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あなたを探して~今日から重世界で生活します~君を探して  作者: ブリージー・ベル (旧・瑚希)


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45/60

45話 こことそこ、そして底。

やっとほぼ書き終えました。終盤少し手直しで遅れるかもしれませんが、できるだけ連続で出します。

□ □


‐side 玲央‐


荷物を全てリュックに入れ、まだ真っ暗にな内に起きたのでそのまま身支度をして食堂に行くと、シューバも来ていた。


「早いね」

「色々と気になってな」


そりゃそうだろうな。だけど、なるようにしかならないって俺はもう腹が据わった。


「俺にとって気になるのはシューバよりひなただけど」


「気にはなるが、自分のことで余裕がない」


「シューバでも余裕が無くなるのは人としてなんとなくホッとするよ」


「?」


「これには複雑な思いが絡んでてさ。完璧な人がいてほしいという憧れと、完璧でいられる人なんていないよなっていう同族への安心感が綯い交ぜになるわけ」


「完璧な人間でいたいという気持ちはあるが、いつ己を省みても自信なんてどこにも見当たらない」


「・・・深い」


「ふ。そうか」


「いやあ、コーヒー持たせて朝焼けバッグにCMでも撮りたいような台詞と風景だな」


ひなたが元気な声で現場の雰囲気ぶち壊してくるスポンサーだかプロデューサーみたいな登場してきた。


「お前は移動に不安ないの?」

「ある!ある!不安しかない!」

「口調が不安の向こう側にたどり着いてるぞ」

「ほらいるじゃん、不安だと落ち着かなくてうるさくなるタイプ、あれだよあれ」

「本当に俺、ひなたとおなじ?」


「あんまり似てないな」低くて痺れる声でシューバが答える。


「朝ごはんどうすんの?」

「俺、あんまり寝てないから腹減ってない」

「んじゃ途中でコンビニ寄っておにぎりでも持っていくか」

「あ、いいね」


そうだ、インスタントになるけど、お湯だけ注いで食べられるならラーメンだって持っていける。


「しょーちゃんは?」

「来ない」

「え、そうなの?」


「なんか色々見えてんだろ」

「へえ」


そこへアイビーちゃんもやってきた。シューバと挨拶して会話してる。やっぱ母国語で話せる安心感あるよな。あの巨大な街の日常が動き出す前に出発しないと。


□  □


‐Side アイビー‐


また移動を試すために夜明け前に移動車に乗り込んだ。

シューバ様が少し硬い顔をされているけれど、まさかこんな近くで顔を拝見する日が異世界で来るとは。


一応私も試すことになってはいるものの、移動できない気がする。

こちらで生きていくことになるかもしれないと思って以来、私の半身がこちらで足を踏ん張ったような、実体を持ったような感覚がある。


私は例えシューバ様と会えなくなったとしても、こちらで生きてみたいと心のどこかでほんの少し思い始めている。元々いた世界がまるで何百年も昔のような遠い過去のよう。私はそんな風に感じたことを言い訳にしているのか、本当はどうしたいのか今は全くわからなかった。


□  □


‐Side 玲央‐


前回と同じような時間、同じ交差点。

最初は1人、次は2人、今朝は4人で移動しようとしている。


「よし、じゃあひなた」


「お手々ぎゅーだねー」


「・・・」


恋人繋ぎはやめろよ。



「ではお手を」


さすが貴族、アイビーちゃんを優雅にエスコートし始めた。

誰もいない信号を何度も往復する。

たまに車がやってくるが、なんかの撮影だとでも思われるのかスピードを落として運転手がめっちゃ見ていく。


「おっかしいなー」

「ほんとにここ?」

「ここだよなあ?シューバ」

「ここだ」


「ずれたのかなあ?」


ひなたが立ち止まって空をみる。


「扉が・・移動?」


「どゆこと?」


「安定して重なってない」


「え、そうなの?」


「・・・アイビーちゃんかも」


「え?」


「アイビーちゃんを離してみよう」


「シューバ」


「あなたが原因だと言っている。少し離れていてもらうのは大丈夫だろうか」


「はい」


不安そうな表情にはなったものの、信号から離れて待機してもらう。


「どう?ひなた」


「まだ反発してる感じがある」


「アイビーちゃーん!もう少し下がって」


手振りで伝わったようで、橘さんと一緒にさらに遠くなる。もう100メートルは離れた。

プラスとプラスの磁石のように反発してるなら反発しているものを離せばどうにかなるということか?


