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第一章⑧ 賢者、お姫様を弟子にする

「さて、と……私はお暇するか」

「賢者殿、少しお待ちいただけるか」

「……何だ?」

「よろしければ、国民たちの前で我々が和解したことを示させていただけないか」


 話もまとまり、次の国へと旅立つために退室しようとしたクラウド。

 しかし、そんな彼を国王が止めた。

 和解を示したいと言っているが、目的はデモの鎮圧だろう。

 今も外ではシュプレヒコールが続いたままだ。


「そうだな。それも必要か。ハッコウ!」

「はい! 何でしょうか!?」

「お前の出番だぞ」

「えぇ……ボクですか……?」

「お前以外にいないだろう」


 そもそもの話、捕まっていたのはハッコウであり、民衆には賢者の弟子のほうを表に出していた。

 クラウドは賢者の弟子の弟子という設定だ。

 和解を示す場であれば、クラウドよりもハッコウのほうが相応しいだろう。


「師匠、めんどくさいだけじゃ……」

「違う!」


 嘘である。

 弟子の言う通り、この賢者、単にめんどくさいだけだ。

 それに加えて、下手に表に出たくないというのもあるが……。


「それではお弟子殿をお借りしよう」

「ちゃんと頭を下げろよ」


 この言い分にさすがに家臣たちが騒ぐが、国王は静かに制した。


「あと、私たちが民衆の味方であること、お前たちが悪かったこと、心を入れ替えて複製と配布に協力することをことさら強調して言うんだぞ」

「承知した。それでは、お弟子殿。こちらへ」

「え、ちょっと待って、ホントにボクなんですか?」


 頷くと、国王は戸惑うハッコウを連れて謁見の間に備え付けられているテラスへと向かっていく。

 まだ家臣たちは納得できないという顔をしていたが、悪いのは自分たちである。

 それに、賢者に逆らうほどの度胸もない。

 自分たちが仕える国王が頭を下げるという事態に、悔しさを噛み締めながら見続けるしかなかった。


 しばらくすると、外から大きなどよめきの声が聞こえてくる。

 おそらく、国王がハッコウに頭を下げたのだろう。

 デモーー国を糾弾してはいても、実際にその姿を見るとさすがに国民も動揺するようだな、などとクラウドは壁に手持ちぶさたに考える。

 ダイヤモンド王国民にとっては重大事だが、彼にとっては些末なことだ。


「あの……」

「ん?」

「あなたが賢者様?」


 次はどの国に行こうかと漫然と考えていたクラウドに声がかけられた。

 見ると、豪奢なドレスに身を包んだ少女がそこにいた。


 歳の頃はクラウドと同じくらいだろうか。もちろん、この体の年齢のことだ。

 背丈はほぼ同じか、少し小さいくらい。

 真ん丸な目と、人懐っこそうな笑顔が子供っぽさに拍車をかけている。


 さっきまでここにいなかったと思うが、少女が少し息を乱しているのに気づいて、走ってここに来たのだろうと察した。

 答えずにいると、あれ? と言わんばかりに首を傾げる。


「違うの?」

「確かに私が賢者だが……お前は?」


 尋ね返すと、あっ、と声を出して慌てて姿勢を正す。


「ごめんなさい。わたくしはアリス=リ=ダイヤモンド。この国の王女です」


 そう言って、少女はドレスの裾をつまみながら一礼した。

 王女ということは国王の娘だろうか?

