第60話 家族の話
魔女サリュル・レーガンとの一戦から1週間が経過していた。
俺はこの戦いで大怪我を負ってしまったので、今も療養中であり、代弁者協会には行っていない。
この日、ニコル・アーステルドから伝書鳥で呼び出しを受けていた。
用件は事件の顛末とおそらくマーガレットの一件についてだと思う。
俺としても、今回の事件でニコルに言いたいことはそれなりにある。
王城の第二王子公邸に到着し、早速、指定された部屋に入る。
すると、そこには学友であるフューゲルの姿があった。
「よぉ、アシェル」
意外な男の姿に一瞬驚いたが、魔女の事件ではフューゲルも張本人だ。
確かに、呼び出しを受けていてもおかしくはない。
ただ、俺の目に映るフューゲルはボロボロでなんとも痛々しい姿であった。
至るところに包帯を巻いており、松葉杖も必要だ。
ポーションを使えないため、全然回復していない。
ここは公邸ということもあり、フューゲルと言葉を交わさずにいたところ、ニコルが入室してきた。
「二人とも、怪我の具合はどうだい?」
「お陰様で大丈夫です」
ニコルは相変わらずのニコニコ顔で登場だ。
「フューゲルがここにいるのはどうしてですか?」
「彼の行動は問題だったが、結果として彼のおかげで君を助けることができた。
褒美をあげようと思って」
ニコルの表情は一見優しいが、その裏に怖さのようなものが隠れているように感じる。
「ところで、サリュル・レーガンという魔女のことは何か分かりましたか?」
「いーや。魔法省にも情報共有して、調べさせているけどね」
王城も事件の核心は何も掴めてないらしい。
「あの魔女が7年前の連続殺人事件の犯人でもあり、フューゲルの仇という点は言質をとっています」
「そうだね」
ニコルは既知であったが、事件以降、絶対安静だったフューゲルはそのことをまだ知らなかったため、拳を握りしめた。
「この一週間であの邸宅と隠れ家を調べさせたけど、魔女は何にやら未知の魔法を研究しているような痕跡があったそうだ」
口調自体は穏やかであったが、ニコルの目が険しくなった。
魔女の末裔の意味、そして恐ろしい真の目的。
少なくともまだ全容は明らかでない。
「ところで、国王近衛隊はあのとき、なぜ居場所が分かったのですか」
あの絶望的な状況で突然現れた国王近衛隊。
だが、なぜあんなに早く隠れ家に臨場できたのか疑問だった。
「魔道具だよ。君の魔力反応を拾えるようにしておいた。
だから、君の魔力の反応を辿ってこれたんだ。一応保険でね」
正直、国王近衛隊は魔女の存在を認識し、あえてギリギリに来たのかと要らぬ詮索もしていたが、さすがにそれはないようだ。
「ところでフリーラの話は聞いたのかい?」
「マーガレットの非礼は謝罪します」
ここで話題がマーガレットがフリーラと面談した件に移る。
「別にいいよ。さすがに今回は君に無茶ぶりしすぎたから」
「はぁ」
本当は文句を言いたいところであったが、フューゲルの痛々しい姿とマーガレットの非礼を思い出し、とてもそんなノリではいられなかった。
「正直、フリーラのことは気になっていました。
それにフリーラの一族は捕まっていないんですよね?」
「結局、あれから2年経つというのに、ガイアレット一族の消息不明だね。
今回の魔女の件といい、王国内で何かが動き始めている気もする」
王国中枢学院で起きたガイアレット一族の企てから2年も経つ。
だが、国王近衛隊、王国騎士団が必死の捜査を続けているが、全く消息を追えていないというのも不気味だ。
それに時期等は異なるが、今回の魔女の事件と王国に対する恨みを晴らすという点は共通している点も気になる。
「さて、褒美を何か与えようと思うけど、何か望むものはある?」
しばらく事件についての話をしていると、ニコルから改めて提案があった。
そして、フューゲルがこれに間髪入れずに、ニコルに告げた。
「殿下。俺はあの魔女の首を取ることを望みます。
親の仇だから。それを俺の褒美にしてください」
フューゲルの鬼気迫る表情に、少しニコルも戸惑いを感じているようだ。
「平民の君に勝てるのかい?相当の魔力使いだよ」
