56話 混沌を通って
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‐Side 爺‐
「ふむ」
「その秘密主義なんとかなんねーの?」
「環ちゃんが魔法塔に入った」
「え!!」
「連絡もとれるじゃろうて」
「・・爺、もう繋げてあんの?」
「わし、すごい」
「・・・」
「お前もすごい」
「・・・なんつった?」
「わしにはその発想や行動力がない。お前にはある」
「ここで爺には敵わないじゃないかとか言っちゃダメ・・なんだろうな」
「誰が上でも下でもない。敵と味方もない。プラスとマイナスもない。これからはそういう時代になる。老人はそれを楽しみに天寿を全うするのみじゃ」
「・・やっとなんとなくわかった気がするよ」
「おっそいのう」
「うっせ」
「じゃが、それがお前なんじゃろう」
「そうだな」誰かと比べて早い遅いできるできないで『優劣』をつけなくていい、そんな時代になるって思ったら、未来は生きやすい・・きっと。
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‐Side 環‐
並んだ背の高いビルの中に、特徴的な屋上のビルを見つけた。
「これって・・」
「わかりますか?」
「はい。梅田ですよね」
「ウメダという都市の名前なのですか?」
「あ・・そっか。そうです」
ビルの位置からなんとなくの方向で自宅を探す。
広い部屋とはいえ、さすがにそこまで広範囲は見えないかと端まで行って断念したら、
「範囲を広げましょう」
そう言って何か呟き、あっと言う間にビルが小さくなった。
「もっとでしょうか」
そう言われてみると、どんどん街が小さく変化していく。
川があり、南のほうを見れば1番高いビルもわかる。
そして北に連なる山が見えたころ
「もう充分です」と声をかけた。
自宅の地域を見つけ、自分が落ちた池を指さして
「この建物はこの辺りですか?」と尋ねると、
「重ねますね」
と今度は異世界側の建物が濃くなっていく。
「ああ、ここです」
やはり池とここは重なっていた。
「あなたは池に落ちたのですか?」
「はい」
「困りましたね。戻るにしてもここからだとまた池に落ちてしまうから」
「あの・・お城って、どの辺りにありますか?」
「お城はここです」
そこはやはりもう一つの公園で、
「お城の敷地って私のようなものが入ることは可能ですか?」
「うーん・・」なんだか遠くを見て動かなくなってしまった。
なにかいけないことを尋ねてしまったのだろうか。答えを待つ間、お城までの道のりを指で追う。
なんとなくの方向はわかるけれど、迷う気がしてならない。
それなら自宅の方へ動いて、オルビスの家を探すのはどうだろう。
そう思って自宅の辺りへと浮かんでいる透けたジオラマを移動するとなんだか白い。
「ん?」
霞んでいるような、隙間があるような。
自宅辺りに何かあるのだろうか。
もしくは何も無くなったから彼の姿が見えなくなった・・?
「伝言です」
「え?」
「このまま言えと言われたので」
「はあ・・?」
「やりたいようにやっちゃえ☆」
「ん?」言われた瞬間にしょうちゃんの顔が浮かぶ。
「全てフォローしておくから安心して暴れておいで。とのことです」
「あ、はい」
「それだけでわかったと?」
「・・なんとなく」
「そうですか」
無言で身動きもせずなんとなく見つめ合ってしまう。顔は見えないので目があるあたりを見ているだけだけど。お互いきっと脳内情報の処理に忙しい。
「お城でしたね。・・案内しましょう」
「ありがとうございます!助かります」
「いえ」
少し支度をする間、自由に見ていていいと言われて、そういえばと骨のあった場所を探す。
こちらの世界の墓地はないし、何か空間がおかしい感じもせず、何も見つけられなかった。
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‐side 玲央‐
しばらく待ってみたものの、なんの変化もない。
「なんかこう超能力でぱーっといろいろできないもんかな」
異世界といえばチート。だけど俺はチートじゃない。
異世界どころか次元が違うようなところにまで行き来したのに、チートは見当たらない。
まあ、よくよく考えてみたらチートなんてものを人類に与えたら、心を持ち崩してしまうかもしれないしな。
残念ながら俺はチートな能力を持って常に正しい心でいられるような超人じゃない。
得意になって調子に乗ったり、偉そうにしたり、己の能力に甘えて何かに溺れたり。
