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第一章⑦ 魔力と魔物についてのアレコレ

「魔導書の写し間違いがあることはわかるが、どこにそれがあるか正確にわからないから六冊の原本が必要、か……」


 魔導書の不備について説明が終わった後、王は呻くようにつぶやいた。


「そういうこった。ひとまず、この国にあった原本は借りたぞ」

「……借りたというか奪ったというか」

「ハッコウ、後でお仕置きな」

「木の下の後でなら、受けますよ」


 唯一の弱みを握って調子に乗る弟子に、後でどんな仕返しをしてやろうかと考えながらクラウドは話を続ける。


「原本さえあればどこに写し間違いがあるかわかる。この国の分の写し間違いは全部把握して、ここに赤を入れてある。確認する時間はたっぷりあったからな」


 そう言って取り出したのは、過去にハッコウが複製した本のうちの一冊だ。

 クラウドはそれを国王に渡す。

 それを確認していたのは、もちろんデモの準備をしていた間だ。

 もっとも、準備をしていたのは主に弟子なのだが。


「私はこれから、他の国にも原本を借りに行く。その間に、これに入れた赤をもとに新しい複製用の原本を作って複製を始めておけ。滅びたくなければな」

「承知した」

「この国にあったのが、基本中の基本をまとめたものだったのは幸運だったな」

「……というと?」

「実際にやってみるまではわからんが、最初の一冊目だけでも正しい状態で読めば多少は魔法が強くなるはずだ」


 クラウドの言う通り、このダイヤモンド王国に保存されていた魔導書の原本は、魔法を使うための基本ーー魔力の扱い方についてがまとめられていた。

 自身の体内にある魔力を感じ取り、それを増幅させ、様々な現象を起こす力に変換して外に放つ。

 それこそが魔法だった。


 例えば魔力で周りの熱を奪い去って冷気を作る。

 例えば魔力で空気を燃やしやすくした上で火花を出して炎を作る。


 それらは魔力の扱いを効率よくすればよくするだけ強力な魔法になる。

 もっとも、そのあとの部分ーー様々な現象を起こす力にするのが弱いから、それがマシになったところで高が知れているが。


「それはどの程度かな?」

「そうだな……今だと普通の熊を倒すのにも数人必要なところが、一人でも倒せるくらいにはなる」


 おお、と家臣たちがざわめく。


「ただし、魔物には絶対に勝てん」


 ざわめきが落ち着く。


「理由を聞かせてもらっても?」

「簡単なことだ。魔物は熊よりもはるかに強い」


 魔力が宿っているのは何も人間だけではない。

 獣や、それこそ魔物にも宿っている。

 何しろ、人間を含む生物は魔力によって体を動かしているのだから。


「幸いなことに、魔物は魔法を使わない。だが、弱い魔物でもどんな獣よりも体が強力だ」


 人間が獣に勝てないのは、単純に獣のほうが力が強いからだ。

 獣の爪や牙の前には、武装していない人間など簡単に殺されてしまうだろう。

 そして、魔物はそんな獣よりもはるかに強い。


「熊は危険な獣だが、それでも生まれた直後なら簡単に殺せる。だが、魔物は違う。熊が何匹いたところで一体の魔物には勝てない。それだけの生物としての差がある」

「なんと……」


 国王が驚愕の声をあげる。

 魔物の生態は、謎に包まれている。また、魔物が出現すること自体も稀なため、国王が知らないのも無理はなかった。

 そう、どこで生きているのかさえもーー。


 魔物の存在自体は昔から確かな脅威として伝わっている。

 ふらりと現れたそれは退治しなければ損害を与えるものとして。

 そして、退治するには多くの犠牲を払うとも。

 それこそ、ひとつの国家の騎士団がまるごと全滅したという言い伝えさえある。


 しかし、これまでの歴史を振り返ってみても、魔物は単独で現れることが多かった。

 クラウドが撃退した魔物の軍勢ーーあんなものが現れたのは長い歴史の中でも初めてのことだった。

 何かが起きているのだ。

 今までの人類の歴史にない、何かがーー。


 それでも、人間は獣よりも弱い分、知恵がある。

 魔法ーー体内に宿る魔力を使って様々な現象を引き起こす術もそんな人類の英知の一つだ。

 獣よりもはるかに強い魔物を、獣よりも弱い人間が倒しうる可能性こそが、魔法だった。


「少々魔力の扱いが効率よくなったとしても、魔物には勝てんだろう」


 このダイヤモンド王国にあった原本を使えば、素質のない者でも手の平大の火の玉を出せるようになる。

 そして、今の状況でもそのサイズの炎を出せる者は、一回りか二回り大きい炎を出せるだろう。

 だが、そこまでだ。


 強い魔法を使うためには、魔力を効率よく扱えるようになるだけではダメだ。

 それは基礎中の基礎。

 そこからどう変換させていくかが最も重要であり、それが二冊目以降の魔導書にまとめられている。

 とはいえ、基礎をおろそかにしては応用もきかなくなるので、大切なのではあるが。


「私は一刻も早く六冊の魔導書の原本を集め、全ての正しい複製魔導書を作るようにする。あとはお前たち次第だ」


 滅びたくなければ、複製と配布も手際よくやるんだな、と含んだ言い方だった。

 魔王の襲来はいったいいつになるのかわからない。

 数年後かもしれないし、明日かもしれないのだ。

 まったく、神もそのあたりをしっかり教えておいてほしいものだ。

 わからないならわからないなりに、クラウドにできることをしておく。


「それと、もし魔物に出会ったらすぐに逃げろ。絶対に戦おうとするな」

「承知した」


 国王はそのクラウドの言葉を、今までの会話の流れから絶対に負けるためだと思った。

 実は、少しだけ理由が違う。

 もちろん絶対に負けるのは確かなので逃げの一手というのは正しい。

 ただ、クラウドが案じたのはそこではなかった。

 クラウドの考えが合っているのならばーー


「それでは、さっそく一冊目の複製と配布を始めよう」


 国王がそう言うと、家臣たちはバタバタと動き始める。

 賢者クラウドの第一歩は、何とか踏み出されたのだった。

申し訳程度のわかりやすい伏線。

ついでに、現時点でのこの世界での強さランキングを載せておきます。


クラウド≧魔王>ハッコウ>>(超えられない壁)>>クラウドとハッコウ以外の魔法使い≧魔物>獣>人間


本気出すとハッコウは割と強い設定です。

人間は現段階では魔法使っても使わなくても獣に負けます。

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