46話 迷子の迷子の誰かさん
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‐Side ひなた‐
「迷子!」
周りのどこを見渡しても何もない。
景色も色も、なーんもない。
亜空間?
見えないものを見る方の目で見ても何も変わらない。
「これやばいかも」
どこにも行けないのだ。出口もない、空間の歪みすらない。
なんにもない。
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‐Side 環‐
私が見ている世界は・・・
「なるほどのう」
「なぜ、彼の空間だけが消えたんでしょう」
「ふむ。どこに消えたのかまではわからんが、そのイケてるメンと複雑に絡み合った糸で繋がっていたのはわかる」
「イケてるメン。・・え、糸?」
「もうどうしようもないほどに絡んでしまった糸を想像してみてほしいんじゃが」
「はい」
「お嬢ちゃんならどうするかの?」
「・・・」
「橘なら?」
「ありとあらゆる方法を試しますかね。水に浸けたり、ロウを塗ってみたり」
私ならどうするのだろう。絡まりを解く時間すら惜しいと思ってしまうのではないだろうか。思い浮かんだ方法は・・
「・・・切ります」
「じゃろうの」
じゃろうの?私の個性はそうするだろうと思われている?だとするなら・・
「私が・・切った?」
「そうじゃ」
老人が強く頷いた。
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‐Side 玲央‐
シューバは何かしたいことがあるらしいので、一旦別れることにした。
三兄弟にお土産を渡す。飛び上がって喜ぶ3人の中で、草の上を転がって喜ぶのが1人。
そこまで喜んでくれて嬉しいが、ちょっと将来が心配になる。
ムッツリの対極。スーパー陽スケベ。積極的スケベ。アウトゴーイングスケベ。スケベがアウトプット。
3人でコソコソと、鍛錬場のすみっこに移動していった。
やっぱエロって端っこのほうでこっそりがいいのか。ムッツリ感復活。
あいつらに混ざろうかと思いながら、あいつらが初めてエロに触れる小学生だとして、俺はもうじじいレベルのような気がして遠慮することにした。
じじいが混ざってドキドキを奪うわけにはいかんな。気分はしょーちゃんだ。
さて、俺はどうすっかな。
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‐Side 環‐
私が切った。
彼がいなくなってから、まるで恋焦がれているかのように探し始めているのに、私が切った?
納得できないのに、私の深いところでは理解できているような気もする。
「切ったものはもう・・繋がれない?」
「そこで面白いのがお嬢ちゃんの『特別ではない』という個性じゃ」
「?」
「特別ではないと思いたい人生ばかりを歩んできたんじゃろうの」
「・・・?」
「わからんか」
「私の人生・・特別?」
「ふむ」
じっと見つめられて、なんだか少しいたたまれない。
「特別な役割なんて悲しいだけだと幾度も思い込んできたと言うべきかのう」
「思い込んできた・・」
「他人からの特別であることの強制を心底嫌ったんじゃのう」
老人が言うことは、理解できるようでできていないもどかしさが募る。
「話を戻すと、切れるということはまた繋ぐこともできる。ようは裁縫じゃ。チョキチョキ、チクチク」
「チョキチョキ、チクチク・・」
「まあお主の場合はハサミなんぞ使ってないがの」
「・・あの」
「うん?」
「申し訳ないのですが、さっぱりわかりません!」
「ほう!」
「わかるようでわかりません!わかるふりもしたくないです。バカにもわかるようにしっかり説明をお願いします!」
「ふぉっふぉっ・・なんと、気持ちの良いことを」
「そろそろ着きますので、親御さんに泊まりの連絡を入れるなら私がお電話に対応します」
え、泊まりなの?