きっとチートを持つことで欲に塗れたりして、進む方向がおかしくなる。
なんて考えて、また動かない時間を過ごしてしまった。
窓がないので、とりあえず扉を開けてみた。
廊下があって、右のほうに出られそうな外の光が入ってきている場所がある。
扉を閉めてから、部屋で何か書くものを探す。
鉛筆みたいなものを見つけた後、何やら分厚い本を見つけた。
「いくら鉛筆とはいえ、本に書き込んじゃダメだよなあ・・」
一旦本はスルーして、紙を探す。
「なんにもない」
長期間留守にする予定でもあったのだろうか。
紙を探すのは諦めて、本を開いてみる。書き付けを残すのに、余白みたいなものかあればと思ったのだ。
パラパラとめくる。
文字とその意味が大量に頭に流れ込んできた。
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‐side 環‐
次元だの、時空だの、上だの下だの・・・
概念って知らず知らずに染み込んで定着してしまい、もしかしたら同時にあるものをあるわけないと思いこめば「無い」になるのかもしれない。
街を歩いていて、自分の住む街と記憶を重ねて辿るように気をつけていたら、混乱してきた。
私がいた世界から異世界を見るのは、現実ベースだったんだなあとしみじみ思う。
だって、こちら側で少しでも意識がそれると、建物にぶつかりそうになったり、バスがきてはねられそうになったり、どちらの世界にいるのかまったくわからなくなった。
坂道を下りているのに、上がっている錯覚を起こして倒れそうになったり、曲がり角を曲がると階段があったので、足をかけようとしてつんのめったり。
ちょっともうどっちが見えているのかわからない。
建物は外観が違うから見分けがついても、急に目の前に壁が迫ってきたりする。
さっきからヨタヨタと歩く私を見て、最初は怪訝な顔をしていた人が、私の視界の説明を聞いてからは肘をとって補助して歩いてくれている。
向こうだと、あくまでも異世界は異世界で透けているように見えたから、ぶつからずにすり抜けると脳が理解していたのに。
混乱の極み。
「あなたの視界で何が起きているんでしょうね。お城が見えてきましたが、あなたは見えますか?」
尋ねられて指をさしている先を見る。
見えない。見えるのはおそらく私の世界であろう公園にある背の高い木々。
だけど・・・ひときわ大きな樹が見える。
あんなに大きい樹木は公園には無かった。
ということは、私はこちら側の樹木を見ている?
「城にはかなり大きな樹木がありますか?」
「樹木?・・いいえ、無いですね」
「では、何か魔法のような・・目の錯覚を起こすような何かが施されていますか?」
「いいえ。悪意や殺意を持っている存在が入れないようにはかけていますが」
ああ、こちらにも結界のような術があるのか。
「あなたの目には樹木が見えていると?」
「・・そうですね」
「変わった目をお持ちだ」
特別な目だと言われなかっただけまだ良かった。
あれがどこの世界に存在するものなのかわからないけど、私が行くのはそこなのだとなぜかわかった。
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‐side 玲央‐
「ああ・・・」
膨大な量の記憶がバズルのピースがはまるように全てを補った。
哀しみに取り憑かれたように、楽しむことを否定し、彼女以上に不幸でいなければと頑なに動かず。
それでも年月は優しく振り積もり、柔らかくなった部分から剥がしていく。
経年劣化。
この言葉がぴったりくるような存在。それが俺でありひなたであり、あいつ。
経年劣化で憎しみは薄くなり、存在意義も薄くなり、哀しみの色だけは絶対に消さないと必死にとどまり、魂に刻まれていく自由な部分の記憶をなんらかの方法でこの本に残す。
彼女を探して、でも見つけるのが怖くて、会えない不幸を決して手放さない。例え己が個性を手放すことになっても。
「粉々に砕けたもの、ちゃんと拾った」
だから
「こんなもんいらねー」
本をビリビリと破く。破くそばからさらさらと崩れていった。
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‐side 平和‐
「ほお」
「なんだよ、何があった?」
「わしにも正確にはわからんが・・この世の理、のようなものかの」
「は?」
「そうじゃのう・・お前が本当に探していたのはこれかもしれん」
「は?」
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‐side 環‐
