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第68話 一か八かの戦い

フーシーとの面談後、俺は理事のネフィスに、詳細を報告した。


「公証人の判断次第だが、遺骨を返せなんて請求は聞いたことがない」

「遺骨も遺族にとって財産的価値があります」


そもそも、公証場が遺骨の返還請求なんて申立を受理してくれるかは分からない。

あくまでも財産的な請求である必要がある。


「それに公証人とヌディオール・オステル氏との関係が深ければ厳しいだろう」

「ですが、それでも他に取れる手段はありません。

  フーシーさんのためにもやれることをやってあげたいんです」


前例のない内容での公証場への申立。

仮に申立が受理されたとしても、王城を動かすほどの証言を本人から得られるか疑問も残る。

まさに一か八かの手段だった。


「そういえば、フーシーさんはどこに居住しているんだ?」

「フーシーさんの自宅は⋯」


あの辺りはコーディアル地区のはずれだ。

となると、公証人は・・・


 ―アレン・ロレック!


「ネフィスさん、事情を伝えれば分かってもらえるかもしれません!」


アレンは少年の時に初めて言葉を交わし、この前の仲裁も公平に裁いてくれた。

法による支配を何よりも重視し、プリビレッジ至上主義の価値観とは少し離れた人物だ。


「分かった。任せよう」


ネフィスもアレンと昔から面識があり、その人となりを理解していたこともあって、この一か八かの申立を承諾した。


そして、翌日。

俺はフーシーとともに、公証場に向かった。


フーシーの無念の思いを考えると、門前払いされるわけにもいかない。

まずは第一関門の受付をなんとしてでも突破する。


公証場に入ると、早速、デイールの遺骨を引き渡すことを求める申立をしたい旨、受付に告げる。

すると、受付係の男は少し困惑した様子だった。


「前例がないですね。相手を召喚するかは公証人の判断になります」


この反応は当然だろう。

だが、俺は必死で食らいつく。


「遺族にとって大切な財産です。

  仮にあなたの御尊父の遺骨が他人に取られたらどう思いますか?」


俺は遺族にとっての遺骨の重要性、それが奪われることの精神的苦痛、そして、それは金銭的な評価に値することを延々と説明した。


「相手方を召喚するかは公証人の判断ですので、待合室で待ってください」


こうして、ひとまず待合室に通された。


相変わらず、白一色で殺風景な待合室。

最近は、待合室での1、2時間の待機もリラックスしていられていたが、今日ばかりは重苦しい。

少年の頃、初めて待合室で待機した記憶が蘇る。


覚悟をもって公証場に来ているフーシーはただ黙る。

彼女の決意になんとしても応えなければならないという重圧が俺に突き刺さる。


ちょうど3時間ほどが経った頃であった。

待合室に先ほどの受付係が現れる。


「申立ては認めるが、冒頭で経緯を尋ねるとのことでした」


俺はこの言葉を聞くと、少し胸を撫で下ろした。

だが、ここからが本番だ。


受付係の案内で法廷に進むと、既にヌディオール・オステルは召喚され、着席していた。

うつむき加減で、覇気はない。


そして、公証人のアレン・ロレックが法廷に姿を現す。


「神の庇護のもと、偽りを述べることなく、裁定に従います」


フーシー、ヌディオール両名が人定と宣誓を経ると、すぐに審理に入った。


「なぜヌディオール・オステル氏に遺骨を求めているですか」


早速、冒頭で申立ての趣旨について公証人から質問が入る。


「フーシーの息子デイールはヌディオールさんの元で奴隷として働いていましたが、約束の期限を過ぎても帰ってきませんでした」


 ―それに


「話を聞いたところ、デイールは病死したそうです。

  彼はその事実を遺族に隠していましたし、遺骨も返してくれていません」


 ―これでどうか


「ヌディオール・オッスル氏は遺骨を返却していない事実を認めますか」

「ああ」


ここで、ヌディオール側にも確認が入った。


「審理を続ける必要がありそうですね」


公証人はこちらの請求に一応の納得をしてくれたようで、続行となった。


「まずオステル氏から真相を話してもらえますか」


公証人に促されると、ヌディオールが証言を始める。


「死んだのは1年くらい前だ。原因は分からない。

  急に死んだ。これ以上は記憶もない」

「それが死の真相ですか。他には?」

「ない」


ヌディオールは血の宣誓をしているため、死因については病死と断言せず、意図的に避けているようだ。