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‐Side ひなた‐
こうなんもないと、自分がなんなのかすらわからなくなるな。
しばらくウロウロしてみたけど、本当に何もない。
出口も、有機物も、時間も。
自分さえ、ここと同化して消えてしまいそうだ。
それでも、何もない中からじわじわと浮かび上がってきたもの「感情」がある。
自分か探してきたものを見つけたい。
知りたい。
自分の根幹にあるその気持ちは、こんな空間と同化して消えることはない。
ざりっ
何かが掠れるような音が聞こえた。
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‐Side 玲央‐
なんとなくこちらの世界に馴染めるような服装が役に立つ。
白いシャツとチノパンだ。靴はショートブーツ。これならこちらで浮かないだろう。
前回来た時には馬に乗って駆け足で眺めた街、そこを歩いてみようか。
三兄弟に「ちょっと歩いてくる」と声をかけたが、「うぃー」という生返事が返ってきた。
王城とは逆の方向だったよな。
少しだけ丘になっている区域を抜けて、検問のようなところを通る。平和なのかそのまま通された。
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‐Side 魔法使い‐
重なる世界を映して見ていると、違和感を感じるようになる。
違和感を探していると、歪みがなくなっていることに気がついた。
そういえばと思い立ち、痛み止めの薬をポケットに入れてあの場所へと向かう。
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‐Side ひなた‐
天井とも壁ともわからない空間に淡い青が滲んできた。
光が水のように揺れ、濃淡の青が溢れ出す。濃い青は凍っているのか刺さると痛そうな形状に見える。
その青に混ざる圧倒的な「哀しみ」
思わず身を守りたくなるような悲しい何かが青に映る。
逃げたい。だけど逃げられない。
手のひらにかく嫌な汗が滴り落ちるほどになった頃、
空間の全てが青になった。
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‐Side 環‐
「できれば帰宅したいのですが」
「私の予想では、おそらく帰るのが難しいかと」
「・・・?」
「まあ、親御さんに連絡しておくのは大事じゃし、帰りたいときはちゃんと送るということで良いかの」
「はい」
その場で母にメッセージを入れた。私を信頼してくれているので、帰らないと連絡すれば「了解」と答えてくれる。
「じっくりと話をしないとのう」
それは私とこの老人の2人きりのことなのだろうか。
メッセージを打ちながら聞こえてきた呟きなので、聞き返せなかった。
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‐Side ひなた‐
青い。哀しみの色は青かったのか?
日本の夏の空の青さ、秋の澄み渡るような青のイメージが強く、正直青が悲しい色だとは思ってこなかった。俺にとっては優しい青なんだけどな。
身を捩って逃げ出したくなるような哀しい空間に、もう1人の人間がいきなり現れた。
「?」
こいつも俺と同じように迷子なのか?
「ああ、お前もか」
何語なのかはわからないのに、言っていることはわかる。
「?」
「長くいるとおかしくなる」
これは俺に親切に言ってくれているのか?
なんて答えたらいいのか分からず見ていると、何かを取り出してそこに置く。
何をどこから取り出したのか、見えているのにわからない。
だけど、空間の哀しみの密度が上がった。
これ以上哀しいことなんてあるのか。
さっきの台詞から、すぐに出ていくのだろうと思って
「なあ、出ていくなら俺も連れて行って欲しい」
そう頼んでみる。そいつは首を傾げて
「出られないのか?」と尋ねた。
「どこにも出口がない」
「そうか。なら俺もしばらく出られないんだな」
と言う。なぜだ。入ってきたじゃないか。
「どうやって入ってきたんだ?」
「飛ばされた」
「飛ばされた?!」
この空間は一体なんなんだ。迷子が一旦休憩する場所か?