 いや、国王はすでに五十を過ぎているはず。娘にしては歳が離れすぎている。


 そういえば、とクラウドは思い出す。

 このダイヤモンド王国では、王子・王女の子供もまた、王子や王女と名乗るのだ。

 目の前の少女も、おそらくは王子の娘だろう。


「あの! わたくし、賢者様のこと、お祖父様から聞いていて、すごいなって思っていましたの!」

「そうか……で?」

「で?」

「だからどうしたというのだ。まさか、そんなことを言いに来たのではないな」

「え?」

「…………」


 何を言われたのかわからないというように、キョトンとするお姫様。

 そのまさかだったとは。これにはさすがのクラウドも絶句してしまう。

 回りの家臣たちもおろおろしている。


 しかし、まぁ子供はそんなもんだな、とクラウドは思い直す。

 友でもない大人が何の用もなく会いに来たらうざったいだけだが、子供なら適当に相手をしてやろう。


「あ! そう! 賢者様が来てるって言われて、会ってみたくて!」

「ふむ」

「…………賢者様、思ったより小さいんだね」


 爆弾発言。

 謁見の間にいる誰もが息をのんだ。

 挙げ句の果てには、


「そんなにちっちゃいのに魔物倒せたんだ!」


 などと言ってくる始末だ。

 家臣たちはおろおろを通り越して、姫の命がなくなることを覚悟した。

 しかし、そんな彼らの想像は裏切られる。


「小さいのは当たり前だ。私は転生したのだからな」

「転生? って何?」

「私は一度死んで、生まれ変わったということだ。だから……そうだな、私は前は大人だったのだ」

「そうなの!? すごい!」


 意外や意外、クラウドは怒る様子もなく、姫の話に付き合っている。


「もしや……賢者殿はロリコンなのか?」

「おい聞こえてるぞ死にたいのか」


 家臣の一人がつぶやくと、すぐさまクラウドの炎魔法がその顔に放たれた。

 言うより先に魔法をぶつけないで……と倒れざまに言っていたが、無視する。


「ろりこんって何?」

「お前みたいな小さい子供に欲情ーー好きになる変態のことだ」

「じゃあみんなろりこんだ! だってみんな、わたくしのこと好きって言ってくれるもん!」

「ああそうだな、お前のお祖父様にでも教えてやれ」

「うん!」


 家臣たちがざわめくが、やはりこれも無視。

 そうこうしているうちに、国王とハッコウが戻ってきた。

 外からは「賢者の弟子、万歳!」などと叫び声が聞こえてくる。

 どうやらデモは鎮まったようだ。


「おや、アリス。来ていたのか」

「うん! お祖父様! 賢者様とお話してたの!」

「そうかそうか」

「賢者様すごいんだよ! 転生したんだって!」

「ほっほっほ……会えてよかったのぅ」

「それでね、大臣さんたちはロリコンなんだって!」


 ピシリ、と凍りつく室内。

 お前たち……と、国王が疑わしげに家臣たちを見回す。

 家臣たちは違いますと言わんばかりに首を横に振っていた。


「ところで賢者殿。孫娘の相手をしてくれたようで……」

「ふん。子供の相手をしてやるのも大人の役目だ」

「次の国にはいつ頃出立されるので?」

「そうだな……早いほうがいいだろうな」


 具体的にいつ魔王が襲来するかは掲示にはなかった。

 クラウドがあの神の掲示を受けてから十五年ほど経っている。

 もう明日にも現れるかもしれないし、八十年後かもしれない。

 この世界にある価値あるものーーそれを守るためには、すぐにでも次の魔導書のもとに向かうのがいい。


「えー、賢者様、もう行っちゃうのー?」


 国王の問いへのクラウドの答えに、アリスが不満げにこぼす。

 せっかく仲良くなったのに、とでも言いたそうな表情だ。

 クラウドは別に仲良くなったつもりはないが。


「全然お話できてないのに……」

「アリスや。賢者様はお忙しいのだ」

「もうちょっとお話したかったの……」

「賢者様ならすぐに使命を終えられ、戻ってくる。それまでアリスがいい子にしていたら、じぃじがお話をしてくれるよう頼んであげるからのぅ」

「……うん、わかった」


 わかったとは言うが、その表情はまったく納得していない様子だ。

 小さくとも彼女は一国の姫だ。

 生まれてからここまで、自分の感情よりも優先されることがあることを、子供ながらに思い知っていた。

