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第58話 地下通路の約束

魔女サリュルとの戦いから3日経ったころ、ある人物が鬼の形相で王城、第二王子公邸を訪れていた。


「殿下、あんまりです。殺されたらどうしてくれるんですか!」

「まぁまぁ、彼は生きて帰ってきたんだし」


物凄い剣幕で第二王子のニコル・アーステルドに迫っていたのは、アシェルの恋人であるマーガレットであった。


「一般の平民におとりをさせるなんて酷すぎます!」


マーガレットは王国中枢養成卒業後、国王近衛隊に所属しているため、王城に出入りができる。

そのため、勤務の傍ら、ニコルの公邸に強引に訪れていたのだ。


「おい、それくらいにしておけ。無礼だぞ」

「分かっていますが、こればかりは譲れません」


ニコルのそばにいた側近のエドワード・トリキトスがマーガレットを制止する。


エドワードは4大プリビレッジの1つトリキトス家の長男であり、父は王国近衛隊隊長でもあるフリオ・トリキトスだ。

国王近衛隊に所属するマーガレットにとっては、同年代ではあるものの、エドワードは上官にあたり、頭が上がらない存在であった。


魔女サリュルの件については、ニコルも反省をしていた。


並のプリビレッジによる快楽殺人事件と考えていたが、予想だにしないほど闇深い事件であり、戦闘経験の少ないアシェルをおとりに使ったことは失敗であったと考えていた。

そのため、アシュルにも、もちろん、マーガレットにも申し訳ないという気持ちを持っていた。


「お詫びに君の願いを1つ叶えてあげよう。それでどうだい?」

「じゃあ、アシェルにもう無茶な仕事を与えないでください」


マーガレットはニコルの提案を聞くと、こう即答した。


「それは無理だよ。彼には王国のために色々と動いてもらわないといけないし」


ニコルは少し困った表情で、マーガレットをなんとか宥めようと試みる。

ニコルは、来たる王位継承戦に向けて平民でありながら優秀なアシェルの力を切り札として存分に利用しようと考えていた。

だからこそ、聞けない願いであった。


「他の願いを考えてみてよ。アシェル以外なら何でもいいからさ」


マーガレットは不満だったが、アシェルもこの王子の力を使って王国を変えたいという考えであることを知っていたため、しぶしぶこの願いを取り下げた。


そして、熟考した後、ある一つの願いを申し出た。

それはある人物との面談であった。


「良かったんですか?あんな願いを承諾して」


マーガレットが公邸を去ると、エドワードが少し苦々しい表情でニコルに声を掛ける。


「彼女を無碍に扱うと、アシェルの信頼にも影響しそうだし。それに彼女は平民だけど、一応4大プリビレッジのズレッタ卿の娘なので特別扱いしておいても良いと思うよ」

「殿下がそうおっしゃるなら・・・」


結局、マーガレットの抗議は彼女の願いを1つ叶えることで収まったのであった。


マーガレットは、公邸を出ると、その足で国王近衛隊の担当守衛に案内を受け、王城の地下通路を歩いていた。

この場所はごく一部の関係者しか訪れることのできない場所である。


マーガレットは地下通路の静けさに不気味さを感じ、ただならぬ雰囲気に緊張を感じていた。


 ーまさかこんな急展開になるなんて自分でも思わなかったわ

  でも、この機会を逃したらきっと後悔する


マーガレットは、自分に言い聞かせて、改めて決意を胸に地下通路の先を進んだ。


「ここだ。30分だけ面会を許す」


担当守衛は立ち止まると、マーガレットに一つの独房の中に入るように促してきた。


担当守衛の指ししめたのは、頑丈な扉で固く閉じられている独房であった。


マーガレットは、言われた通り、恐る恐る鍵が開けられた扉に手で触れる。

そして、ゆっくりと重い扉が開いていく。


そこでマーガレットの目に映ったのはやつれきった女子が1人地べたに座っている姿だった。


「フリーラ・・・!」

「マーガレット・・・?」


二人は次の瞬間、互いの存在をはっきりと認識する。

そして、間髪入れず、マーガレットは駆け寄り、抱き合った。


「フリーラ、会いたかった。ずっと会いたかった」

「うん・・・うん・・・」


およそ2年ぶりの再会に泣き崩れた。


マーガレットの願いは重罪人であるフリーラとの面会であった。


フリーラはウィル・ハーモスらプリビレッジ暗殺事件、ニコル王子暗殺未遂事件の犯人として、王国の最重要罪人として投獄されていた。


