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第63話 鳥の形のエンブレム

新人代弁者であるムラーキのチューターとなって二週間。

だが、相変わらずのやる気の無さで、本人に変化はみられなかった。

分かっていることだが、簡単に人の気持ちを変えることはできない。


この日は同期のパリシオンが代弁者協会と代弁者の活動について、ムラーキに講義を行うことになっていた。

たまには自分とは違う先輩に指導を受けるのもよいきっかけになるかもしれない。


仕事の傍ら、気になって部屋の外から様子を覗いてみたが、ムラーキの態度はいつもどおり。


ムラーキに講義をするパリシオンがいらだちを覚えているということがひしひしと伝わってくる。

あの温厚な彼でも、怒りの感情が表に出ることがあるのかと少し意外だった。

長い付き合いになるが、俺でも初めて見る姿だ。

それだけムラーキの態度が酷いということの裏付けでもある。


なかなか仕事に集中できなかったが、突然受付係が俺の執務室に入ってきた。


「先日相談した人が来ていますが、通してもよいですか」


ちょうどその時、パリシオンの講義が終わったので、パリシオンの怒りを冷ますべくムラーキを半ば強引に連れて相談者の元に向かった。


「講義うけたばっかっすよ。もう」


嫌そうな顔をするムラーキとともに相談室に入ると、ちょうど一週間前、子供がプリビレッジから暴行を受けたと相談をしていたジュカが待っていた。


「あれから何か分かりましたか」

「言われたとおりに息子とコーディアル地区に何度か足を運びました。

  その際、プリビレッジの加害少年の姿を見かけました」


ジュカに加害者の特徴を詳しく尋ねたところ、加害者は10代後半くらいで、中肉中背のメガネをかけた青髪短髪という容姿とのことだ。

特徴といえば、大きな鳥をモチーフにしたエンブレムがつけられたジャケットを着用していたことである。


「なるほど」


だいぶ情報が得られたようだ。


「平民の私では声をかけることは怖くてできませんでした」

「大きな情報ですよ。もらった情報を元に僕の方でも探してみますね。

  見つかったらその加害者と話してみます」


こうして、加害者が見つかり、何か進展があれば連絡をすると告げて、ジュカの住所を受付に残すようにいい、このままジュカを帰すことにした。


「そんなことできんのかよ」


ムラーキは相談を黙って見ていたが、ジュカの姿が見えなくなった際、独り言のようにつぶやいた。

ムラーキの態度は癪に障るところがあったが、早速一人で加害者の調査にでることにした。


実は、俺には犯人を探すあてがあった。

大きな鳥をモチーフにしたエンブレム。

それは4大派閥の一つトリキトス派を表すもの。


プリビレッジ派閥の正装には、エンブレムを付ける傾向があり、それが分かればいずれの派閥に属するか程度は判別がつく。


本当は、調査にムラーキを帯同させてやりたいという気持ちもあった。

だが、このコネは個人なものであり、信用があってこそなので、ムラーキを置いてきたというわけだ。


そして、俺はある邸宅を訪れていた。

王都でも有数の大豪邸だ。

ここはトリキトス派閥の本家。

そう、俺は学友であるエドワード・トリキトスのところを訪れていた。


「お前と王城以外で顔を合わすのは珍しいな」


エドワードは笑いながら、俺の訪問を歓迎してくれている。


「実は個人的な相談がありまして」


エドワードは俺から用件の内容を聞くと顔をしかめた。


「うちの派にそんな横暴なことをしている者がいるのか。

  それは由々しき事態だ」


俺はエドワードに加害者の特徴を話すと、既に目星があるようだ。


「わかった。そいつに確認を取り次第、代弁者協会に連絡を入れる」

「有難うございます」


こうして、加害者発見のための算段がついた。


プリビレッジの4大派閥の中で、トリキトス派閥は一番平民に優しい派閥である。

というよりも、他の派閥の傍若無人な振る舞いと、平民への差別意識の高さと比較すると、まだ自制がきくというのが正しい。


プリビレッジ至上主義の王国においては、決して平等でないことに変わりがない。

今後、どういう展開となるかは不明だ。


後日、俺は代弁者協会で業務をこなしていると、エドワードからの伝書鳥を受け取った。


伝言の内容は、暴行を働いた者が反省しており、2日後に代弁者協会を訪れて、被害者に直接謝罪したいという申し出であった。


おそらくはプリビレッジに非礼があったわけでないのに、暴行を働いた事実を重く見たのだろう。

今回は、トリキトス派閥が正しい指導をしてくれたようだ。


俺はジュカに謝罪の意向がある旨伝えるべく、ムラーキに使いを頼むことにした。


「ジュカさんに、2日後の15時に代弁者協会に来るように伝えてきて。

  例のプリビレッジと直接話をつけるからと」

「見つかったんすか!?

