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あなたを探して~今日から重世界で生活します~君を探して  作者: ブリージー・ベル (旧・瑚希)


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53話 邂逅

□  □


「まだいけるか?橘」

「余力50%ぐらいですね」

「そうか」


「向こうの終わりも近そうです」

「そうじゃな」


□  □


どんなに姿が変わろうと、例え醜くなろうとも、性別さえ超えて君のところへ行くと決めていた。

なんだか高潔な決意のように聞こえる。


だけど、

よくかんがえてごらん。

自分が我慢する側の考え方なのだと気づかないか?


私の姿が醜くなっても耐えてもらえるだろうか。私があなたと対になる性別じゃなくても、同じように愛を注いでもらえるのだろうか。


何度も分裂を繰り返し、人間としての意識を積み重ねるごとに、最初の純粋な想いさえも濁っていく。


構わなかったんだ。


君がどんな姿だろうと、愛している。

ただ純粋にそう想っていたのに。私がどんな姿だから愛してもらえる、醜いと愛してもらえない、そんなことを考えない愛だった。それだけ。

犬や猫を思い浮かべれば伝わるだろうか。

どんなに鼻が潰れた顔でも、どんなに足が短くてもひたすら飼い主を愛し愛される動物。

あの純粋と同じ愛だった。


□  □


私が名前をつけてしまったからだろうか。

愛のカタチはどんどん変化して、純粋で尊いものをそこにしばりつけてしまった。

私には可愛くて愛しい存在でも、特別な何かに救ってもらいたい人間にはそうは見えない。

神様に縋るように、助けを求め始めた。

私を殺した人間も、ただひたすらそこにいただけのあの子に、


「私に特別をください」


と祈るのだ。


そういう想いは人間の体をじわじわと重く変える。

何百年も耐えたのかもしれない。

耐えきれなくなった部分を切り離しながら、その場に残った。

私と会うためだけに。

私は、名前を呼ぶのが怖かった。


あの子はオルビスという名前の部分に縛られ始めたと気がついたから。

だからこれから一緒に生きていく間に、少しずつ理解を深めていければいいと思っていた。

でも、どんなにあの子に会いたくて新しい人生を繰り返しても、私の特別を求める人たちに壊されていく。何度も死んでは戻って、また記憶を失って一からやり直し、また壊される。


時代。


みんなが苦しい時代。

そのせいだと思えば良かったのかもしれない。

だって今、とても自由だから。

だからやっとあなたの名前を思い出し、あなたの名前を呼ぶことができる。


「オルビス、今ならきっとあなたと生きられる」


もちろん、やり直したくないならそれでいい。

笑ってあなたを見送るから。


□  □


‐side 環‐


「さて、着いたかの」


今だに涙を流し続けているひなたさんの横に座り、時々ハンカチでひなたさんの涙を拭く。

そしたらまた顔をくしゃくしゃにして涙が増えてしまうのだ。


じゃあ拭かないほうがいいかなと思うのに、襟元がどんどんびしょ濡れになってくるものだから、またハンカチで拭く。


これを10回以上繰り返したとき、私の家の近所の公園についた。

あの、何かあると感じた池のある公園。


「環ちゃん」


そう声をかけられて、何をどうするのかよくわからないままにまた歩く。

コインパーキングに入れた車から離れ、池のほとりに立った。

少し遅れて襟元びしょびしょのひなたさんがやってくる。


「こっちに引っ張ると危ない」


そうだよね、池だもの。

少し意識を切り替えて見ると異世界側が見えた。


でもやはり何かある感じはするものの、建物などは見えない。


「ふむ」


しょうちゃんが手をぱちんと叩いた。

乾いた音なのに、遠くへ届くような深い音。


「あ」


異世界側に小さくて古い建物が見えるようになった。


「後で怒られそうじゃの」


そう言って笑う。

ではこちらにも空間の歪みみたいなものがあるのかと目を凝らす。


だけど何もない。

あるのは水鳥がすいすいと泳ぐ池と、異世界側の建物だけ。


「オルビス」


名前を呼ぶと、ひなたさんがビクリと揺れた。

少し違和感を覚えた。

何かを呼ぶことはわかっていたのに、そういえばひなたさんはここにいるし、誰を呼べというのか

疑問に思ったのが伝わったようで


「玲央。玲央と呼んでみて」とひなたさんに言われる。


「・・玲央」


知らない名前のはずなのに、妙に懐かしい感じがした。


「ライオンみたい。・・レオ?」話しかけてみる。


「狭間にいたときに聞こえたのは君の声だったんだね」まだ涙の乾かない目でひなたさんが私を見る。


「オルビス?」聞こえたのはこの名前だろうか。

「うん」そうか。なら、レオさんにも届くかな。


「玲央、池に落ちないように気をつけて」


ひなたさんも池に向かって話しかける。

池の底が少し揺らめいて光ったように見えた。


「オルビス?・・玲央?」


なんとなく、彼の側に行ける気がした。

池の周りに張り巡らされた柵を掴み、恐る恐る乗り越える。

見えている異世界へ一歩踏み出した。


□  □


‐side 橘‐


「来る」


環さんの背中に向かって飛んでくる思念。


「還滅」


一瞬で霧散して還した。

それはいい。でも今回は何か別のものが入り込んでいた。

例えるなら哀しみ。そういうものが私たちの周りをぐるりと一周して消えた。


それには効かないようだったのに、自ら消えた。


「哀しいのう」


ポツリと御大が言う。

消えることが悲しいのだとしたら、私には理解ができないかもしれない。

想いも苦しみも憎しみも哀しみも。幸せな想いを残して消えてしまえばいい。


だけど、おそらくこの老人はそう言わない。


哀しみも幸せも、その全てが尊いのだときっと言うのだろう。

まだその境地になれない私は・・


バシャ!