マーガレットが国王近衛隊を選んだ理由はフリーラとの再会のため。

こんな早くにこんな形で叶うとは夢にも思っていなかった。


マーガレットは、感傷に浸った後、面会には時間の制約があることを思い出し、少しでもフリーラの話を聞きたいという一心から話を切り出した。


「事件のことは聞いたわ。フリーラは王族だったんだね」

「ええ、そうよ」

「どうしてあんなことをしたの?」


マーガレットの重い問いに対し、フリーラは一瞬言葉に詰まる。

それでも、こんな牢獄までやってきてくれた親友に嘘はつけない。

フリーラはその思いで、重い口を開く。


「魔法大戦争から300年経って、虐殺にあった末裔が今でも酷い迫害を受けたままというのが許せなかったの」

「フリーラがそんなことをしても・・・」


マーガレットは事件の真相についてフリーラの口から直接確認を取りたかった。

あのフリーラが本当に犯人なのか今でも信じられなかったためである。

だが、分かっていたが、真実そのものであった。


「もちろん、葛藤したわ」

「うん・・・」


マーガレットはフリーラが後悔の念に苦しんでいることをはっきりと理解した。


マーガレットはもう一つ聞きたいことがあった。

それはフリーラが自分のことをどう思っていたのかということである。


「私がプリビレッジの娘であることを相談していたけど・・・。

  私のことはどう思っていた?」


フリーラのターゲットは魔法大戦争で虐殺を行ったプリビレッジと王族であった。

それならば、プリビレッジの娘である自分のことを本当はどう思っていたのか。


「あなたはただの平民よ。それに大切なお友達だから」


マーガレットはその言葉を聞いて少しホッとしていた。


マーガレット自身はフリーラのことを一番大切なな友人だと思ってる。

だからこそ、この言葉を聞くことができて、この2年間心にひかかっていたものが取れた感覚があった。


だが、それともう一つフリーラに確認したいことがある。


「ねぇ、フリーラ、アシェルのことは恨んでいる?」


それはアシェルがフリーラを牢獄に送った張本人である点である。


フリーラは少しだけ沈黙をし、何か思いふける表情を見せたが、言葉を噛みしめるように答えた。


「うんん。それはないかな。あのとき、私は一族に指示されるまま人を殺していたの。

  だから、本当は誰かにとめてほしい気持ちもあったわ」

「そう・・・」


マーガレットはこの言葉を聞いて、少しだけ安堵した。


重い話が続いたが、マーガレットは残された短い時間、フリーラに学院の仲間の近況について話をした。

フリーラはすごく懐かしそうに話を聞いていた。


だが、30分という面会時間は無情なほど短いものであった。

二人は、あっという間に終わりを迎えようとしていることを意識し始めていた。


すると、フリーラの表情が急に変わり、真剣な眼差しでマーガレットを見つめた。

そして、何やら大事な話を切り出してきた。


「マーガレット・・・。一つだけお願いがあるの。

  できるだけ早くアシェルと結婚して国王近衛隊をやめてほしい」

「え、どうして?」


こう話すフリーラは、迷いを打ち消すことができていないように見えた。

だが、それでもフリーラは言葉を口に出すことで決心したのか、少し目が険しくなり、話を続けた。


「そう遠くない将来、王国内で平民の大きな反乱が起きると思うわ。

  元々、一族は平民の魔力持ちを集めて、王都で内戦を起こす計画があったの。

  あなたには巻き込まれてほしくない」

「本当にそんなことが・・・?」


思わぬ内容であった。

マーガレットはただただ驚く他なかった。


「あなただけの胸にしまって。私はあなただから話すことにしたの」

「分かったわ。親友の私を信じて」


この言葉を最後に、守衛が扉の向こうから時間であることが告げられた。

そして、二人は、最後に別れの挨拶をして、マーガレットはこの場を後にしたのだった。


魔法世界メモ58

王城の地下牢の罪人とは?

プリビレッジの重罪人を収容する施設であるが、30人程度が今も収容されている。

平民は王令の魔力干渉で重罪が考えにくく、金銭の支払か奴隷落ちが事実上の刑罰の代替になるため、収容されるというケースはない。

プリビレッジの重罪人は一生牢獄で魔力の抽出のため、生き長らえさせる。


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