↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
73/87

第73話 代弁者全員集会

代弁者の多くは、通常業務の傍ら選挙活動に明け暮れ、多忙を極めた。

特に最後の2週間はあっという間だったように感じる。

そして、ついに選挙の日を迎えたのであった。


選挙前日まで、親プリビレッジ派の攻勢が続き、伝統派には悲壮感まで流れていた。

代弁者の中では、既にポリエスの新体制がどのようなものになるのか話題がでるくらいに。


この日の朝、代弁者協会に向かうべく支度をしていたところ、自宅に思わぬものが届いた。

姉のカナディから伝書鳥を手渡されたのだ。


 ―こんな大事なときに一体誰?


少し邪険に扱いながら伝言内容を聞いてみる。


「君にとって大事な日だね。

  だけど、おそらく僕にとっても大事な日になる。幸運を祈るよ」


第二王子のニコル・アーステルドの声であった。

この2ヶ月ほど顔を合わせていないが、代弁者協会の選挙をしっかり把握し、激励の言葉を送ってくれたのだった。


ニコルは平民の支持を材料に王位に就くという目論見があるようだが、利害は一致している。


「アシェル、今度はお客さんだよ」

「え?こんな忙しいときに?」


ニコルの伝言を聞いた後、再び俺の前にカナディが声をかけに来た。


「何?来ちゃだめだった?」


自宅の入口に目を向けると、恋人のマーガレットが立っていた。


「いや、そ、そんなことないよ!慌ただしくて・・・」


多忙を極めていたため、マーガレットと会うのも久しぶりであった。


マーガレットは俺に近づき両手を握ると、真剣な表情で言葉を告げた。


「あなたのことを信じているから。きっと大丈夫」


マーガレットはそれだけを言うと、笑顔を見せて手を振りながら、足早に去っていった。


マーガレットは代弁者協会の一大事を影で見守ってくれていたようだ。

これにはおもわずジーンとくるものがあった。


決戦を前に、大事な人達が俺のことを想い、言葉をくれた。

これで気持ちを引き締めることができた。


その後、自宅を出発し、代弁者協会にたどり着くと、いつもとは異なる重苦しい雰囲気を感じ取った。


今日ばかりは王国全土から代弁者が集合していることもあり、見慣れない顔も多く、緊張が走る。


「1時間だね。もう仕事が手につかないや」


パリシオンが俺の姿を見つけると、キョロキョロと声をかけてきた。


「パリシオン。ネフィスさんを信じよう」


大丈夫だ。きっとネフィスが勝ってくれる。

改めて自分に言い聞かせるように言葉を振り絞った。


そして、いよいよその時がやってきた。


「代弁者全員集会を始める」


現協会長のテレスの音頭で集会の開始が告げられた。


代弁者全員集会は選挙のみの開催であり、10年以上開催されることもないため、そのレア度が厳格な空気を生み出す。


会場は壇上に向かって、5列で席を作っており、キャリアの年数の順番で着席している。

そのため、俺は最後方に着席し、後ろから壇上を見つめていた。


テレスの演説が始まる。


「わしが協会長の任について15年。ずいぶん早かった」


テレスはまず、15年務めた協会長としての歩みについて語り出す。

テレスは改めて代弁者の役割の重要性を語る中で、自分の力不足、後悔していることに力点をおいた演説をする。


「先日の王の面前裁判。少しは職責を果たせたかのぅ。

  できれば次の協会長にはわしの意思を継ぎ、王国をよいものにしてほしい」


最後に、このように高らかに締めくくるのであった。


パチ、パチ、パチ。


会場の6、7割くらいの代弁者から、長年の功績と慰労の思いを込めて拍手が送られた。


そして、本題の選挙が始まる。

最初に立候補者の演説だ。


候補者のネフィスがまず壇上に上がる。

いつもとは異なり、緊張している様子だ。

ネフィスは少しだけ深呼吸をして、代弁者に向けてゆっくり語り出した。


「私が協会長になったら、テレス会長の意思を引き継ぎ、代弁者協会を大きく前に進めることを誓います」


冒頭でこう述べると、20分ほど自身の主張を繰り出した。

内容はこうだ。


300年続いたアーステルド王国は今、過渡期にある。

プリビレッジの特権が過去の歴史の中であまりにも大きくなりすぎた。

法ですら機能不全に陥った現状は変えなければならない。

さもなければ、500万人の平民の怒りが爆発してしまい、王国が崩壊しかねない。


「これからは法を正しく適用し、プリビレッジと戦っていく必要があります。

  私は若輩者ですが、皆さんの力を貸してほしい」


ネフィスは最後にこの言葉で締めくくり、演説を終えた。


続いて、もう一人の候補者のポリエスが壇上にあがった。

ポリエスは大きな咳払いをして、話を始めた。


「協会長になったら、平民とプリビレッジの融和を実現し、平民が暮らしやすい王国にすることを約束しよう」


ポリエスの演説の内容はこうだ。


代弁者は平民のためにも現実的な解決策を重視すべきだ。

魔力の存在で王国のインフラが回っているのも現状を軽視してはならず、プリビレッジという存在は一段上にあることを認め、融和を目指すことが大事だ。

伝統派はプリビレッジとの調整が下手であったため、問題を大きくした側面がある。

これから新しい代弁者像を作っていく。


「若造ではこの代弁者協会はまとめられん。わしこそが協会長に相応しい」


こうして結び、ポリエスの演説も終了した。


両者の演説はまさに正反対のものであった。


その後は、各代弁者から任意ではあったが、自由な演説、討論が行われた。


積極的に自身の考えや協会の問題点などが語られる。

自分の立場を一方的に主張する者、候補者に対して質疑を行う者、様々であった。


親プリビレッジ派の体制での変化を期待する声が多かったように思える。


だが、その中で印象に残っているのは、トルキシアの意見表明だった。

トルキシアは伝統派の中でも、テレスの後継者と目されていた人物であり、思うところがあったのだろう。


「プリビレッジに媚びるのは許せん。じゃが、ネフィスのような若造に先を越されるのも許せん。つまり、どっちも好かん。だが、腐れ縁のテレスに頭を下げられたからわしはネフィスに入れることにする」


正直な気持ちをそのまま述べているが、なかなかの暴論だった。

ただ、それでもトリキシアが代弁者としての精神を忘れていない点には感心する。


その後も、各人から自由な発言が2時間程度続いたが、若手からは特に意見を表明する者は出てこなかった。


「若手からは意見するものはおらんのか」


テレスは壇上に立とうとする者がいなくなったため、若手に向けてこう呼びかける。


そろそろ、頃合いか。


俺は、代弁者全員集会の最後に壇上に立ち、発言をするつもりでタイミングを窺っていたのだ。

なぜなら、そのタイミングが一番投票に影響を与えるからだ。


果たして有権者である代弁者の心を動かすことができるのか。

最後まで自問自答をする。

だが、それでもやり切るしかない。この劣勢をはねのけるためにも。


「協会長、私の方からよろしいでしょうか」


俺はすっと挙手をすると、秘策を打ち出すため、重い足取りで壇上に上がった。

終

魔法世界メモ73

代弁者全員集会の討論にルールはあるか?

過去の歴史では出来レースであったこともあり、明文化されていないため、特に討論にルールは存在しない。

ただ、現協会長が議長の役割とだけ決まっており、基本的にはその議長の裁量によるところが大きい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。