「え?」


□  □


‐side 環‐


「いかん」


しょうちゃんの声が聞こえたけれど、

完全に水の中に沈んでしまった。


あ・・


私は泳げないんだった。


水だけは怖くてしょうがなかった。

ああ、人柱のように沈められたことがあるからか。

あれはダメ。

異世界の感触があったのに池に落ちる不思議。

どうしよう、なんとか水面ぐらいまでは上がれるかな。

落ちてしまった割には慌てていないけれど、呼吸があまり持たない。

異世界側に見えてた景色は偽物だったのだろうか。


その時、誰かの手が私を掴んだ。


水の中で目を開けられなくなり、誰なのかわからない。


開けて見たところで、水が汚れていて見えなかったかもしれないけれど。

掴まれた手の方へと水を掻いて近づこうと思ったとき、



「こっちだよ」


懐かしい声が聞こえ、瞼に光が差し込んだ。


□  □


‐side ひなた‐


「げほっ」


手を掴んだ瞬間、するりと感触がなくなる。

明らかにどこかへ移動した感覚があったので、とりあえず自分は水面へと上がる。

泳ぎは得意でも、着衣のままはさすがにきつい。陸地に戻るより、真ん中にある島のようなところが近かったので、そちらへと泳ぐ。


なんとか上半身を陸地に上げたものの、それ以上は自力で上がるのがきつい。

うつ伏せで休んでいたら、アヒルだかカモだかに突かれた。

俺は餌じゃないぞ。


呑気にそんなことを思えるのは、喪失感がないからだ。

どうしてか彼女は無事だとわかる。


□  □


‐side 環‐


水の中にいたのに、気がついたらなんだか白いところにいた。

壁があるのかすらわからない。白すぎてまるで光ってるように見える。


ここはどこだろう。


そしてびしょ濡れの服が冷たくて気持ちが悪い。

体の感触があるということか。


水を飲んでいなかったようで、呼吸が少しずつ戻ると、痛いところも気持ち悪さもない。良かった、さすがに池の水は飲みたくない。

疲れた体を持ち上げて、立ち上がって出口を探す。

方向が全くわからないけど、床に私から流れ落ちた池の水の跡が残っていく。


ということは、異空間というわけではないよね?


だけど、なんとなくの概念でこのぐらいの距離ならさすがに壁なり柱なりあるだろうという位地まで歩いても、何もない。真っ白だから東西南北すら分からないけれど、私の水跡は伸びていってる。


散々歩いてみたけれど、体が冷えてガタガタと震えてきた。

しょうがないので着ていた服を脱ぐ。裸になるのは抵抗があるので、トップスだけ。

少しだけ気持ち悪さは取れたけど、寒さは変わらない。

もしかして、ここはあったかいと思いこめばあったかい場所になったりしないかな・・

そう思ったら、目の前にストーブが現れたかのように暖気に包まれた。


「え?」


じゃあ着替えも魔法みたいにさっと一瞬でできるかなと想像してみたけれど、それはできなかった。


「うーん・・」


とりあえず寒さは落ち着いた。服も少しだけ乾いてきている。

物質は出せない。

それなら異世界ネタ一通りやっちゃう?


「ステータスオープン」


・・・。


はっず!


やばい恥ずかしすぎて悶絶する。

やだもう試したくない。

ジタバタしていたら、誰かに笑われてる気がしてきた。


「誰かいるの?」


そよそよと風が吹く。


「オルビス?」


ふわりと風がまとまる感覚がした。


「オルビス」


恥ずかしさを忘れて、愛を込めて呼んでみる。

またふわりと風が吹き、少し懐かしい香りがした。


「オルビス、会いたい」


蓋をしていた想いをそっと吐き出してみる。

ぶわりと青が集まった。


□  □


‐side ひなた‐


ガアガアと鳴き声とともに腰の辺りを突かれていると、ブルブルと振動が伝わってきた。

防水とはいえ、いつ故障するかもしれないと危機感を覚えて、力を振り絞ってなんとか下半身も陸に上げる。


かじかむ手を何回か振って感覚を戻して、ギチギチに固くなったポケットに手を入れてスマホを取り出す。防水最高。


「着替えある?」

「・・・あるそうじゃ」橘さんに尋ねている声も聞こえた。

「助かる」

「着替えの前に戻る方法を考えんとのう」


そう言われて周りを見渡すと、ボートはないし、早朝散歩でもしているのか老人が結構いる。ジロジロ見られているが、電話で会話しているからか、何も声はかけられない。冷静に見渡してみると、1番近い陸地は2メートル程度。ただ、石を掴んで上に上がるのは厄介だ。


「ちょっと体力回復したら、1番近い陸地まで泳げる」

「そうか」


「なあ」

「ふむ」

「彼女か無事だとはわかるけど・・」

「環ちゃんは、自分で作った空間に行ったようじゃの」

「そうか。そんなことができちゃうんだな」


「命がかかっておったからのう」

「そこに・・いや、いい」


「ところで、お腹は空いてないかの?」

「あー・・はは・・空いてるわ」


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