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‐Side 環‐
「アイビーちゃんをここへ」
アイビーちゃんとは。頭に疑問符が3個ぐらい表示された気分になる。
しばらくするととても外国人っぽい容姿の女性がやってきた。
「アイビーちゃん、しばらくここで話を聞いてくれるかの?」
アイビーちゃんは上品な仕草で首を少し傾けて「?」を伝えてきた。
老人が耳の後ろに手のひらを当てて「聞いておくだけじゃ」と伝えたら、小さくコクンと頷く。
動きが日本人に比べて遠慮がちに見える。
言葉が通じないのかな。
「話しても大丈夫かのう」
老人がほんのり不安を感じさせるようなニュアンスで独りごちた。
「なに。未来へ向かう若者に、後ろを振り返れと話すのは老人のおせっかいになるのか自信がなくての」
「そう・・ですか?」
「あ、そうじゃ。忘れておった!環ちゃんと呼んでもよいかの?わしのことはしょうちゃんと」
「環ちゃんと呼んでいただくのは構いません。しょうちゃんと呼ぶのは少し抵抗が」
「ふむ。んじゃ『しょうじい』とでも」
「あの・・苗字を教えてもらえませんか?」
「長いんじゃあ・・」少し遠くを見つめている。
「わたくしが?」
橘さんが問いかけた。頷く老人に頷きかえしてから
「松賀茂勒慈陽院恵環門唯です」
「しょうかぼう・・」
「無理じゃろう?」
「名前を呼んでいるときにその黒い子たちがぴょこぴょこしてましたね」
途中から覚えるのを諦め、それを見ていた。
「この名前が好きなんじゃろうの」
「・・しょうちゃんでお願いします」想像以上に長かった。
ニコニコと頷いてから、
「そうじゃ。文字がいくつか読めたと聞いたが、アイビーちゃんのの言葉はわかるかの?」
アイビーちゃんに向かって橘さんがジェスチャーしている。
「初めまして」
「初めまして」
「ほう、理解しあえるか」
「みたいです」
「よい先生が見つかったの」
「先生?」
「アイビーちゃんは重世界からの迷子なんじゃ」
「!!」
私以外に行き来ができる人がいた。
「アイビーちゃんは戻らないんじゃがのう、しばらくは」
戻れない?行き来ではなく来っぱなしということ?戻れないじゃなくて?
それは自分の意思で戻らないと決めているということ?
次から次へと疑問がわいてくる。
・・そういえばこの施設は世界が重なっていない。ここの標高が原因で重なっていないのか、見えないものから守る場所だから重なれないのか。元の世界から完全に切り離されたこの場所で、この人はこの世界で生きていくことを選んだのだろうか。
「帰りたい?」
なんとなく無意識にそう尋ねていた。もといた世界に帰らないと決めているのならば、無駄な質問だったかと瞬時に反省していると
「・・いいえ」という躊躇いも感じる答えが返ってきた。
「そうなんだ・・」
「私なりに思うことがあり、その答えが見つかるまでこのままがいいと思っています」
「そう・・」
「おそらく環ちゃんが連れて行くことはできるじゃろ」
「そうでしょうか?」
「じゃが、いきたくないと思う人間は狭間で消えてしまうかもしれん」
「あ!」
しまった。思い出したことで思考がそれた。
「えっと・・消えてしまうから危ない、と。はい理解しました」一度ちゃんと答えてから
「ふむ」返事を待って
「あの!話を切るようで申し訳ないのですが、骨!えっと・・ラーメン屋さんの前でバイト仲間の菊地くんに骨が巻き付いたように見えて」
「ふむ」
「それが危険なものかもわからず」
「外したよ」
「え?」
「今、外しておいた」
「え、え?」
「専門分野じゃからの」
「は、はい。ではもう心配ない・・?」
「それが消えた人間の概念じゃよ」
「概念?」
「死んだ人間、狭間に消えた人間、遥か彼方の人間、ありとあらゆる人間の意識は全て『在る』んじゃよ」
「?」
「何度も繰り返し生きて、何度も同じことを思うような人間は、自分で自分を縛り付けて動けなくなる。一度の激痛で二度とこんなことは味わいたくないと強く想う人間もいれば、何度痛みを味わってもそこからどう逃げればいいのかわからない人間もいる。痛みを甘露と思うような者もいる」
「・・はい」
なんとなくわかった。私はどちらなのだろう、それはわからないけれど。
「森羅万象、すべてのものに想いはあるし残る。そこからどう変わっていくのかを選べるんじゃがのう。選べない、選びたくない、そのままここにいたい、そういうものもいる。骨はそういうものを環ちゃんが『骨』と捉えたということじゃよ。消えるまでは何百年もかかることがあるからの」
ため息をつくのを不思議に感じて見つめてしまった。
「じゃがちとやっかいなものも混じっておった。もう大丈夫じゃ」
「ありがとうございます!」
すごい人なのだとはわかっていたけれど、こんな一瞬で。
「えっと、じゃあアイビーちゃんを連れて戻るのは無理だとして」
「環ちゃんのチョキチョキで、迷子になった者がもう一人おる」
「えっ!?」
「そっちを迎えに行ってくれんかの?」
週末は15時に予約しておきます。あと、公開済みのものを少し修正(誤字や抜け)しますので、更新が慌ただしい感じになるかもですが、新規は1日1話のみです。