 だけど、さすがにプリビレッジと対面させたらかわいそうでしょ。

 罵詈雑言されるのがオチやないっすか」


ムラキーは「どうなっても知らない」という表情で、使いをしぶしぶ引き受けた。


そして、2日後、プリビレッジが代弁者協会に訪ねてくる日となった。

ジュカとヤーマンの母子は俺の呼び出しに応じ、既に協会に到着していた。


「そんなに緊張せず、この部屋にいてください。

  直接話をするのは僕ですから」

「は、はい。でもプリビレッジの人は怖いですので・・・」


ジュカは相当緊張し、ヤーマンも言葉数が少なかった。


30分後、約束通りにプリビレッジが代弁者協会に到着した。

そこで、ムラーキを引き連れて、受付のところまでプリビレッジを出迎える。


「僕は代弁者のアシェルです」

「俺はヘイル・ノーギアスだ。お前が噂のアシェルか。

  今回は手間をかけさせたな」


そして、ヘイルの隣にはしょんぼりした少年がいた。


「これが、息子のヘズルだ。早くこの馬鹿に詫びさせる機会を与えて欲しい」


早速、プリビレッジ親子をジュカらが待つ部屋に連れていくことにした。

そして、ある一室に入る。


いざ対面すると、プリビレッジのプレッシャーを感じているのか、ジュカもヤーマンもうつむき加減となっていた。


「この度は、ヘズルがそちらの息子さんに迷惑をかけたようで、すまなかった」


ヘイルは第一声で母子に頭を下げる。


「ほら、お前も謝らんか」

「はい、父上・・・。本当に悪かった」


ヘイルに促されて、息子のヘズルも頭を下げる。


ジュカとヤーマンは潔い詫びに対して面食らっている様子。

プリビレッジが平民に対し、頭を下げるということは基本的にないため、驚いたようだ。


少しの間沈黙となったため、俺が口を開く。


「あのジュカさん、ヤーマン君。この方たちは過ちを認め、謝罪しています。

  謝罪を受け入れますか」

「は、はい。謝ってくれたら十分です。ね、ヤーマン」

「うん。もう大丈夫」


二人の言葉を聞いて、ヘイルが続ける。


「かたじけない。私からは息子に相応の教育的制裁を加えた。

  二度とこのような横暴はさせないと約束する」


ヘイルは謝罪の受け入れに謝意を示し、そして、詫びとして封筒をそっと手渡した。

だが、ジュカは封筒を受け取ることに躊躇する。


「ジュカさん、受け取ってあげてください。そして、気持ちよく水に流してください」

「は、はい」


俺はそんなジュカに受け取るように促した。


こうして、短い時間であったが、謝罪の時間が終了し、今回は一件落着となった。


ジュカとヤーマンは俺に対し、深々とお辞儀をすると帰っていった。


俺はそんな二人を見送ると、代弁者として良い仕事ができたことにほっとした。

だが、そんな俺の満足とは裏腹に、1名釈然としない表情を浮かべている者がいた。


「なぜこんなことができる?あんた何をしたんだ?」


ムラーキが強い口調で問い詰めてくる。


「プリビレッジと言っても一括りに語ることはできない。

 平民だってそうだよね?」


俺はムラーキの目を見て、諭すように語った。


「意味がわからない。プリビレッジが頭を下げるなんてありえねー」

だが、ムラーキはどうしても納得しない。


「それより言葉遣いは直したほうが良いよ」


ムラーキからでてきた言葉は失礼なものばかりであったため、少しだけ先輩の威厳を示すため、強い口調で叱責した。


今回の件ではムラーキの気持ちを変えることはできなかったが、これからも積み重ねていく他ないだろう。


魔法世界メモ63

プリビレッジ4派閥のエンブレムは?

トリキトス派閥は鳥のかたどったエンブレムであるが、他の派閥も特徴的なエンブレムだ。

シュタインファルト派閥は、武を謳っているだけあって、4本の剣を重ねるエンブレム。

ズレッタ派閥は、黄金色の山を描いたようなエンブレム。

ハーモス派閥は、海に浮かぶ船を描いたエンブレムだ。

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