49話 意識の世界
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‐Side 環‐
朝の爽やかな光と空気の中、車で山を下りていく。
この山はとても静か。
早朝はさすがに車の通りが少なく、すいすいと自宅へと進む。
このままだと目的の公園ではなく、あの奇妙な感じがする公園を通るので、橘さんに
「ちょっと見てほしい所がある」
と説明すると、近くのタイムパーキングに停めて付いてきてくれた。
「ここなんですけど」
そう伝えると何かを呟いた後、どこかへ電話をかける。
「◯□駅付近の公園に・・はい」
しばらくしょうちゃんらしい相手と話してスマホを渡された
「もしもし?」
「そこは異世界の魔法塔じゃな」
「魔法塔・・」
「たぶんもう入れるとは思うが」
「池があるので」
「行こうと思えば行けるはず」
「・・・」
行こうとは思っていないのだけれど。
「行く行かないは環ちゃんの自由じゃ」
そう言われて少し話した後、車に戻った。
次にお城のある公園へと移動し、またコインパーキングに停めて少し歩いていく。
「ここです。お城が見えますか?」
橘さんがまた小さく何かを呟いて電話をかけた。
「今度はお城だそうです」
しばらく話してからまた電話を代わる。
「環ちゃん、このままそうじゃのう・・3分ほどで構わんから異世界へ移動してみてくれるかの?」
「また池なんです・・」
「・・・」
早朝とはいえ、ウォーキングやランニングを楽しむ人がいて、人が途切れた瞬間に意識を異世界側へと移す。一瞬で橘さんたちが消えて、木立に囲まれる。城門が見えるのでおそらく城の敷地内だろう。
この前話し声が聞こえた方向へ少し進んだ。
確かあんまり進むと池に落ちそうなところ・・
「もしもし」
電話に話しかけてはみるものの、音は途切れている。
いきなりこの世界の服でこちらに来るのは捕まえられそうで怖かったけれど、今のところ誰もいない。
もう少し、もう少しと進む。
何か作業をするのか、少し開けた場所がある。
そこに少しだけ足を進めてから踵を返した。
もう3分ぐらいは経ったかな。
もといた場所辺りで意識を切り替えると、橘さんたちが見え、周りの人がいなくなるのを見計らって戻った。声は聞こえなくても、通話はきれておらず
「ふむ」
「何かわかりましたか?」
「充分じゃ」
話が終わったようなので、スマホを橘さんに返して、その間にお城を見る。
あの黒いぴょこぴょことしたものが、どんどんお城へ近づいて行くのが見えた。
電話を切った橘さんに
「あの黒い子たちが」と声をかけると
「はい。迷子になったら迎えにきましょうね」と言われ、そういうものかと頷いておく。
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‐Side 玲央‐
歩いてきた道のりを思えば、ここにあと3時間ぐらいいても大丈夫だろう、トイレの心配を考えたらせいぜいあと2時間か。
段差になっているところに腰掛けて、空を眺め、草を観察し、虫を探し、ふと目に入った石を拾う。
向こうの世界にもこういう石はあったっけ?
石を見ていると、なぜか自分が大きくなった感覚がしたり、小さくなる感覚があったりで、小さい頃不思議に思っていたことを思い出した。
まるで自分が石そのもので、その他大勢であり誰にも見つけてもらえなくて怖くて仕方がないような気持ち。
俺はなんであんな風に思っていたんだっけ。
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‐Side 環‐
そこからしばらく車で走って自宅に着いた。
とはいえ、どことなく重厚な雰囲気の車から出てくるところを知り合いに見られるのは嫌だったので、少し離れたところで降ろしてもらった。帰宅して、しばらく休んだらシャワーを浴びて、日常に戻る。
そうか、私は普通に生きる幸せを噛み締めているのか。
誰にも崇められず、搾取もされず、この平和な日本で、たまに文句を言いながらも勉強して、働いてお金を稼いで、美味しいご飯を食べて、家族を大事に想う。
今、それができている幸せを強く感じた。
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‐Side ひなた‐
もう何度錆を落としたかわからない。
錆の中に本当のものがある気がして術をかけているが、もしかして錆そのものが本体で、どんどんこいつが消滅していってるんじゃ?