「それでも。必ず修行して強くなってみせる、みせます」
フューゲルの気持ちは痛いほど分かる。
あの時、目前に親の仇がいたのに何もできなかったという屈辱。
想像できないほどの悔しさだっただろう。
「僕もフューゲルを助けます。彼に仇をとらせてあげてください」
学友のフューゲルの悲願に力を貸さないなんて男ではない。
俺もニコルに懇願した。
「二人の気持ちは分かったよ。だけど、君たちが強くなることが条件だ。
無駄に死なせるわけにはいかない」
フューゲルはニコルの言葉を聞くと、恐怖心や憎しみなどが入り交ざった感情があったのだろう。
フューゲルは小刻みに震えながらも、目だけは強く前を見据えていた。
こうして、ニコルとの謁見も終わり、王城からそのまま帰宅することにした。
帰宅すると、姉のカナディがすぐさま声をかけてきた。
「ちょっといい?」
カナディは3つ上の姉であり、早いもので19歳になっていた。
カナディの真剣な表情を見ると、ただならぬ相談がきそうだとすぐに察知した。
そこで、立ち話ではなんだからということで、部屋で話を聞くことにした。
「私も世間的に結婚をしなくてはならない年齢なの」
あまりカナディが俺のそばからいなくなることを想像したくはないが、カナディの言うことも事実だ。
「誰かいい人できたの?」
「そうじゃない、いや、そうかもしれないんだけど・・・。
なんていうか。言い寄られている人がいるの!」
カナディは頬を赤らめている。
覚悟はしていたが、やはりこの時がきてしまった。
弟の俺がいうのもどうかと思うが、カナディは小動物みたいでかわいいし、モテていても不思議ではない。
問題はどこの馬の骨かということだ。
「言い寄ってきているのはどこの誰?
簡単にはカナディをあげられないからね!」
嫉妬のような心境なのか、少し意地悪な言葉を出してしまう。
「お、お店の常連さんよ。プリビレッジのね・・・」
「プリビレッジ!?平民のカナディを!?」
改めてカナディに詳しく聞くと、どうやら、レストランフリーの常連客から言い寄られているらしい。
それも、木材問屋を経営する商業系プリビレッジの長男で、年齢が1つ上のジャック・エルズという男だそうだ。
1年ほど前から、カナディに言い寄り、真剣な求婚をしているそうである。
人柄も誠実だったため、カナディもまんざらではないらしい。
だが、一つ気になるのは、相手がプリビレッジの子息であること、そして、エルズ家がハーモス派閥に属するということだ。
これまでズレッタ派閥とハーモス派閥のプリビレッジでろくな人間と出くわしたことがない。
本当に心配である。
それに、平民がプリビレッジと結婚するという例はほとんどない。
プリビレッジの跡取りとなる子供が魔力を持たないリスクを避けるためだ。
せいぜい、プリビレッジの男が平民の女を囲う場合は、妾というのが相場に決まっている。
プリビレッジの妾というものがどういうものかよく知っている。
マーガレットの母マーリアスがそうだ。
ずいぶん母娘に対してひどい扱いをする。
「僕はその人との結婚には反対かな。カナディを妾にしようとしているのだと思う」
「そんな人じゃないの!一度会ってくれたら分かるって!」
俺が否定的な意見を述べると、カナディは力強い目線で俺に迫ってくる。
どうやらカナディ自身もその気があるようだ。
そうなると、縁談話を阻止するにしても、ちゃんと自分の目でみて確かめる必要がありそうだ。
「分かったよ。一度会ってみるよ。僕がこの目で確かめてみるよ」
こうして、俺は後日、カナディの相手となるプリビレッジと会うことになった。
カナディを不幸にしてはならない。
なんとしてもボロをみつけなければならない。
終
魔法世界メモ60
王国の未婚率は?
神ソディーネに従い、男女の貞操に厳しい価値観を持つが、婚姻と出産は王国民の義務と謳われている。
そのため、18歳から22歳までの間に婚姻しなければならないというプレッシャーが働く。
未婚率は5%とされているが、これにはプリビレッジの妾も含んでいるため、本当の意味で生涯独身でいる者は数少ない。




