第81話 周到
俺はサリュード・ズレッタと対峙するために、魔力の鍛錬を黙々と続けていた。
そんなあるとき、『立入禁止』としていたにもかかわらず、執務室のドアがノックされる。
「アシェルさんに相談があるという方が来ています。どうされますか?」
誰かと思ったが、代弁者協会の受付係であった。
そっとドアを開ける。
「僕を指名という話ですか?わかりました。
おそらく、ゆかりがある人でしょうから、相談室に通してください」
理事になって以降、実務を行っていなかったが、自分を頼りにしてきた平民を無下に帰すわけにもいかない。
そんな気持ちもあり、話だけでも聞くことにした。
俺は執務室を出て、そのまま平民が待っている相談室に入る。
すると、そこには30歳くらいのきれいなロングの緑髪の女が座っていた。
見た限り、この人の記憶はなく、初対面であるように感じた。
「あの、僕のことをどうして知っているのでしょうか」
「あなたがアシェルさんですか!?はじめまして、私はユーケルです」
ユーケルはなぜかテンションが高く、目を輝かせ、俺の姿を上から下までくまなく見てくる。
「あの、どういう用件でしょうか」
「は、はい!あなたが王都で話題の食用油を考案されたと聞きまして。私も森に入っているのですが、面白いものがあり、アシェルさんに是非見てもらいたいんです」
何事かと思ったら、予想外の内容であった。
「ああ、代弁者の相談ではなく、僕個人にですか。これは驚いたな」
続けて、詳しい話を聞いてみる。
ユーケルの話では、南の森の奥に、香ばしい匂いのする変わった植物を偶然見つけ、もしかすると、これも新しい食材の発見ではないかと感じたそうだ。
だが、その植物をどのように活かせば食材にできるのかが分からず、ヒントを求めてやってきたらしい。
「平民の食糧事情は苦しいです。だから、開拓したほうが良いと思うんです」
「な、なるほど、それは確かに大事な話ですね」
ユーケルは俺を説得するように前のめりで話してくる。
正直、今は切羽詰まったときなので、そんなことに付き合っている暇はないとも考えた。
だが、理事という立場でありながら私事を優先するのもいかがなものかという思いもある。
それに、もしユーケルが言うように新しい食材の発見ならば、王都の食文化、平民の生活に貢献することができる。
思い詰めすぎている感も否めず、森に探索に出るくらいなら良い息抜きにもなってよいのではないか?
「わかりました。その場所に案内してもらえますか」
「喜んで!」
こうして、ユーケルが発見したという場所に案内してもらうことにした。
翌日、早速、ユーケルと待ち合わせをして、南の森に向かっていた。
もちろん、念のため、ニコル・アーステルドに渡されていた護身用の魔道具をポケットに忍ばせている。
なにぶん森まで距離もあるので、道中、ユーケルと雑談をしていた。
食糧全般についての知識、食用油とレストランフリーに卸し始めたきっかけなど。
だが、ユーケルは自分の素性についてはあまり口にしなかった。
「ユーケルさんってどこに住んでいるんですか」
「え?私ですか?最近、王都に来たばかりでまだ地名は覚えていません!」
なんだかはぐらかされている感じもする。
そんなユーケルに少し不審に感じることもあったが、なんかネアカのような人物。
何か詮索してはいけない事情もあるのかもしれない。
とにかく余計なことは考えず、目的の場所に到着することを目指した。
王都を出ると、南に広がった大きな森に入り、そのまままっすぐ奥に進んでいく。
浅い範囲であれば子供の頃、姉のカナディや友のユリウスと駆け回っており、ある程度土地勘があった。
けれども、歩けども、一向にユーケルの勢いは止まらなかった。
奥深くまで進むため、ある程度、目印となるものを目で追ってはいたが、ちゃんと帰れるのか流石に心配になってくる。
そして、森に入って既に3時間ほど経った頃だった。
「ユーケルさん、まだ着きませんか。さすがに暗くなるまでに戻れなくなりますよ」
「もう着きますよ!ほら、あの辺りです!」
俺がしびれを切らしてこう質問すると、タイミングがよかったのか、ようやく目的地に着いたようだ。
ユーケルは、人差し指でまっすぐ指した。
その指し示す方向に目を向けると、一際大きな木がそこに立っていた。
どうやらこれを目印に歩いてきたようだ。
「ではこの辺りを探索しましょう」
「はい。確か、黒っぽい木の実ということでしたね?はぐれないように、見える位置で探してみましょう」
「わかりました!」
目的地にたどり着くと、周辺をしばらく手分けして目的の植物を探した。
森のかなり奥ということもあり、豊富な種類の植物が自生している。
ここならば、確かに未知の植物があっても不思議ではなさそうだ。
俺は物珍しさにしばらく夢中になった。
だが、探しても探しても、ユーケルから説明を受けた特徴をもつ植物を発見できない。
「なかなか見つかりませんね?」
俺がふとそう口にして、周りを見渡す。
しかし、そこに先程までいたユーケルの姿がないことに気付いた。
「ユーケルさん?」
こうつぶやいた、そのときだった。
何やら付近から不穏な空気が流れてきたことに気付いた。
ーこれは⋯魔力反応?
