
腕を組み、少し考えるように言う。
「儂から見たあやつは……かなりの切れ者だ」
「そして――」
低く言葉を続けた。
「考えの読めない男だ」
ボンブはゆっくり首を振る。
「油断ならん、何を考えているのかさっぱりわからん」
しかし、少ししてから言葉を続ける。
「……だがな。父親のジーンが死んでから、ビオラへの罰を不問にしたのはシェルクだ。だから、悪い奴ではない……はずだ」
ホークスは静かに尋ねた。
「先代の風魔将は病死ではないのですか?」
ボンブは少し目を細める。
「表向きはな」
そして低く言った。
「だが儂は、もしかしたら――」
「シェルクに暗殺されたのではないかと考えている」
ホークスの眉がわずかに動く。
「なぜそう思うのですか?」
ボンブはゆっくり説明した。
「タイミングだ。ジーンが死んだ時期と、ビオラが前線復帰不可能な怪我を負った時期。それがまったく同じだった」
ボンブは続ける。
「それに……ビオラとシェルクは元々婚約関係だった」
ホークスが少し驚く。
「婚約……ですか?」
ボンブは頷く。
「風魔将と闇魔将、両派閥の関係を安定させるための政略的なものだ」
少し息を吐く。
「だがな……シェルクがビオラに多少なりとも情を持っていたのなら――」
「父であるジーンを排除し、ビオラへの罪の追及を止めた。そう考えても不思議ではない」
ホークスは腕を組んで少し考えた。
「……確かに」
「自分が見ても、シェルクは胡散臭い。正直、癇に触る男です」
だがすぐに続ける。
「ですが…悪人には見えませんでした」
ボンブは小さく頷いた。
「儂も同じだ」
そして声を少し低くする。
「今回の戦争では。獣王国と隣接していた風魔将の自治領は完全に巻き込まれた形だ」
「被害もかなり出ている」
ボンブは真剣な顔で言う。
「自治領を立て直すためなら手段を選ばん可能性もある。注意するに越したことはない」
ホークスは少し考え込んだ。
「……となると……グレンがうまく利用される可能性は?」
ボンブは首を傾げた。
「シェルクは……確かにグレンを利用することはある。だがな」
少し不思議そうに続ける。
「どちらかと言えば、あやつはグレンの面倒を見ていることの方が多い」
「だから余計にわからんのだ」
ホークスは少し笑った。
「もしかしたら、もう少し育ててから利用するつもりなのかもしれませんよ」
その会話を聞いていたボイドが、横から口を挟んだ。
「おいおい」
困ったように笑う。
「もう少し同僚を信用してやれよ」
ボイドは肩をすくめる。
「お前ら二人とも疑いすぎだ」
ホークスとボンブは顔を見合わせた。
そして少しだけ苦笑する。
「……確かにそうだな」
ボンブがぽつりと言う。
ホークスも小さく頷いた。
「少し考えすぎましたね」
応接室には、わずかに和らいだ空気が流れていた。
第55話―終




