第51話――歴史を語る者――
応接室に入ったホークスは、しばらく言葉を失っていた。
目の前にはギルドマスターのボイドと土魔将のボンブ。
それだけでも十分異様な光景だ。
だがそれ以上に、ボンブの雰囲気が王城で見た時とまるで違う。
城にいた時の威厳がまるでなく、頼りになる優しい翁の様な雰囲気。
ホークスは思わず口を開いた。
「……何故、土魔将殿がギルドに?」
さらに言葉を続ける。
「それに、何故あなたがボイドと一緒にいる」
ボイドはホークスの顔を見ると、腹を抱えて笑った。
「ガハハハ! そりゃ困惑するわな!」
椅子にふんぞり返りながら言う。
「こいつとはな、古い付き合いなんだよ」
ホークスはボンブを見る。
ボンブは静かに頷いた。
「うむ。実はな」
落ち着いた声で言う。
「儂は土魔将になる前、ギルドに所属しておってな」
ホークスの眉がわずかに動く。
「……所属?」
ボイドがニヤリと笑った。
「所属どころじゃねぇぞ」
そしてあっさりと言った。
「こいつはギルドの創設メンバーの一人だ」
ホークスは一瞬、言葉を失った。
「……は?」
数秒の沈黙。
それから遅れて驚きが来る。
「創設……メンバー?」
ボンブは苦笑しながら頭をかいた。
「すまんな。驚かすような形になってしまった」
それからボイドをちらりと睨む。
「お前。もう少し順を追って説明してやれ」
ボイドは腕を組み、むっとした顔をする。
「昔からうるさいジジイだな、お前は」
「お前もジジイだろうが!」
ボンブが怒鳴る。
それを見てボイドは大笑いした。
「ガハハハ! 違いねぇ!」
肩を叩きながら言う。
「俺もお前も、すっかりジジイだな!」
ボンブは少しだけ口元を緩めた。
その様子を見ながら、ホークスは一度息を吐く。
頭の中が混乱していた。
だが今は落ち着くしかない。
「……詳しく聞かせてくれ」
ボイドは満足そうに頷いた。
「いいだろう」
椅子に深く腰掛ける。
「ギルドの始まりの話だ」
少し遠くを見るような目をした。
「昔な、この国の境界は今よりずっと不安定だった」
「魔界から魔物が溢れ出し、魔界側の国も隙あらば侵攻してくる」
「そんな状況をどうにかするために作られたのが――」
机を軽く叩く。
「このギルドだ!」
ホークスは黙って聞いている。
「創設メンバーは8人」
ボイドが指を立てる。
「その中に、ゲンもいた」
ホークスの目がわずかに細くなる。
やはりそうか、という納得があった。
父親のゲンがただの剣士ではないことは、昔から感じていた。
ボイドは続ける。
「だがな」
少しだけ声が低くなる。
「今、行方がわかってるのは三人だけだ」
「俺とボンブ……もう一人は東の大陸にいる。東の大陸でギルドのまとめ役兼ギルドの資金担当をやっている」
ホークスは静かに息を吐いた。
ボンブが穏やかな声で言う。
「まさかゲンに息子がいて、しかも闇魔将になるとはな」
「正直、驚いたぞ」
ホークスはボイドを見る。
「……まさか」
低い声で言った。
「ここまで見越していたのか?」
ボイドは肩をすくめた。
「半分だな」
「予想してたのは確かだ」
「だがあくまで可能性の一つだ」
ボンブがため息をつく。
「お前は昔からそうだ」
腕を組みながら言う。
「作戦を立てるなら、もっと厳密に立てろ。行き当たりばったりの作戦はいい加減やめろ」
「全く……それでどれだけ皆苦労させられたことか」
少し遠い目をしていた。
どうやら昔を思い出しているらしい。
ボイドは笑った。
「儂らなら大丈夫だと思ったから無茶したんだよ」
ボンブは深いため息をついた。
「まったく……」
それからホークスを見る。
「お主も苦労しただろう?」
ホークスは無言で頷いた。
ボンブは小さく笑う。
そして穏やかな声で言った。
「さて」
「何か聞きたいことはあるか?」
応接室の空気が、わずかに静まった。
ここには、この国の歴史を知る二人がいる。
ギルド創設者の一人。
そして、そのすべてを見てきた男。
もし知りたいことがあるのなら。
今、この場で聞くべきだろう。
ホークスは静かに息を整えた。
――聞くべきことは、いくらでもある
第51話―終