全方向から3つ?
俺の後方からさらに強まった魔力反応を感じ取ると、突然、俺をめがけて攻撃魔法が飛んできていることを察知した。
ドスン!!
背中にそれが直撃したのを感じた。
感触からして土系統の魔法か?
咄嗟に自分の中で魔力を巡らせ、体に魔力障壁を張ったのでダメージはそこまでではない。
「そこにいるのは誰だ!出てこい!」
奇襲であったが、俺はなぜか冷静でいられた。
そして、忍ばせていた魔道具を右手に持ち、魔力を込めて臨戦態勢に入る。
すると、前方左右から1人ずつ、後方から1人、人影がこちらに近づいてくる。
「ちっ、奇襲は効かなかったか。まぁいい、3人で仕留めろ」
ーなんだコイツらは?
全員から強い魔力を感じる。
俺との距離は5メートルほどであり、森の中が薄暗いため、3人の顔まではよく見えない。
だが、魔力持ち3人に囲まれ、相当危険な状況であることは明白だった。
敵の動きに警戒しつつ、ユーケルの姿を目で探すが、どこにも見当たらない。
こうなったら、まずこの3人の急襲者を倒すことに集中する他ない。
だとすると、先手必勝だ!
まずは距離の離れた後だ。
俺は急激に魔力を込め、突如、振り返って後方にいた一人の敵に勢いよく距離を詰める。
そして、2メートルほどの距離から持っていた魔道具を切るように振った。
ビユン!
風の刃が男の腹部を捉える。
浅く裂いた。
「あああ」
男は痛みを感じたのか大きな声を出すが、手応えとしても致命傷には至らない感触。
その男は腹部を手で抑えながら、左回りで俺から距離をとっていく。
前方にいた2人の近くにまで一気に距離をとられてしまった。
「兄貴、あいつ魔法使えるなんて聞いていないぞ」
「ああ、やつは危険だ」
急襲者がひそひそと会話をすると、3人で等間隔で並び、3メートルほどの距離でにらみ合う。
次第に森に光が刺し始め、3人の顔も視認できるようになっていた。
だが、姿を見ても、俺には見覚えがない。
魔剣と思われる武器が1人、魔法杖が2人。
いつでも魔法で攻撃してきそうな構えだ。
そんな不利な状況もあり、隙を作るために言葉を投げかける。
「お前らは何が目的だ。金なんかもっていないぞ!」
しかし、3人は俺の呼びかけに反応しない。
そればかりか、魔力を高め続ける。
この瞬間、言葉ではどうにもならないことを悟った。
数的に不利だ。
真正面から戦うと、確実にやられてしまう。
だったら、逃げる他ない。
焦りながらもこの局面を乗り切れる手段を必死で考えていた。
「作戦1045だ。」
だが、そのとき、真ん中にいた男がそうつぶやく声が聞こえると、事態が動く。
次の瞬間、1メートルの間隔で布陣を組み、一斉に魔法攻撃を開始してきたのだ。
これに対し、予め準備していた魔法障壁を発動し、防御に徹する。
ドン、ドン!ドス!
鋭利な土の塊や電撃のような光、それに青い炎。
3者3様の攻撃が繰り広げられてくる。
魔法障壁でなんとか攻撃を防いでいるが、3方向からの攻撃には角度があるため、徐々に魔法障壁から漏れた攻撃が体を切り刻んでくる。
それでもなんとか魔法障壁が厚くなるように魔力をフル回転させる。
しかし、この3人との距離が詰まってきており、魔法攻撃の威力が高まってくる。
もう限界だ。
今にも破られそうだ。
バン!
真ん中の男からの力強い電撃が障壁にあたった瞬間、粉々になってしまった。
そして、次々と俺の体をめがけて魔法攻撃がくる。
1発、2発・・・。数え切れない回数。
最後に、頭に強い衝撃を受けたところで、俺は地面に倒れて完全に意識を失ってしまった。
終
魔法世界メモ81
魔法対決の肝は?
魔法は魔力量と技術、俊敏性の要素が大事になってくる。
魔力の発露が高ければ強い攻撃が可能となるが、魔力量を浪費し、魔力が枯渇すると魔法が使えなくなる。
魔力量は個人差が大きいため、打てる魔法の質、量は人により異なる。




