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第36話 囮

今日も暇だ。

学院にある王族専用棟にこもって七日目になるが、事件は一向に進展していない。

地下室に閉じ込められているだけあって、外の空気もなかなか吸うことができず、心が徐々に病んできていると実感する。

自分なりに事件の背景について考えを巡らせるほど、違和感ばかりが積み重なっていく。


犯人が学院内部の人間であることは、学院に外からの侵入を防ぐ魔力結界があるため、ほぼ間違いない。

だが、教師の線はすでに消えているらしい。

魔力分析を含め、アリバイ確認などの捜査に全員が協力しており、白と断定されたと聞いている。


だとすれば学生の犯行という話になるのだが、子供にあれほど残忍な犯行ができるだろうか?

仮にそれが可能だとしても、動機が見えてこない。

少なくとも、単独であれほど残忍な犯行に出るほど強い動機を形成できるとは思えない。

必ずどこかで、大人の介入があったはずだ。

事件の背後には、もっと大きな何かがある。

そんな予感が、頭から離れなかった。


コンコン。

ドアを叩く音が響く。

予想通り、姿を現したのはニコル・アーステルドだった。


ニコルは椅子に腰掛けると、すぐに話を切り出した。

「ウィル・ハーモスを巡る権力争いの線は、今のところ出てきていない」


最もありそうな話がプリビレッジの派閥抗争だ。

プリビレッジ間では常に権力争いが水面下にあると聞いている。

そのため、4大派閥の1つ、ハーモス家の子息を狙ったという筋書きが一番しっくり来る。

だが、どうやらそのプリビレッジ同士の抗争が原因ではないらしい。

だとすると―


「プリビレッジという制度そのものが動機、という可能性はありませんか。

  有力家の子息が被害者だった点を考えると」

俺は、なんとなく確証のない考えをそのまま口にする。


「確かに……今回の事件にはそれだけの異常性がある」

ニコルもこれに同意した様子で頷いた。


「もし制度への敵意が動機だとしたら、事件はまた起きるかもしれない。

  次に狙われるのは……」

そこでニコルは言葉を止めた。

だが、続きを聞かずとも答えは分かっていた。

仮説が正しいとすると、王国の象徴であるニコル自身が、最も危険な存在だ。


「でも、その仮説だと、犯人は平民の学生じゃないのかい」

俺はニコルからの思いがけない言葉に一瞬硬直する。

だが、冷静に考えればそれはありえない。


「それはないと思います。魔法を使えたのは、僕だけでしたから」

少なくとも、俺の知る平民学生の中に怪しい者はいない。

……そう信じたかったし、疑いを持ったことも全くなかった。


「とにかく、ニコル。絶対に一人で出歩かないでください」

だが、この仮説もありえなくもない以上、ニコルが不用心に動くことは避けるべきである。

俺は思わず強い口調になる。


それでもニコルは、まるで意に介さず呟いた。

「じゃあ、僕の居場所を噂で流すのはどうだろう」


そんなこと愚策だ。

自分がどれほど重要な存在か、まるで分かっていない。


「相手は相当な手練れかもしれません。絶対に駄目です」

「平気さ。護衛はつける。それに、君もいるだろ?」

……本当に大丈夫なのか、この王子。


それから数日後、ニコル、エドワード・トリキトス、ラフィーナ、そして俺の四人で改めて話し合いが行われた。


「やはり、僕が囮になるしかないね」


当然、王城を初め、エドワードたち側近の猛反対もあったが、このまま犯人を学院内に潜ませ続ける方が危険だという判断が下された。

そして、エドワードと精鋭を護衛につけることを条件に、囮作戦が実行されることになった。

俺自身はそれでも反対であったが、そこは権力者たち。

とても反対できる雰囲気ではなかった。


その翌日から、夕方以降、誰もいないはずの学院内をニコルが一人で歩く。

分かりやすい囮作戦を決行することになった。


ニコルの三十メートル後方を、エドワードと護衛二名。

さらにその十メートル後ろを、俺が見張る。

決して犯人に護衛の存在を感づかれてはならない。

だが、数日経っても犯人は現れなかった。


「さすがに警戒するか」

ニコルの呟きが、やけに軽く聞こえた。


そして話し合いの結果、この作戦は本日を持って打ち切られることになった。

つまり、これが最後の囮だ。


日が沈み、学院はオレンジ色に染まっていく。


「殿下、不審者が出たら防御を最優先で。会話で時間を稼いでください」

「分かってるよ」

エドワードが毎日行っている最終確認を行う。

可能性は低いとはいえ、この時ばかりは緊張感があった。


ニコルが王族専用棟を出る。

学院内には人影がなく、異様な静けさが漂っていた。

少し遠目にニコルがリラックスして歩く様子。


学院内の、並木通りにニコルが差し掛かったその時だった。

エドワードが慌てて合図を送る。

これは不審な人影を発見した時の合図だ。


全員に緊張が走る。

俺からも遠目に、黒い影が見えた。

次の瞬間、エドワードが再び合図を送り、全員が走り出した。

 ―ついに来た



【魔法世界メモ36】

学院内の魔力結界とは?

王国中枢養成学院はエリートであるプリビレッジの子息が通うため、堅固な魔力結果がはられており、学院長の許可なく入ることができない設計となっている。

教員や学生たちなどは入学時に魔力刻印を打たれており、結界を自由に行き来できる。

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