そんな風に思ったけど、たまに不思議そうな顔をしてこっちをみてくる目を感じる。
その目の中にこちらの目が潰れそうなほどの光度の高い青がある。
その不確かなものにたどり着きたくて、結局また錆を落とす。
あれだ、ガチャみたいなもんだ。次こそは当たるかもと思ってまた課金してしまうあれ。
ある金額を超えると、積み重ねてしまった課金総額を無駄にしたくなくてまたガチャるあれ。
何も消耗はしていないけど、単純作業の繰り返しでなんか眠くなってきた・・
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ただ、側にいて彼女の優しく澄んだ香りを嗅いで、たまに笑い合っていられればそれで良かったんだ。
人には寿命がある。
魂は永遠だ。
魂で一緒にいるのはとても幸せで。
だけど、肉体を持って一緒に過ごす時間もまた尊くて。
彼女を失った時、僕は彼女の魂と離れないように必死に僕の首を繋いだ。
肉体を離れようとする魂に繋いだ紐は僕の首をじわりじわりと絞めていく。
はやく。一刻もはやく僕を殺してくれ。
肉体を捨てて彼女を追いかけなければ。
魂だけになった彼女は、僕のためを思って先に生まれ変わってしまうかもしれない。
それが僕のためだ、と。
嫌だ。
どんな形だっていい、生きている彼女の生とともにいたい。
引っ張られていく紐に首が締まっていく。
なのに死ねない。
だって僕は人間じゃないから。
彼女の優しくていい匂いがする愛で、名前をつけてもらって、性別らしきものも発生して、彼女といたいという意識になったんだ。
このままだと、ひとつだったものか2つになってしまう。首から上と下だ。
ああ、もういっそ切れてしまえばいい。
そしたら紐も2つにわけて、またしっかり縛り付ける。
そうやってできたものが、細かくちぎれた僕。
ちぎれたっていい。どこかの欠片が彼女を見つけてくれればいい。
だけど
なんどもなんどもちぎれていった僕のコアは、もう何もかもがぼんやりして、いろんなことがかすかにしか思い出せなくなってきた。
彼女の香りを忘れても、哀しみだけは忘れない。忘れてなるものか。
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簡単で単純なことだった。
私は彼が欲しくて、あの男は彼女が欲しかった。
どんなに甘く唆しても、あの二人が揺らぐことは無かった。
それなら、片方を消してしまえばいいと思った。
殺そうとか、そんな恐ろしいことを考えたわけではなかった。
なのに、自分がやったことは自分勝手でおぞましくて、思わず「そんなつもりじゃなかった!」と叫び、自分のせいじゃないと、ほんとは自分がやったことなのに認めることすらできず、醜さだけが際立つことをした。
結局、私は自分さえ良ければ他のことなどどうなっても良かったのだ。
自分勝手だと言われても「自分の幸せを守ることは当然」としか思っていなかった。不安になりたくない、人を羨みたくない、私は幸せを手に入れる。
私が!私は!私だって!
私は幸せになることはなく死んだ。結局何をやっても不満だった。あの時彼が手に入っていれば私はこんな風にならなかったのにと、自分でやったこともすべて人のせいにし続けた。
輪廻の輪に戻ればまた新しい生命で新しい体験をすることになったのに、私はそれも拒んだ。
「私が私の幸せを守って何が悪いの?」
この想いに囚われて、抜け出そうなんて思わなかった。
知ってる?
人はね、執念に囚われていつまでもそこにいることができるの。
重くて濁ったその層にいれば、そいつを濁らせてやりたいと思うようになるの。
悲劇をおこしたのが自分でも、その醜さからは目を逸らし、ひたすら甘美な悲劇に酔う。
あの人を手に入れたいと思った執念は、あの女にだけは手に入れさせないという積怨へと変わった。今生だけじゃない、未来だって一緒にはさせない。だって私は幸せになれなかったもの。
ずっと繰り返して、もう楽しいも哀しいも悔しいすらもない。単なる執念、醜さを認められない、誰よりも醜い意地。
それでも私が消えることはなく、このままなのだろうと思っていたのに。粉々になって風に吹き飛ばされ始めた。
消えるなら最後に棘をまぶしてやろうとしたとき、棘はもう出せなかった。
棘が私に刺さればよかったのに。
そしたら痛みでまたそこにしがみついていられたのに。
棘が出せないと気がついたら、私がどんどん薄くなっていく。
いやだ。
消えたくない。
消えたらあの女と彼が一緒になってしまう。
ドロドロに汚れた私の自分勝手は、どこかから伸びてきた青色に薄められ、違うところからやってきた透明に消されていく。
嫌だ。
嫌だ
嫌だ。
私だけなんて嫌。
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