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第57話 魔女サリュル

シーシャス・オッスルは部屋に入るなり、フューゲルの姿を視認する。

これにはさすがに一瞬驚いた表情となった。


「お前は誰だ!なぜここが分かった?」

「近づくな!殺すぞ」


招かざる客が出現に、シーシャスも一歩後退りした。

フューゲルはそんなシーシャスに向け、ありったけの気迫で威圧する。


それでも、シーシャスは何かを感じ取ると、悪そうにニヤリとした。


「笑わせるなよ。魔力を感じない。お前はただの平民だろ?」


フューゲルがただの平民であり、絶対的な魔法の力の前では無力な存在であることを既に見抜いている。


「まぁいいわ。生贄が一人増えるのは歓迎よ」


フューゲルは怖気づくことなく眼光鋭く睨みつけるが、シーシャスは話にならないという顔をしている。


「アシェル、急げ!」


フューゲルはこう叫ぶと、シーシャスに正面からナイフをもち、突進していく。

まさに先手必勝というやつだ。


だが、あまりにも無謀だった。

シーシャスは案の定、フューゲルの動きを予測していたように、右手に握っていた杖を振りかざし、フューゲルに向けて即座に魔法を放つ。


ボン!


「ああああ」


次の瞬間、フューゲルの体が2メートルほど後方にふっとばされてしまう。

物理攻撃は全く届かず、無常にもシーシャスから放たれたどす黒い炎をまともに受けてしまったのだ。


「フューゲル!」


ちょうどこのとき、両腕を拘束していたロープをなんとかカットすることができた。

俺は両足と上半身を拘束している残り2ヶ所のロープのカットを急いだ。


「小賢しい」


シーシャスは俺の魔力を感じたようで、こちらの動きに気づいている。

そして、すかさず杖を振り上げ、フューゲルに放った黒炎の魔法を俺に向けても放ってくる。


ボン!


シーシャスの魔法が俺の左胸にクリーンヒットする。

その瞬間、激痛が走る。


しかし、魔法が当たる瞬間と同時に、拘束していたすべてのロープをすべて切断することができた。

そのため、激痛に堪えながらもなんとか立ち上がる。


一方、フューゲルはというと、魔法を近距離で受けたためか、わずかに意識はあるが、横たわって全く身動きができない様子だ。


俺とシーシャスの距離は約3メートル。

遮る障害物は何もない。


シーシャスは不思議そうな表情で俺のことを見ている。


「お前、魔導具まで隠し持って。一体何者?」


この問いに対して、俺は黙して語らない。


「お前はトリキトスの手先といったところかしら。まぁいい。

  助けが来る前にお前たちは我の贄になる」


シーシャスはこう言うと、物凄い威圧感を出してくる。

シーシャスからはこれまで感じたことのないまがまがしいまでの魔力を感じる。


 ―力量の差がありすぎる


このまま、正面からやり合ってもただ殺られてしまう。

なんとかこいつを出し抜く作戦を練る必要がある。

とっさに考えた。


「あんた相当強いだろ。物凄い魔力を感じる」


とにかく口を回せ。

シーシャスのことを指差し、少し笑いながらこう言った。


「へえ、力の差が分かるのか。ますます贄にほしいわ」


さらに、なんとか会話をもたせようと必死で知恵を絞った。


「俺の負けだ。だけど、贄になる前に一つだけ教えてほしい。

  あんた、一体何者なんだ?」


少し間があったが、シーシャスが鋭い眼光でありながらも勝ち誇った表情で俺の問いに答える。


「そんなに知りたいの?いいわ。冥土の土産っていうやつかしら。

  我が名はサリュル・レーガン。魔女の末裔といえばなんとなく分かるかしら?」


 ―魔女・・・?


何を言っているのか意味が分からない。

だが、ここで黙るわけにはいかない。


「あ、あんたが7年前の連続殺人の犯人なのか?」

「ああ、そうね。7年前くらいかしら?

