第54話――若き六魔将達――
ホークスは少し考えてから口を開いた。
「私はこの前ヴォルドとグレンと手合わせをしましたが」
「ヴォルドに関してはギルドのランクXと比べても見劣りしない……それどころか勧誘したくなるぐらいの腕前でした」
「ですがグレンは、他の六魔将と比べると…少し見劣りしますね」
ボンブはその言葉を聞くと、軽く頭を抱えた。
「……耳が痛いな」
少し苦笑しながら続ける。
「儂の指導不足でもある」
「グレンはな、自分のやりたい鍛錬しかやらんのだ」
「そのせいで戦術も拙くてな」
ボンブは肩をすくめた。
「それに……座学がからっきしでな……」
少し申し訳なさそうに言う。
ホークスは静かに言った。
「……頭はともかく、磨けば強くなる素質はあると思いますよ」
「あれだけやられても、戦意喪失しない闘志を持った奴は早々いません」
ボンブは小さく笑う。
「できれば頭も磨いてほしいものだがな」
そして少し真面目な顔になる。
「だがあの諦めの悪さは確かに目を見張るものがある。そこは儂も認めている」
それからボンブは少し遠くを見る。
「……グレンの兄である先代炎魔将――バレッドの最後の頼みだったのだ」
低い声だった。
「弟であるグレンを頼む、と」
ボンブはゆっくり頷く。
「だから儂は、グレンを一人前に育てる。それが今の目標だ」
決意のこもった声だった。
ホークスはそれを聞き、少しだけ苦笑した。
「あなたも苦労なさってるのですね」
ボンブは肩をすくめた。
「まったくだ」
そしてホークスは続けて尋ねる。
「もう一つ聞いてもいいですか」
ボンブは頷く。
「光魔将のレインのことです」
ホークスは少し考えるように言った。
「魔力の雰囲気が……他の人とは違う、なんだか異質な感じがしました」
ボンブは少し頷いた。
「それも無理はない。光魔将レイン・ルミナリエはな。この大陸最大級の宗教団体である光の教団の指導者の一人だ」
「光魔将は代々光の教団から一人選出され、就任する契約がある」
ホークスの眉がわずかに動く。
ボンブは続ける。
「そして――」
「魔人と対になる存在の聖人だ」
ホークスは少し驚いた顔をした。
「聖人……ですか?魔人はわかりますが聖人は初めて聞きました」
ボンブは頷く。
「聖人とは、人が光の魔力を一定以上身に纏ったとき覚醒する。光の神の眷属となる資格を持つ者の事だ」
ホークスは静かに息を吐く。
「なるほど……」
ボンブは続ける。
「光の教団は闇魔法を忌み嫌う、闇魔法の関係者への迫害も実際に起きている」
ボンブはホークスを見る。
「お主はこれから闇魔将になる、気をつけることだな」
ホークスは小さく頷いた。
「それでレインからの当たりがキツイんですかね?」
ボンブは少し困った顔をした。
「……だがな」
「レイン自身は悪い娘ではない。そこは勘違いしてほしくない」
少し悲しそうな顔で言う。
「女王陛下であるエレノア様とレイン。そして先代闇魔将のビオラ」
「三人は幼馴染でな」
ボンブの声が少し優しくなる。
「昔はよく一緒に遊んでいた」
「本当に仲の良い幼馴染だった」
懐かしむような声だった。
ボンブはしばらく黙っていたが、やがて静かに口を開いた。
「……昔の話だ」
「まだ女王陛下が姫であられた頃、儂が護衛を務めたことがあってな」
懐かしむように、少し遠くを見る。
「その時によく見かけたものだ」
「姫様と、レインと、ビオラ。三人で庭を駆け回って遊んでおった」
ボンブは小さく笑う。
「レインはな……三人の中では、少し姉のような立場だった……とても面倒見の良い優しい子でな」
「転んだビオラを起こしてやったり、姫様の無茶な遊びに付き合ってやったり……」
その声はどこか温かかった。
しかし、すぐにその表情が曇る。
「……だが。戦争が始まってからは」
ボンブはゆっくり首を振る。
「立場が変わってしまった」
低い声だった。
「光の教団の聖人として、六魔将として……レインはビオラに厳しく当たらねばならなかった」
ボンブは目を伏せる。
「仲良く遊んでいた頃の姿と。戦時中の、あの厳しい姿がな……」
「儂の中でどうしても重なってしまってな」
小さく息を吐いた。
「見ていて……とても辛かった」
部屋に静かな空気が流れる。
ホークスはしばらく何も言わなかった。
やがて静かに呟く。
「……そうですか」
その声には、わずかな同情が混じっていた。
「レインも、苦悩していたのではないですかね?」
ホークスの言葉に、ボンブは何も答えなかった。
ただ静かに頷くだけだった。
遠い昔、三人の少女が笑い合っていた日々。
その面影は、今も確かに残っている。
だが時代は流れ、
それぞれが背負う立場は、あまりにも重くなっていた。
第54話―終




