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第59話 戻るべき場所

マーガレットは王城からの帰り道、フリーラの不憫な姿と彼女から発せられた一言一句が脳裏に焼き付いて離れず、とても処理しきれない感情であった。


「あーもう!これからどうすればいいの!?」


誰もいない道の真ん中で心の声が外に漏れてしまう。


こんなとき、一人でいるのはつらい。

誰かにそばにいてほしい。


そう考えることはごく自然であった。

マーガレットは先日、アシェルが重症を負ったと聞き会ったばかりであったが、アシェルの家に無意識に向かっていた。


マーガレットがアシェルの家に到着すると、「今日は二人きりで話したい」と懇願し、まだ傷の癒えないアシェルを無理やり外に連れ出した。


「体の状態は大丈夫?」

「うん。ニコルから魔力持ちに効くっていうポーションというものをもらったんだ」


アシェルは魔女サリュルとの交戦で大きな怪我を負っていたが、自身に魔力があるため、魔力を利用した免疫力・回復力向上による治療が可能であった。

そのため、本人も驚くほどに順調なペースで回復していた。


マーガレットはそんなアシェルの様子に安堵し、空を見上げて言葉を続ける。

一面には無数の星が輝いていた。


「ところで、私、今日フリーラと会ってきたんだ」

「どういうこと!?」


アシェルは、マーガレットが普通の雰囲気でないことを察していたが、その理由がフリーラにあるとは想像しておらず、思わず仰天した。


「フリーラ元気だった?」

「うん・・・。厳しい環境の中で必死で生きてくれていたわ」


アシェルは第二王子のニコル・アーステルドと強いパイプがあるため、フリーラの様子を聞こうと思えば聞くことができたが、フリーラの罪状がその張本人の殺害未遂を含んでいるため、話題にすることが難しかった。

そのため、フリーラの状況を気になりながらも知ることができていなかった。


その後、マーガレットはフリーラとの秘密にすると約束したことを除き、フリーラとの会話の内容を話した。


「ねぇ、アシェルはどうやって魔力に目覚めたの?」

「急にどうしたの?自分でも正直わからないんだ。

   幼少のころから魔法に興味を持っていたのはあるけど」


マーガレットの唐突な問いに、アシェルは少し困惑していた。


「ふーん。平民でも魔力のある人はいると思う?」

「分からない。僕のケースが特別だったのかもしれないし」


プリビレッジのみが魔力を独占し、特権を享受することが前提の世界で平民のアシェルが魔力を持つ事実。

これはタブーであり、ごく一部の者しか知られていない。

だが、その真実がどこにあるのか、アシェルはずっと気になっていた。


二人は会話をしばらく続けていたが、マーガレットは時折黙り込む様子。

アシェルはマーガレットが何かを言い出せずにいることを察した。


「僕は君のすべてを受け止めるから、何でも話しても大丈夫だよ」


アシェルはそんなマーガレットに対して、助け舟のつもりで、優しくこう言葉をかけた。

すると、マーガレットはそれを聞いて、決心がついたのか、思い切って話を切り出した。


「私達いつ結婚するんだっけ?」

「え?どうしたのいきなり!?」


しかし、それはアシェルの想像の斜め上のものだった。


「3年も交際しているわけだし。それとも私と遊びで付き合っているの?」

「そんなことないよ。姉のカナディがまだ結婚していないから順番もあるから!」

「もう!」


あまりにも想像外の内容であったため、アシェルは思わず慌てふためいてしまった。


王国での暗黙の常識。

それは年長者が先に婚姻をすること。

封建的な価値観があるのだ。


マーガレットはアシェルが即答したため、一瞬むっという表情をしたが、少し時間が経ち、いつもの様子に戻っていた。


マーガレットも内心では、フリーラからの突発的な暴露で少し唐突だったと反省していた。


この日以降、マーガレットは少し変わった。

勤務先の国王近衛隊での仕事にも以前よりやる気をだしている。

まるで、何か目的を見つけたという印象だった。


アシェルの目からみても、フリーラとの面会がきっかけだというのが明らかであった。

だが、女同士の絆もあるので、アシェルからあえて口を挟むことはなかった。



マーガレットの仕事は国王近衛隊でプリビレッジのアシスタント業務が中心だ。

主にデスクワークである。


だが、上司のプリビレッジに率先して新しい仕事を求めており、その姿勢は上司からの評判も上々だそうだ。


先日もマーガレットはアシェルに対し、こんな話をしていた。


「この前、王城でシュタインファルト派の人から声をかけられたの」


マーガレットの話ではいわゆるナンパをされたようだった。


「その人が、次期国王はニコル殿下でなくエレン殿下っていうの。

  ニコル殿下、大丈夫だよね?」


王国では水面下であるが、第一王子のエレン・アーステルドと第二王子のニコル・アーステルドのどちらが次期国王になるか、少しずつ熱が入りだしていた。


マーガレットは王位継承争いに対しても、率先して情報を集めているようだ。

政治にも興味を持つようになったらしい。


平民の身分では、通常、王位継承争いについて情報を得ることは難しい。

だが、王城内で働く平民であれば少しは情報に近づくことができる。


マーガレットの話では、第一王子エレン・アーステルドの後見役のシュタインファルト派閥と、第二王子ニコル・アーステルドの後見役トリキトス派閥が水面下で動いているとのことだ。

そして、両者の派閥は均衡しているものの、宰相という役職をシュタインファルト派閥から出している分、第一王子派が優勢と囁かれているそうだ。


もちろん、プリビレッジには王城外の商業系派閥であるズレッタ派閥とハーモス派閥の動きも影響する。


ニコル・アーステルドから切り札に位置付けられているアシェルと、政治に興味を持ち始めたマーガレット。

そんな二人が王位継承戦に大きく関わることになるとは、当の本人たちもこの時は知る由もなかった。



魔法世界メモ59

ポーションとは?

魔力には自己強化する力があり、ポーションは魔力持ちにその力を注ぎ、結果として体の回復を促す薬である。

病気のような体の内部的な症状は難しいが、外傷であれば有効とされる。ただし、魔力持ちでない平民がポーションを飲むと、魔力アレルギーで死に至る可能性が高い。


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