 だから、納得してなくても頷く。頷くしかない。


 クラウドはそんな様子を見ていた。


「……ふむ」

「師匠? 何か変なこと考えてません?」

「いやぁ? 変なことなど何も考えていないぞぉ?」


 嘘だ、とハッコウは思った。

 またろくでもないことを言い出す。今のクラウドは、ハッコウがそんなことを確信するような顔をしていた。


「アリス」

「なぁに、賢者様?」

「いっしょに来るか?」

「えっ!」


 謁見の間が、今日何度目かわからないどよめきに包まれる。

 国王は驚きで口がふさがらず、ハッコウは「やっちゃったよ」と言わんばかりに顔を押さえる。

 やはりロリコンなんじゃ……と言った輩にはしっかり魔法を放っておく。


 そんなどよめきの中、最初に賢者に問いかけたのは、やはりというか国王だった。


「意図をお聞かせ願えるか?」

「何、ハッコウ以外にも弟子を取るのも悪くはないと思ってな。魔法の素質がある」

「本当!?」


 パァッと瞳を輝かせるアリス。

 その一方で、国王の顔は暗い。当然だ。


 弟子を取るというのは言うまでもなく方便。本音は弟子ではなく、人質だろう。

 いくら民衆の監視があっても、いくら今は逆らう気がなかったとしても、未来はどうなるかわからない。

 それこそ、クラウドの残した魔導書が写し間違いなどという理由で意図通りの効果が出なかったように。


 クラウドを裏切るような真似をすれば、王女がどうなるかわからない。

 そうやって、民衆の監視とは違う縛りをダイヤモンド王国に課そうと言うのだ。


「あと……そうだな、他国の統治者とスムーズに会うために王族が同行していたほうがいいだろう」


 もちろん、ダイヤモンド王国には王族は幅広い年代の者がいる。

 しかしそんな王族の中で、十歳ほどのアリスを同行者に選ぶのは、どう考えても適切ではない。

 幼く力の弱い少女という、人質にちょうどいいという理由以外は。


 国王はしばし、考慮する。

 そして答えは出た。最初から頷く以外の選択肢はなかった。

 だが、答える前に前にひとつだけ、国王は確認しておきたいことがあった。


「アリスはどうしたい?」

「わたくし?」

「うむ。賢者殿はお前を弟子にして、旅に連れていきたいと言っておる。旅についていけば、しばらくパパやママ、みんなと会えないが……それでも行きたいか?」

「えっ……」


 その返答次第では、アリス以外の人質を用意する。

 アリスは王族とはいえ、まだ十歳だ。

 まだまだ家族の温もりが必要だし、離れるのは難しいだろう。

 いくら自身の感情よりも優先するべきことがあるとは知っていても、易々と頷けるものではない。


 しかし、もし行くと言うのであればーー


「ねぇ、賢者様」

「何だ?」

「賢者様の弟子になれば、わたくしも強い魔法が使えるようになるの?」

「ああ、もちろんだ」

「じゃあ、なる! 賢者様の弟子!」


 力強く答えたアリスに、国王が思わず心配そうな表情を見せる。

 そんな、心配する祖父にアリスは力強い瞳で応える。


「お祖父様、わたくしね、魔法が使えるようになりたい! それで、お父様やお母様やお兄様……大臣さんたちや兵士さん、国民のみんなを守りたいの!」

「アリス……」


 子供であるが故の幼さが残る、だけど一途な想い。

 まだまだ子供だと思っていた孫娘がここまで成長していたと知り、国王の目頭が熱くなった。


「だからお願い、賢者様! わたくしを弟子にして!」


 ぺこり、と頭を下げるアリス。

 それにクラウドは、フッと笑って、


「私の指導は厳しいぞ。しかし、必ず強くなる。お前の好きなもの、全て守れる程度にはな!」

「うん! がんばる!」

「賢者殿……孫娘をどうかよろしく頼みますぞ」


 こうしてクラウドはダイヤモンド王国のアリス姫を弟子にして、次なる国に旅立つことになったのだった。






「ねぇ、師匠……ホントにロリコンとかじゃないんですよね?」

「お前この流れでよく聞けるな……」


ようやくヒロインの登場です。

ダイヤモンド王国編というか第1章はあと1話と閑話で終わりの予定です。


評価や感想、いただけたらありがたいです。

よろしくお願いします。

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