第50話――予想外の来客――
朝の光が、重厚なカーテンの隙間から静かに差し込んでいた。
ホークスはゆっくりと目を開ける。
身体を起こし、周囲を見回すと、柔らかな寝具に思わず眉を上げた。
「……寝心地が良すぎるな、これいくらするんだ?」
普段の宿とは比べ物にならない高級なベッドだ。
短く息を吐き、ホークスは身体を起こすと手早く身支度を整える。
城を出る準備をしていると、部屋の扉の向こうから控えめな声がかかった。
「ホークス様、失礼いたします」
執事の声だった。
「女王陛下がお呼びです。玉座の間へお越しください」
「……分かった」
ホークスは短く答えると、部屋を後にした。
案内された玉座の間は、朝の静けさに包まれていた。
ホークスは指定された位置まで進むと、片膝をつき、女王の到着を待つ。
やがて、扉が開いた。
「女王陛下の、お見えです」
静かな声が響く。
エレノアがゆっくりと歩み、玉座へと腰を下ろした。
「顔を上げなさい、ホークス」
「は」
ホークスは顔を上げる。
「昨夜の晩餐会、誠にありがとうございました」
簡潔に礼を述べる。
エレノアは微笑んだ。
「こちらこそ。魔界の話、とても興味深かったわ」
そして、少しだけ真剣な表情になる。
「近いうちに、正式に闇魔将の証である闇の指輪を授与します」
「……承知いたしました」
ホークスは静かに頷く。
「それでしたら私は、これからギルドマスターへ闇魔将の就任を報告をして参ります」
「そう」
エレノアは小さく頷いた。
「ちょうど良いわ。私も近いうちにギルドマスターと顔を合わせたいと思っていたの」
「その旨、伝えておきます」
「お願いするわ」
短いやり取りの後、ホークスは一礼して玉座の間を後にした。
城門まで兵士に案内され、王城を出る。
朝の王都はすでに動き始めていた。
やがてホークスはギルド本部へと戻ってくる。
「……とりあえず飯だな」
そのまま酒場へ向かった。
朝の酒場はまだ静かで、数人の冒険者が食事を取っているだけだった。
その中に、小さな姿を見つける。
「ウィン」
声をかける。
「あっ、ホークス!」
ウィンはぱっと顔を上げ、元気よく挨拶をした。
だがすぐに表情が曇る。
「……あの」
少し申し訳なさそうに視線を落とす。
「えっと……この前……嘘つきって言っちゃって、ごめんね」
ホークスは一瞬だけ黙る。
そして、わざと少し肩を落とした。
「……ちょっと傷ついたな」
「えっ!?」
ウィンが慌てる。
「ご、ごめんね!本当にその……」
焦って何度も謝るウィンを見て、ホークスはふっと笑った。
「冗談だ」
ぽん、とウィンの頭を撫でる。
ウィンはきょとんとした顔をしたあと、むっと頬を膨らませた。
「……もう」
少し不貞腐れた声を出す。
ホークスは笑いながら席に座った。
「朝飯、奢るよ」
「え?」
「それで許してくれ」
そう言ってホークスは店員を呼び、自分の朝食を注文した。
朝の酒場はまだ静かだった。
木のテーブルに向かい合い、ホークスとウィンは朝食を取っている。
パンをちぎりながら、ウィンがちらりとホークスを見る。
「ねぇ、ホークス」
「ん?」
「結局、この前の手紙って何だったの?」
ホークスは一度周囲を見回し、手招きした。
「ちょっと来い」
ウィンは椅子から身を乗り出す。
ホークスは声を潜めた。
「……あの手紙は、女王陛下からの手紙だったんだ」
「え?」
ウィンの目が丸くなる。
ホークスは少し大げさに続けた。
「今の六魔将の空席になっている闇魔将にならないか?、って誘いの手紙だ」
ウィンはぽかんと口を開けた。
「……?」
数秒考えてから首をかしげる。
「えっと??どゆこと??」
ホークスはため息をつき、もう一度手招きした。
「だから昨日――」
また小声で言う。
「闇魔将になった」
「えっ!?」
ウィンが思わず声を上げる。
ホークスはパンをかじりながら、落ち着いた声で言った。
「飯食ってる時に大声出すんじゃない」
ウィンは慌てて口を押さえた。
「ほ、本当に……?」
「本当だ」
ホークスは何事もないように朝食を続ける。
ウィンは困った顔をした。
「えっと……じゃあ、これからどう接すればいいの?」
「どうって?」
「だって、闇魔将なんでしょ?闇魔将様って呼んだほうがいい?」
ホークスは少しだけ目を細めた。
「……俺がどんな地位になっても」
淡々と言う。
「ウィンは大切な妹だ、態度を変えたりしないでくれ」
その言葉に、ウィンの顔がぱっと明るくなる。
「そっか!」
嬉しそうに笑う。
「じゃあ私、闇魔将様の妹なんだ!」
目を輝かせて言うウィンに、ホークスは呆れたように言った。
「調子に乗るな」
それでも口元はわずかに緩んでいる。
やがて食事を終え、ホークスは立ち上がった。
「これからギルドに報告してくる」
「うん!」
ウィンも立ち上がる。
「私もクエスト行ってくる!」
「気をつけろよ」
「はーい!」
ウィンは元気よく手を振ると、ギルドの外へと駆けていった。
ホークスはその背中を少しだけ見送り、受付へ向かう。
カウンターにギルドカードを置いた。
受付嬢はカードを見ると、丁寧に微笑んだ。
「ホークス様ですね」
「ギルドマスターに会いたい」
「はい。実は――」
受付嬢は少し声を落とした。
「今、応接室で客人とご一緒にホークス様をお待ちです」
「客人?」
「はい。こちらへどうぞ」
案内され、ホークスは応接室の前に立つ。
コンコン、と扉を叩いた。
中からすぐに声が返る。
「おお、ホークスか!入れ!」
やけに機嫌の良さそうな声だった。
扉を開ける。
中には二人の男がいた。
机の奥で椅子に腰掛けているのは
ボイド。
そしてその向かいには、昨日王城で会った男。
土魔将ボンブ。
ボンブが先に気づいた。
「ホークス殿、昨日ぶりだな」
王城での厳かな雰囲気とは違い、ずいぶん穏やかな声だった。
ホークスは一瞬、言葉に詰まる。
……昨日の王城では、もっと威厳のある空気だったはずだ。
少し困惑したまま、ホークスは二人を見た。
第50話―終




