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第42話 代弁者という仕事

ついに二部代弁者編となります。

アシェルは目標にしていた代弁者として活動を始めます。

果たしてどのような活躍をしていくのでしょうか。

「アシェル、パリシオン両名を代弁者に任ずる」


この日、代弁者協会本部で厳格な雰囲気の中で任命式が執り行われた。


髪の薄い白髪交じりのふっくらした男から訓示を受け、代弁者の証であるバッジを授与された。

この男が現在の代弁者協会のトップ、協会長のようだ。


王国中枢養成学院を卒業してわずか1週間で、新しい道が始まった。

学生の気分のまま急に社会に放り出された感じだ。


儀式もあって代弁者としての新たな一歩が始まることを実感させる。

ここにたどり着くには5年の月日が必要であった。

それだけに、ただ感慨深いという心境だ。


だが、隣りに立つ学友であり、同期のパリシオンはというと、冷や汗をかき、不安と緊張でいっぱいの様子。


もっとも、訓示を受ける以外には何もなく、あっさりと任命式が終わってしまった。

任命式が終わると、近くで待っていた女が新人の俺達に協会内を案内してくれた。


「代弁者10年目のイザベルよ。よろしくね」


ロングの赤髪でメガネの容姿だが、髪の色と雰囲気がマッチし、明るそうな人だ。


イザベルに連れられて奥の小部屋に入る。

そこには懐かしいあの人物の姿があった。


「久しぶりだな」

「お久しぶりですね。ネフィスさん!」


俺に学院に入学することを導いてくれたネフィスだ。

顔を合わせるのも実に3年ぶりくらいだ。

だが、彼にはあまり変わった様子はなかった。


「君たちはもう代弁者の一員だ」


ネフィスがこう告げると、早速、代弁者の業務について新人の代弁者となった俺達に対し、説明を始めた。


代弁者の業務は大きく4つ

 ー平民からの相談

 ー王国への陳情

 ー紛争への介入

 ー国王面前裁判の申立(協会)


これらの業務を50人の所属する代弁者で回す必要がある。

正確には王都外に配属される代弁者が3割いるので、実質35人程度だ。

それなりに忙しいらしい。


一通り業務の説明があった後、ネフィスからある忠告があった。

これには和やかな雰囲気が一変する。


「君たちはなぜ代弁者になったのかい?」

「正義を貫くことのできる王国にしたいからです」


そう力強く答えると、パリシオンも頷く。

しかし、ネフィスは少しだけ俺達から視線を外す。


「残念なことだけど、代弁者協会も一枚岩ではない」


ネフィスの言いたいことをすぐに理解した。

代弁者の中にはプリビレッジに肩入れする者もいる。

いつの間にか平民の代表という初心を忘れていく者も少なからずいるのだ。

むしろ、協会内でもその勢力が徐々に強くなってきているそうだ。


学院でも代弁者協会の実情をなんとなく聞いていたし、それに平民の代弁者に対する期待もあまり芳しくないことを知っていた。

だが、自分がここから変えていく―


「プリビレッジからの誘惑に負けないでほしい。これが私の切実な願いだ」


ネフィスによる真剣な言葉は誓いを再認識させられるところとなった。


その後は、新人である俺達にチューターをつけるという話となり、ネフィスから紹介がなされた。

男が二人、部屋に入ってくる。


「彼はジムトリィだ。代弁者4年目で、パリシオンについてもらう」

「ジムトリィだ」


少しがさつそうな見た目のジムトリィがパリシオンのチューターとなる。

続いて、隣の男も紹介される。


「代弁者3年目のトーレスで、アシェルについてもらう」

「トーレスです。お願いします」


これに対し、俺のチューターは、銀色の髪でメガネをかけた細めで少し弱々しそうな男だった。


こうしてネフィスからの業務説明が終了すると、俺達はそれぞれチューターに連れられ、仕事ぶりを見学することになった。


俺はトーレスに従い、後をついて行く。

そのトーレスは協会の1階小部屋に入っていく。


すると、その小部屋には、50歳くらいの女が待っていた。

何か深刻な表情をしているように見える。

早速、トーレスが目の前で対応を始めた。


「今日はどのようなご相談ですか?」

「先日、父が亡くなったのですが、財産をもらうことはできませんか。

  兄が全部管理していまして」


どうやら、ありがちな相続の問題のようである。

相続というのは、人が亡くなった時に、その人の財産を誰が引き継ぐかという問題である。


学院で習った王令には、相続についてルールはなかったはず。

少なくとも自分の知識にはない。

一体、この王国では相続の問題をどのように決めていくのだろうか。

そんな疑問が頭の中に浮かぶ。


「お父さんは魔術契約を残していますか?」

「なかったと思います」


トーレスはこう質問すると、頭を整理している様子だった。


「となると、話し合いで決めてもらうことになります」


少し間をおいて、トーレスがこう説明する。

その言葉を聞くと、王国の相続が概ね想像がついた。


どうやら、基本は故人の意思を尊重するようだ。

仮に故人の意思が明らかでない場合、残された配偶者、子らで話し合いで決める他ない。

つまり、王令ではやはり、前世で習った民法のような緻密な設計をしていないようだ。


「話し合いが難しければここに来てください。代弁者が介入します」


トーレスがこう話すと、その女は少し胸をなでおろした様子で帰っていった。


その後、トーレスから相続について改めてレクチャーしてもらい、知見を深めた。

予想通り、基本的に、故人の意思又は残された者の合意で決められない場合、明確なルールがないため、第三者の介入の下、個々の事案ごとに裁量的に解決されるという話であった。


だが、その第三者が偏っている人間である場合、どうなるのだろうか。

言い換えると、当事者本人にとって納得のいく解決に導くことが可能なのだろうか。

相続ルールには客観性が欠けており、法制度としてはどうしても未成熟さを感じる。


トーレスいわく、代弁者の相談対応は、どのような問題であっても、王令をいかに理解しているかが鍵になるとのことであった。

代弁者としてやっていく以上、王令をよく勉強しておくことが業務の前提になる。

その王令も未成熟と言わざるを得ない以上、足りない視点を提言できるようにするため、もっと法そのものに関する知見を深めていく必要もありそうだ。


このようなやり取りを経て、初日は早めに業務を終了した。

パリシオンもちょうど帰るタイミングで、一緒に帰ることにした。


「初日はどうだった?」

「本当にわけがわからなくてパニックだよ」


パリシオンはいかにもという感じで頭を抱えている。

お互い新人であるため、学んでいく日々であることに変わりはないだろう。


この日、家に帰ると、マーガレットが訪れていた。


「おかえり」

マーガレットが笑顔で迎えてくれた。


社会に出て以前のように毎日顔を合わせることはできないが、それでも学院卒業後も、週2回は必ず会うと約束していた。


「マーガレット、そこのお茶っ葉とってー」

「どうぞ」


姉のカナディとももうすっかり打ち解けている。

父のトシェルと母のナーディアもマーガレットのことを娘のように接している。


「代弁者はどうだった?」

「だいたい想像どおりだった。マーガレットの方は?」

「同期のプリビレッジとは距離があって、居心地はあまりよくなかったかな」


しばらくマーガレットと新しい職場について感想を語り合った。

どの職場も紆余曲折ありという感じだ。


新社会人としての初日。

これから試練が多くあることだろう。



【魔法世界メモ42】

ネフィス 39歳

少し白髪交じりで、冷静沈着な性格。

代弁者歴24年のベテランであるとともに、代弁者協会の理事の一人であるが、最年少の理事である。


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