  確かに、5人くらいの平民に贄になってもらったわ」


こいつが、やはりフューゲルがずっと探していた親の仇だ。

ようやくここまでたどり着けた。

だが、このまま無力にも殺されてしまったら、その苦労も意味がない。


フューゲルのためにもなんとか頭を必死に回転させる。

圧倒的な力の差もあってか、シーシャス、いや、サリュルは俺の必死な様子をにやけながら眺めている。


「あんたは王都で何をしたいんだ?魔女の末裔がここで何をしている!?」


何か本質に触れる問いだったのか、サリュルの表情が変わった。


「滅ぼすのよ。こんな王国。強力な魔法が完成してのお楽しみ」


サリュルがこの言葉を口に出したとき、とてつもなく背筋に冷たいものが走った。

想像を超えてくる大きな悪意を感じ、本能的に拒絶するほどの恐怖だった。


だが、それでも。


「ほ、本物のオッスル夫婦はどこにいる?」

「もちろん殺したわ。この界隈の平民には魔法で暗示をかけてね。

  我が長期不在の夫を待つシーシャス・オッスルを演じていただけ。もういい?」


そろそろ限界だ。

これ以上は余計な話には乗ってくれないだろう。


「じゃあ、最後に一つ」


だったら、ここで『隙』を作ってみせる。


「あんたの後ろにある異彩を放っている壺は一体なんだ?」

「壺?」


俺がサリュルの後方に雑多に置かれていた壺のような物体に向けて指さすと、サリュルも一瞬、後ろに気をとられた。


 ―今だ!


持っていた魔導具にありったけの魔力を込めて、サリュルに向けて思いっきり魔法攻撃を加えた。


ドスン!


全力であったため、持っていた魔道具からはものすごい風圧の一撃が放たれた。

その結果、部屋の壁を破り、大穴をあけ、周りにあった物も散乱し、ホコリが一面に広がった。


 ―や、やったか!?


だが、次の瞬間、ホコリだらけの視界の悪い中から、どす黒い炎が飛んできて、俺の左太ももに重いものが直撃したのを感じた。


「うううう」


あまりにも激痛に思わず声もでてしまう。

膝から崩れてしまい、立つこともままならない。

手に持っていた魔導具も衝撃でどこかに飛んでしまった。


「そんな古典的な攻撃が通じるとでも思ったの?」


声の方向に顔を上げ、霞む視界ながらも視線を送ると、魔法の防御壁で攻撃を防いでいたサリュルの姿。


「そろそろ死んでくれるかな?」


サリュルはそう言うと、1メートルほどの距離までゆっくりと足を進め、ひざまく無抵抗の俺に向けて杖を構えている。


 ―万事休すなのか?


もはやこの状況を変えるような小細工は思いつかない。

ただ、体の痛みが強く、意識を保っているのもしんどかった。

ただ一つ。死を覚悟するほかなかった。


だが、次の瞬間、神々しい光が建物中を照らし、ビビビという衝撃音が聞こえる。


 ー何だ!?何が起こったのか!?


部屋中に強い衝撃を感じた。

一瞬、自分がやられたのかと誤解してしまったが、俺の体に衝撃はなかった。

そして、男の野太い声が部屋の外から聞こえる。


「アシェル!生きているか!?」


この声は・・・エドワード?


「くそ、国王近衛隊か!」


サリュルから出たこの言葉が聞こえた瞬間、辺りが黒い霧で包まれ、スッという音がした。

続いて足音がいくつも聞こえてくる。


「逃げられてしまったか!」


黒い霧が少し晴れてくると、部屋にエドワード・トリキトスと国王近衛隊5人が、臨場していることが分かった。


 ―た、助かった・・・


これ以降の出来事についてはあまり覚えていない。

駆けつけたエドワードが俺とフューゲルを介抱してくれていたことは記憶にある。


後に聞いた話では、国王近衛隊が臨場してまもなく、俺もフューゲルも完全に気を失ってしまい、応急措置を受けたうえで、拠点にタンカーで運び込んだということであった。




魔法世界メモ57

魔女伝記とは?

おとぎ話で語られる典型的な悪役の魔女の話という点では似たような話であるが、魔法が存在する王国では、かのアーステルド1世の時代に実在した話と信じられている。

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