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第43話 陳情

代弁者になって1ヶ月が経過した。

この1ヶ月は、ひたすら先輩代弁者であるチューターの後を追う日々。

ようやく代弁者の仕事がなんたるかを理解できつつあった。


ある日、代弁者協会のトップ協会長からパリシオンとともに呼び出しを受けていた。


「業務の方は慣れてきましたか?」

「先輩のお陰で徐々に」

「ほっほっほ」


協会長の名はテレスという。

最近ようやく名前を知った。

滅多に顔を合わせることもない。任命式以来だ。


「王に陳情を提出することになるが、君たちも1つずつ案をまとめてみなさい」


用件はこれであった。


陳情というのは、代弁者協会から年に1度、平民からの要望として王城に提出するものだ。

各代弁者から案を募って、代弁者協会の理事会でふるいにかけたものを選ぶ。

陳情は、王国の様々な制度を変える機会を平民に与えたものといえる。


もちろん、陳情がそのまま採用されるわけではない。

だが、代弁者の仕事としてとても重要なものなのだ。


これはさしあたり、新人代弁者の最初の課題というところだろう。


「僕、何をすればよいか全然わからないよ」

「まずは先輩に話を聞いて情報収集をしてみようか」


協会長の部屋を出ると、パリシオンはあたふたしている。

さすがに、新人、それも1ヶ月しかキャリアのない俺達には何をすればよいか皆目検討もつかない。

ここは先輩に相談するのが得策と考え、行動に出ることにした。


「少しよろしいでしょうか」


俺たちが頼ったのはイザベル。

彼女は、10年目で経験も積んでいるので、相談相手として適当と考えた。

それに、何かと声をかけてくれる優しいお姉さんタイプであったため、声をかけやすかった。


早速、陳情案を提出することになった旨話すと、イザベルは目を丸め、少し驚いた様子であった。


「陳情案を出すのは4、5年目からよ。あなた達、期待されているのね」


これは少し意外であった。

まさかそんな大変な期待を受けていたとは。


だが、協会長からの指示である以上、やる以外に選択肢はない。


イザベルには、陳情について説明をしてもらい、コツを色々と教えてもらった。

簡単に言うと、足でデータを集め、論理的に結論を導くことが鍵のようだ。


これからしばらく忙しくなりそうな予感がした。


こうして、チューターの業務に立ち合う合間に陳情制作を進めるという日々が始まった。

だが、何をテーマにすべきか、なかなか考えがまとまらない。


王国の制度を変えるために意見をするとすれば…。

これまでの人生経験で一番ショックだったのは公証人という制度だ。

これは十分、陳情のテーマとして値すると思う。


公証人は、平民に生じたあらゆる紛争を決めることのできる権限を持つ。

当然、その紛争にはプリビレッジとのものも含んでいる。


だが、公証人自身がプリビレッジであり、また、公証人の裁量が大きすぎるため、このプリビレッジ至上主義の世界ではとても公平性が担保されているとはいえない。

実際に、幼い頃、その現実をあの公証場で目の当たりにした。


「だけど、これはプリビレッジによる支配制度の根幹の一つと言える。

  今の自分では…」


思わず、独り言が漏れてしまう。


プリビレッジとの利害対立が激しいテーマは、権力がなければまず実現できない。

平民がただ要望するだけでは、見通しは暗い。

それに、代弁者協会の中でも新人がこんな内容を提案しても、理事会で一瞬ではねられるだけだろう。


そうすると、今回自分が選ぶべきテーマは利害関係が小さいが、客観的にみて妥当ではないといえる制度を取り上げるべきだ。

 ーあれしかないだろう

自分の中にその心当たりがあった。


俺は陳情として提出するテーマが決まったため、次の日から早速行動に移った。


ひたすら戸別訪問を繰り返し、平民から意識調査を行う。


「代弁者ですが、お話を聞いても大丈夫でしょうか?」

「は、はい」


突然の訪問であったが、多くの家主は応対してくれた。