フラフラと蛇行しながらも、あの木を目標に定めるとなんとかたどり着いた。
「城はここです」
「そう・・ですか。ありがとうございました」
こんな不審な人間をここまで連れてきてくれたことに心から感謝している。
しているのだけれど、
私の目には城ではなく樹が映っていて、心ここにあらずのような状態でお礼を言ってしまったかもしれない。
「あなたの目には何が見えていますか」
「色が刻々とかわり続け、大きさも変化し、存在の確かささえもうつろう木が」
「・・・世界樹でしょうか」
世界樹きたーって内心ちょっと思う。異世界でおなじみの世界樹は今ここで、いったいなにを表しているのだろう。
「世界樹という概念があるのですか?」
「伝説みたいなものですね」
「どんな伝説でしょうか」
「世界の根幹」
「・・世界の根幹が一本の木?・・違う」
「世界の真理とも言われています」
「違う。真理なんてない」
「はい?」
「人が追い求める真理、そんなものは無い」
「え・・」
「自分のフィルターを通して見る世界に、真理なんてない」
「・・」
「今、この木はここにある、それだけ。私がそう見ている、それだけ」
私のフィルターが世界樹として見ているだけ。それを伝えたいのにそれを表す言葉が思い浮かばずもどかしい。結局、人間である限り「真理」は「人間が考える真理」なのだ。
そんなもの、見つかるわけがない。
そんなものでお腹が満たされるわけがない。
そんな言葉が次から次へと湧いてくるけれど、これを口に出したところでみんなきっと
自分が受け取りたいように受け取る
そんな気がする。一切の感情を持たずにそう思う。
って、今はそんなのどうでも良かった。
私は
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‐side 玲央‐
ドアを開けて外に出る。
念のため残った紙に色々と借りたことを説明する書き置いてきた。
階段を降りるとき、なぜか空間がぐにゃりと歪んだ気がして、壁に手をついて座る。
めまいでも起こしたかとしばらく目を閉じていたら治まったので、ゆっくり降りた。
「ここはどこだ」
今度は明らかに俺側の世界にいる。
さっきの部屋は異世界側だと思ったけど、今は違う。
試しにもう一度部屋に戻ってみるかと振り返ると、そこにはもう降りてきたはずの階段が無かった。
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‐side 環‐
私はただ、生きていきたい。寿命の限りこの世を楽しんで生きていたい。
特別であることも、特別は嫌だともこだわらず、当たり前の日常を。
そこにオルビスを連れていきたい。そう、オルビスが望んでくれるなら。
世界樹がどうとかどうでもいい。
一度目を瞑り、再び目を開ける。
「ですよね」
大きな木は消えたりしない。ならば、あるものとして受け止めるだけ。
まだ少し不安定な感覚を持ちつつ、また前へと一歩ずつ進みだした。
大きな門をくぐり、お城の敷地へと入る。
すると前方からひょこひょこと黒いものがやってきた。
「あ、久しぶり」
なんだかとても懐かしく感じて。自然と笑顔になってしまった。
「しばらく私と一緒にいてくれる?」
伸びたり縮んだり、オッケーしてくれてるのかそうじゃないのかさっぱりわからない。
敷地を進んで行くと、左になにやら開けた場所が見える。木があるのはお城の建物のほう。意識を集中しないと樹ばかりが鮮明に見えてくる。
ここに来るまでは、この子たちと合流して玲央さんを探して、オルビスとともに向こうに帰ればいいと思っていたけれど、こんなにも鮮明な樹を見るとフラフラとそちらが目的になってしまう。
少し行く先を迷っていたら、
「なんだ、どうした?」
連れの男性に話しかける人がいた。
「異世界からの迷い人みたいですよ」
「レオとひなたを知ってるのか?」
「はい。レオさんを探しています」私が直接答えたほうがはやいと思い口をはさむ。
「レオならこの先の訓練場で合流する予定だが」
「そう・・なんですね?」
頭の中の情報を整理していく。
狭間に落ちたひなたさんはもうあちら側にいる。
狭間で会ったという玲央さんは今こちら側の世界にいるのかすら掴めていないまま、私はここにきた。
そして、今、
城ではなく大樹が見えている。
ならば、私は見えているものに向かうしかない。
何かにぶつかってしまうかもしれないけれど。
一歩踏み出した私の視界は、もうフラフラと歪んだりしなかった。




