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第52話――戦争の始まり――


応接室の空気は、先ほどまでの軽さが少しだけ消えていた。

ホークスは椅子に座り直し、ボンブを見る。

「一つ、聞きたいことがあります」

ボンブは静かに頷いた。

「今回の戦争の発端です」

「獣王国との戦争は、なぜ起きたんですか?」

ボンブは少し目を閉じ、記憶を辿るように息を吐いた。

「……元を辿れば、交易だ」

「炎魔将の自治領と獣王国の交易」

ホークスは黙って耳を傾ける。

「当時の炎魔将側の外交官がな」

「獣王国との取引で、狡猾なやり口で不平等な契約を結んでいた」

ボンブの声は静かだったが、わずかな不快感が滲んでいた。

「どうにもならなくなった獣王国側は、ついに頭を下げた」

「条件を見直してほしい、と頼み込んできたそうだ」

ホークスは獣王国の戦士たちを思い浮かべる。

あの国の誇り高さを知っている。

彼らが頭を下げるなど、よほどのことだ。

ボンブは続けた。

「だがその外交官は――」

「それを侮辱した」

ホークスの眉がわずかに動く。

「その場にいたのが」

ボンブは淡々と言った。

「魔獣将アルクだった」

ホークスは小さく息を吐いた。

「……なるほど」

驚きはあった。

だが同時に納得もしていた。

アルクなら、やる。

獣王国の誇りを踏みにじられれば、あの男は黙っていない。

「アルクはその外交官を殴り飛ばした」

ボンブは続ける。

「それが、すべての始まりだ」


ホークスは腕を組んだ。

「その後は?」

ボンブは少しだけ顔をしかめた。

「外交官は炎魔将に泣きついた」

「当時の炎魔将――ブレイデッドにな」

ブレイデッド。

ホークスは名前を聞いたことがある。

「ブレイデッドは怒り、当時すでに風魔将だったシェルクと当時の闇魔将アクタールに相談した」

「獣王国に攻め込むとな」

ホークスは思わず口を挟む。

「シェルクは?」

ボンブは即答した。

「奴は断った。そしてアクタールは様子見だ。話はそこで止まった」

ホークスは少し安堵した。

だがボンブの顔は晴れない。

「だがブレイデッドは納得しなかった」

低い声で続ける。

「女王陛下に進言した。獣王国に賠償を求めるか、あるいは戦争か」

ボイドが腕を組みながら鼻を鳴らした。

「馬鹿な話だ」

ボンブは頷いた。

「女王陛下は戦争を望んではいなかった。だから、ブレイデッドの顔を立てるために賠償を求める方向で話をまとめようとした」

だが。

ボンブの声が少し低くなる。


「だが……ブレイデッドは独断で動いた」

ホークスの目が細くなる。

「……侵攻したんですか」

「そうだ」

ボンブは頷いた。

「外交官が殴られた領地に攻め込んだ」

「そしてそこには――」

「アルクたちがいた」

結果は言うまでもない。

ボンブは淡々と言った。

「もちろん返り討ちだ。それがきっかけで戦争に発展した」

応接室が静まり返る。

だがボンブの話はまだ終わらない。

「女王陛下はすぐに動いた。炎魔将の無断侵攻に対する謝罪」

「そしてこちら側からの賠償」

「その書状を書き、使いの者に持たせた」

ホークスはわずかに身を乗り出した。

「それが届けば戦争は――」

ボンブはゆっくり首を横に振った。

「届かなかった」

「運搬の途中で」

ボンブの声が静かに落ちる。

「書状はすり替えられた」

ホークスの目が鋭くなる。

「……すり替え?」

「宣戦布告の書状にな」

ボンブは静かに言った。

「それが、獣王国に届いた」

応接室の空気が、さらに重くなる。

「――そして」

ボンブはゆっくりと続けた。

「戦争が始まった」


第52話―終


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