48話 思い付きはベストなタイミング?
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‐Side ひなた‐
俺は彼女に好きだと伝えたかった
そうか、好きだとさえ伝えられなかったのか
好きだと伝えた先に何かあったのか?
いいや、彼女からの返事が欲しかったわけじゃない。
ただ、彼女があんなふうに消えてしまうのならば、好きだと伝えて毎日そばにいれば良かった。
伝えていたら何か変わったと?
何も変わらなかったのかもな。
だけど、こんなふうに「伝えたかった」と自分に降り積もるように重ねていって、身動きが取れなくなることはなかったのかもしれないな。
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‐Side 玲央‐
森に入って虫を探す。
早朝の太陽が差し込み、森の中は意外と明るい。
「太陽?」
そうか、この世界にも太陽があるのか。
異世界なのだから、太陽ではないものが生活を作っていても不思議ではない。
それでも太陽があるということは、概念ではなく生活に欠かせないものだからだろうか。
人間なのだから息をして、排泄をして、生活をするために働いて、美味しいご飯も美味しくないご飯も食べて、
・・・恋をする。
そういや、俺はちゃんと恋をして生きてきたっけ?
好きだと言われて付き合って、それなりに楽しいけどそれなりにつまらなくて。
この人と一緒に生きていきたいと思うほどには燃え上がらなくて。
あー、俺は恋愛しなくても生きていけるタイプかも?なんて思ったり。
人並みに性欲もあるけど、どうしてもこの人と!というのもなくて。
あれ?俺はなんで虫を探そうと思ったんだろう。
しゃがみこんで湿った土を眺める。
一見何もいないように見えるけど、土の中には微生物やいろんなものが生きているだろう。
「なあ、お前らは恋をして繁殖するの?」
そこにメスがいるから繁殖するのではなく、虫も相手を選んでいるのだろうか。
それを「恋」と呼んでもいいのだろうか。
しばらく土を眺めて、だんだん足が痺れてきた。
「なんか哲学」
そう呟いて立ち上がる。
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その人生が最初だったのかはわからない。
私は能力を持っていた。
その能力のせいで結局命を消すことになった。
私には大事なものがたくさんあった。
私を支えてくれる人
私を愛してくれる人
私のそばにいてくれるもの
私の命を使うことで、目的がなされるのならば、それで構わないと思った。
ごめんね。私を失う悲しみをあなたたちに与えてしまうかもしれないけれど、
この身体の命は消えても、必ずまた生まれて還ってくる。
その時に会えたら、記憶はなくてもまた楽しく一緒に過ごそうね。
そんなふうに思った。
何度も生まれ変わる。
そのたびに私は「愛」を差し出して「特別」を与えられた。「愛」を差し出して「愛」を返してくれた人はとても少なかった。客観的に見れば悲惨だった多くの人生に、あの子はいたのかな。
痛みに喘いで、つい自分の人生を呪ってしまったときに、あの子は側にいたのかな。
蘇ってくる数々の人生の中、大切なものが増えては消えていく。
あの子の名前は・・
「オルビス」
ポツリとその名が勝手に口からこぼれ落ちた。
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‐Side ひなた‐
「会いたい」
会いたいという言葉が脳内でゲシュタルト崩壊し始めた。
会いたいってなんだっけ。
会って何をしたいんだっけ。
会うって何だっけ。
会えないというのはそんなに辛いことだっけ。
会えない会いたい会いたい会えない。
会えないと会いたいは同じ意味だったっけ。
何もかもが崩れ出したとき、青が吸い込まれ始める。
この空間にいる奴に全ての青が吸い込まれていく。
そいつに集まった青は、黒に見えるほど濃くなった。
あんなに「会いたい」を凝縮してしまいこんで、大丈夫なのか?
もし俺があいつなら、たぶん壊れる。
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‐Side 環‐
「・・・名前を思い出して呼んだからって・・ね」
綺麗な空間に名前だけが浮かび上がって、どうすることもできずに消えたような気がした。
会いたい。
私の全てを愛してくれたあの子に
会いたい。
今、あなたは幸せ?
あなたは私を忘れてくれた?
哀しみに囚われて動けなくなっていない?
私が望んだのは、あなたが幸せであること。
そんなことを考えていたら、勝手に涙が溢れてきた。
泣くのはすきじゃない。鼻も喉も目も痛くなるから。
だけど止めることもできないまま、しばらく流し続ける。
たぶん、この身で会えなくても、この身を脱いで軽くなったとき、私はどこかの世界で会いたい人に会えるはずなのに。
・・会えている気がなんとなくしない。
なんとなくでしかわからないことがもどかしい。
このもどかしさをいっそ粉々に壊して消してしまいたい。
私はあなたに会いたい!
それは願いではなく、純粋な決意。
どこかの何かが動いた気がした。
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‐Side 玲央‐
森を出て、街を眺める。
そうだ、ひなたを探さないとな。
それなら魔法使いに会いに行けばいいか。
ぼんやりとしか覚えていない道を辿って、何回か迷いつつ、1時間程度歩いて見つけた。
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‐Side ?‐
小さい棘を刺す。
ひとつで効かないなら、何百本、何万本も。
そうするとほら、痛みに酔いしれ始める。
私はこんなに辛いのに。あなたは私を救ってくれないの?