ヌディオールの証言を聞いていた公証人アレンも少し呆れ気味だった。


「代弁者から質問をしてください。」


ここで一気に詰める他ない。


「あなたは以前、僕に『病死である』と話していませんでしたか」

「お前との会話など覚えていない。

  やつは苦しんで寝込んでいたが、死因までは正確に分からない」


ヌディオールはやはり核心をはぐらかす態度だ。


「デイールさんが苦しんでいるのになぜ救護をしなかったのでしょうか」

「そんな馬鹿な話があるか。奴隷に金をかける義務はない。

  寝かしてやっただけ良心的だ」


直接視界に入っていたわけではないが、真後ろからフーシーの殺気を感じた。


「では、デイールさんの遺体はどうされたのでしょうか」

「庭に埋めた」

「では遺骨はあなたの邸宅内にあるわけですね?」

「…ああ」


ここで間髪入れず、勝負をかける。


「あなたの元には2人の奴隷がいましたよね。

  その方たちもあなたの元で奴隷の間に消息がわからなくなっていますよね?」

「それはデイールの件とは関係ないだろ!」


ヌディオールは予想外の質問だったからか、声が少し裏返っていた。

そのとき、公証人が助け舟をだしてくる。


「公証人もその話にとても興味があります。答えてもらえますか」

「…確か死んだと思う」


公証人からの質問に対しては、無碍に扱い、心象を悪くできない。

ヌディオールはぼそっと答える。


この証言は俺の中で重要であった。

ここで一気に畳み掛ける。


「その二人の遺体はどうされたのでしょうか」

「庭に埋めて、丁重に葬っているよ!」

「デイールさんと同じ王に遺族に死亡の事実も伝えず、遺骨を渡していないですね?」

「奴隷なんだからそんな義務はない!」


最低限、ヌディオールから引き出したい証言を得ることができ、実は心のなかでホッとした。


「代弁者から他に何かありますか」


少し間ができたので、公証人が尋ねてくる。


「最後に一つだけ…」


フーシーの無念をこの場で代弁してあげなければならない。

そんな気持ちであった。


「亡くなった原因は、あなたにあるのではないですか。

  言い換えると、あなたが意図的に彼らを死なせたのではないですか」

「それはプリビレッジに対する重大な侮辱だ!」


最後に強い口調で確信に迫る質問をした。

だが、プリビレッジとしてのメンツを潰すものであったため、ヌディオールはこれに激怒する。


王令でも、平民がプリビレッジに無礼を働くことが固く禁じられている。

俺の発言はまさにスレスレ、いや、アウトかもしれない。


これには当然、公証人が割って入る。


「代弁者、そんな憶測でプリビレッジを責めるのはやめなさい。

  発言を撤回しますか」

「軽率な発言でした。撤回します」


俺は、公証人のアレンだからこそ、こういう対応をとってくれたことを理解し、促される形で最後の発言を撤回した。


「では後ほど、裁定を下す」


これにて審理は終わった。

しばらく法廷で待つ。

さすがに最後の発言が気に入らなかったのか、ヌディオールは怒り心頭の様子で俺に睨みをきかせている。


20分後、公証人が法廷に戻ってくると、次のような裁定が下された。


「ヌディオール・オステルは5日以内に、遺族に対し、遺骨を引き渡すこと」


フーシーの請求は無事に認められ、仲裁は終わった。

しかし、本当に大事なのはこれからだ。


今回、ヌディオールから得られた証言は、奴隷3人が原因不明で亡くなっている事実、そして、ヌディオールがその事実を遺族に隠し、遺骨を引き渡すなどの対応を行っていないことだ。


他の奴隷のパーソナリティーは分からない。

だが、労働力として当てにされている以上、全員デイール同様にまだ若かったはず。

その若い3人がすべて同じ場所で連続的に自然死するとは考えにくい。


仮に本当に自然死ということであれば、きちんと遺族に伝えるのが普通だ。

それがないのであれば、何か不都合な真実があると疑われても仕方がない。


もちろん、これは憶測であり、状況証拠に過ぎない。

だが、俺のやれることはすべてやった。


あとは代弁者協会、そして、王城の判断に委ねる他ない。

王国にも最低限の正義が通ることを強く望む。




魔法世界メモ68

公証場の受付係は?

公証場の受付係は、王国中枢養成学院を卒業し、統治省に進んだ平民が充てられる。

統治省と関連する機関という位置付けのためだ。

なので、公証場の受付の段階では横暴にあしらわれることはない。


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