「あなたの家にとって、税負担は重いでしょうか」

「子供が3人いると、重いです。せめて働けない子供にまでやめてほしいわ」


そう、俺は戸別訪問を通じて、平民に課せられる税の問題について意識調査を行っていた。


予想通り、家族の中に働き手でない人数が多い場合、税金の負担が厳しいという回答を多く得た。


「育ち盛りの子供には食べさせてあげたいのだけどね」


特に、この言葉は胸に刺さった。


王国が平民に課す税は杓子定規に人に対して課税する。

これには例外がない。

つまり、家族が4人いれば、子供や老人が3人いても、4人分の税金を毎月収める必要がある。


しかし、それでは働き手がいるかどうかで、実質的な税負担が変わってくる。

ただでさえ、税負担が大きいのだから、生活に窮してしまう。


自分としては、働き手の数を踏まえたうえで、公平な設計とすべきであるとかねてから考えていたのだ。


だが、中には回答に協力的でない平民もいる。


「代弁者だと?話すことは何もない。プリビレッジの犬だろ?」


粘り強くお願いしてみるのだが、その一点張り。

終いには暴言をはかれ、追い返されることもしばしばだった。

代弁者は必ずしも信任されているわけではないとつくづく痛感する。


だが、こんなことでめげるわけにはいかない。

何かを変えるには苦労がつきものだ。


その後も、来る日も来る日も戸別訪問を繰り返した。

気づけばそれから2ヶ月ほどが経ち、訪問数は2000軒を超えていた。


王都限定ということになるが、平民の人口分布に偏りが出ないように戸別訪問をしており、統計的にも使える数に至ったと判断した。


これで十分なデータが集まった。

ここからは論証の時間だ。


このときには、陳情案の提出期限まで、残り2週間しかないため、急ぎまとめる。


机でその作業をしていると、パリシオンが声を掛けてきた。


「陳情の方は順調?」

「なんとか締切に間に合いそうかな。パリシオンは大丈夫そう?」


パリシオンの進捗具合に話を向けると、パリシオンは浮かない表情となった。


彼の話を聞いてみると、選んだテーマは平民の医療水準向上のため専門の医学教育施設を作るというものであった。


そのテーマ自体は当然賛同できる。

実際に、王国における平民の医療体制は十分でなく、改善の兆しもない。


そもそも、教育を受けることのない平民に医師はいない。

そのため、医師はプリビレッジしかおらず、基本的には医師から医療行為を受けられるのはプリビレッジのみだ。

平民は薬師もどきから医療行為を受けることができる程度であり、はなから高水準の医療とは無縁である。


だが、それを変えるということは、一から医療従事者を育てる仕組みが必要になる。

それに、王国中枢養成学院に通う平民自体わずかであり、平民に基礎教育から行き届く必要がある。


莫大な予算が必要であり、王国が平民のために予算を使うとは思えない。

つまり、とても簡単に実現が可能なテーマではないのだ。


だが、新人代弁者はこうした現実を分からないのも無理もないし、今回の陳情からパリシオンが学ぶことは多いだろう。


パリシオンとの会話が終わると、この日も作業に集中した。


そして、数日を経てついに完成する。


俺の陳情案はこうだ。


『未成年者及び60歳以上の者には課税を行わず、代わりに労働者1人あたりの税を増額し、税総額を変えない』


この案は理想と現実の調和を図ったものであった。


「ふぅ。なんとか形にはなったかな」


ようやく完成した陳情に安堵し、張り詰めていた気持ちが少し和らぐ。


2日後の理事会でどのような判断が下されるかはわからない。

だが、自分の持てるものをすべて出せたという自負はある。

堂々と自分の陳情を貫いていけばいい。

魔法世界メモ 43

代弁者協会協会長とは?

代弁者協会のトップであり、王城との折衝は協会長を通じて行われる。

協会長は3年に一度の選挙で選任される。

現協会長のテレスは5期目であり、15年間、協会長の役職を守る。


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