そうやってずっと自分で自分を苦しめる道を歩けばいい。
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‐side 環‐
眠りは脳も体も回復させてくれる。
ひたすら寝て、起きたらまだ朝の5時だ。
少しぼんやりしている視界に黒い子たちが映り込む。
「おはよ」
答えてくれているのか、ぴょこぴょこ動いた。
「今朝、探しに行くのかな?」
んー?と言ってるかのように横にぐにゃりと曲がる。
「か、かわいい」
顔もなにもない黒いそれは、何をしているのかわからないけれど、なぜだかどうしようもないほど可愛く思えた。朝早くに人を探すのも憚られて、部屋に置いてあるお茶を飲んで、お湯を沸かす。
スープの素とおにぎりが置いてあったので、おそるおそる口にした。胃が受け付けない可能性があると心配したのだけど、特に気持ち悪さもなく普通に食事ができた。
立ち上がって、顔を洗う。まだ化粧は顔に残っていて気持ち悪いので、洗い流してから置いてあった基礎化粧品で顔を整えて、化粧ポーチに入っているものでなんとか整えた。
服はしょうがない。今日探しに行かないなら一旦帰らせてもらおう。
ゴソゴソ動いている間に黒い子たちは消えていて、ベッドに座ってスマホをいじっているとノックの音。
ドアを開けると橘さんが立っていた。
「一度帰りたい」と話す。
「かしこまりました」
淡々と話を聞いてくれて、どこかへ去った。
仕事ができる人というのは、無駄が少ない人のことを言うのかもしれない。
そんなことを思いつつ、こわばった体をストレッチで伸ばしていく。
自宅にいるときに早起きしたら、早朝ウォーキングやランニングをして体を整えるところだけど。
別に運動が好きなわけじゃない。でも身体の滞りは運動することで改善できる気がするのだ。
しばらくストレッチをしていると、橘さんが戻ってきて
「送ります」と言われた。
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‐Side 玲央‐
「あ」
しまった。
シューバがいないから中に入れない。
なんとなく「コンコン、ちゃーす」で入れる気分になってた。
「魔法使いさーん!」
って声をかけるのも、場所が隠されているなら迷惑行為だよな。
困った。誰か出てこないかな。
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‐side 魔法使い‐
「歪みが消えて、そこだけ無くなった?」
ぐわんと湾曲してる空間の歪みが消え、まるでそこだけ切り取ったように穴のようなものが開いている。
いや、穴じゃない?
隙間のようなものがあり、その向こうがどこに繋がっているのか、繋がっていないのかもわからない。
あの爺さんの仕業?
干渉したらあの頭痛はやってくるのだろうか。
そんなことを思っても、知りたいのほうが上回る。無意識的にもう繋がってしまった。
「なにもない」
どこかに繋がってもいないし、歪みも何も無かった。
しばらく呆然として佇んでいたが、頭痛も起きない。
釈然としないまま帰路につく。
坂道を登っているのに降りているような感覚に包まれながら
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‐Side 環‐
駐車場で車に乗り込むと、運転席には男性が、私の隣には橘さんが乗り込んできた。
「後はご都合の良い日の早朝に梅田の交差点に来てほしいとのことです」
「・・それだけ?」
「はい。もう準備は整った、と」
「アイビーさんの言葉のレッスンのついては?」
「それは、おまかせします」
「え、お任せされても」
「気になれば会いに来て頂いても、呼び出して頂いても構わないとのことです」
「そんなざっくりゆるい感じ・・?」
「はい」
頷く橘さんの目をしっかり覗き込むと、少し目元が和らいだ。
「そうですね・・たぶん今はどう変化するのかわからないので、きっちりスケジュールを組むのが難しいということだと思います」
「なるほど・・理解しました」
人が簡単に異世界に移動したり、消えたりするような状態は確かな約束をしても意味がないかもしれない。ふと思いついて「寄りたいところがあります」そう頼んだ。
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‐Side ひなた‐
この空間で自分の技術が活きるだろうか。
亜空間の空気に飲み込まれて、自分が術者だということを完全に忘れてしまっていた。
この空間をどうにかすることはできなくても、こいつの哀しみを少し変化させることはできるだろうか。
ぎゅっと握りしめて固くなってしまった想いは、ほぐすことが難しい。
だけど、この空間には何か違うものが在る。
腹も減らない、排泄欲求もない。おそらく時間さえないのだろう。
それなら、体力だって減らないかもしれない。
固くて錆びついた金属を少しずつ解くように、術をかけてみる。
最初に弾かれる感覚があった。
だけど同調するコアなものがある感触に、手応えを感じる。
錆を落とし、そこだけをこするとボロボロに欠けていく。
すぐにまた再生して鎧を纏うのかと思ったが、再生しない。
こいつが俺でもあるのなら、俺の気持ちも染み込んでいくだろうか。
「変わろう」
どうか、一緒に変わることを選んでほしい。