「ダメだ・・」


「アイビーちゃん関係ないんじゃないか?」


「たとえば・・」シューバが言う。


「ん?」


「その繋いでいる手を離してみるとか」


「まあ離すのは賛成だけど」ひなたの手を離す。

「俺、めちゃくちゃ不安になったんだけど」珍しくひなたが後ろ向きなことを言った。


「んじゃ、俺の服でも掴んでれば?」

「そうする!」子供か。


「アイビーちゃん、戻ってきてもらってもいい?」

「そうだな。おーい!」


手振りで気づいて2人が戻ってくる間にも、交差点をウロウロ。前より時間かかってるな。


「扉みたいなもん、見える?」


ひなたを振り返った瞬間、シューバが消えるのを見た。


「あ」


急いでシューバがいたところに移動する。

その瞬間、景色が変わる。

前回からまた少しズレてはいるものの、見たことのある建物がある。


シューバは・・いた。

100メートルぐらい離れたところに立っている。

同じところからこちらに移動して、こんなに距離の違いが出るようになったのか。


「ひなた?」


てっきりちゃんとついてきてると思っていたのに、姿がなかった。


□  □


‐Side アイビー‐


次々に消えていった彼らのいた地点を目で覚える。

帰りたくないと思い始めているとはいえ、帰る努力はしなきゃいけない気がして、その地点へと移動して歩いてみる。

何度往復しても移動しないことにホッとして、橘さんを振り返る。


「帰りましょうか」


穏やかに微笑む彼女を見て、山に帰るのだと理解した。



□  □


‐Side 環‐


老人にしてはとても元気な手の振り方だなと思った。

人の顔を覚えるのは苦手で、声や雰囲気、持ち物などで覚えることが多い。どんな美人でも一瞬で忘れてしまうのに、声やほくろの位置を覚えていたりする。


その老人もどこか見覚えがあるなという感覚。

だけどすぐに思い出した。黒い何かがこちらへぴょこぴょことやってきたから。


目の前に立つ人をするりと抜けて、それが私を包んだ。

あっという間すぎて逃げようとも思えなかった。


思わず手で触る。温度は感じられない。感触は少しある。ぐにゃぐにゃしてるのになんだかサクサクした感触。


掴んでニギニギと触っていると、


「それにも触れるのですね」と、女性が呟いた。


「ああ・・あなたとあの人は仲間というか・・ご一緒なんですね」


と確認するように顔を見ると、女性が小さく頷いた。

黒い何かが私の手を掴んで引っ張る。


こっちへおいで


と。


それがとても優しいような気がして、つい一歩踏み出してしまう。

後は自分の意思よりも、体の感覚だけで進む。決して無理やりではない。

気がつくと老人が乗っている車まで来ていて


「良かったら重世界について話してみんかの」


と言われ、黒いものに促されるように車に乗り込んでしまった。


□ □


‐Side 玲央‐


「まあ、そんなこともあるかと思ったからさあ」


ひなたがどこに移動したのかわからないが、あちこちにメモを残しておくことにする。

リュックから取り出した100均の大きな落書き帳に黒いサインペンで


『ひなたへ』


『ここは俺たちが移動してきた地点。向こうに建物があるだろ?あそこに来れば対応してもらえるように頼んでおく』


シンプルだけど伝わるだろう。名前を書くのはやめようかと思ったけど、誰あてかわからないのも困るのか?と思い、ひなたの名前だけ書いた。

それを石を四隅において固定していると


「ひなたがいないのか」とシューバがやってきた。


「うん、これだと草に隠れて見えないかな?」


綺麗に芝生のような草が短く刈り込んである場所だけど、遠くから見えるような置き方ではない。


「後で目立つようにしておく」

「ありがとう。あとはあの建物にも貼らせて欲しい」

「わかった」


早朝だし、まだ誰も来ていないのかと思ったら、三兄弟がこっちに走ってくるのが見えた。


「おかえりなさーい!」

「ご無事で良かったー」

「お土産ー!」


うん。


「やっぱ1人すごいのがいるな」

「1番素直なんだ」

「なんかアホすぎて可愛い」

「わかる」


シューバと目を合わせて少し笑った。


□  □


‐Side 環‐


「どこに連れて行かれるんでしょう・・」


「わしの家じゃよ」


「その言い方で安心できる女性はいませんよ」キリッと指摘する女性に大きく頷く。


「世知辛いのう」老人が少し拗ねた声で言った。


「この国の見えない部分を守っている施設があります。そこへお連れしますが、話が終わればお送りしますし、山の上ではありますがそう遠くはありません」


「・・はい」


見えない治安・・それは私が見ている世界と同じ「見えないはず」のものを指すのだろうか。


「さて、まずはお嬢ちゃんから見えている状況を教えて欲しいんじゃが、その前に」


「?」


「見事じゃった!」


「はい?」


「蜘蛛の巣を破壊するとはのう。ふぉっふぉっ」


隣で女性が頷いている。


「壊してすみません」


あまり申し訳ないとも思ってはいないけれど、やらないほうがいいことだったかもしれないとは思うので謝る。


「あれに触れてくれるだけでもたどりつけるようにはしておいたが、まさか壊されるとは思わんかった」


「・・・」


怒られているわけではないのに、なぜか背中に汗が伝うようなひやりとしたものを感じる。


「あれは、壊せないものなんじゃ」


「・・え?」


「壊してはいけないものではなく、壊せないもの」


しっかりはっきりと壊せた気がするけれど、自動で修復できるとかそういう?


「お嬢ちゃんはそれを特別だと思うかの?」


試されている。とても試されている。そんな気がして慎重に答える。


「・・どんなことも、『特別』を求めないようにして、います」


「ほう」


「今、私が見ている世界は『特別』なのかもしれませんが、それを見ている私は『特別』なわけではない」


「なるほどのう」


老人が私の頭の少し上を見て黙っている。

その目はきっと、違うものを見ているのだろう。


「では、その特別ではないお嬢ちゃんの目から見た重世界を語ってくれるかのう」


「はい」



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